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青春色のキーボード
僕は白花 葵音(しらはな あおと)。中学1年生。夢は何かのバンドのメンバーになること。
「えっ…軽音部あるんですか!?」
「そうよ、入るの?」
僕は中学に入学して部活に迷っていた。
一覧表を見ると、憧れの軽音楽部があった。
「今年度新しく出来たんだけど人数がねー。続くかは分からな…」
「僕、入ります!」
「先生はおすすめしないけど…分かったわ。顧問の先生に伝えておくから」
「ありがとうございます!!!!!」
やった…これで夢に近づくんだ!
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「葵音、何部入るの?中学」
母さんが夕食の食器を洗いながら訊く。
「ん…軽音部」
僕は戦闘系ゲームをしながら答える。
「えっ…ちょっと葵音言ったじゃない。将来の夢がバンドっていうのは…現実的じゃ…」
「今、部活の話してたじゃん、将来の夢関係ないし」
「なんで反抗するかな。お母さんはあなたのこと考えて…」
「もういいって」
僕はゲーム機を持ったまま部屋に行った。
「ホント、思春期なんだから…」
最近の母さんの口癖はこれだ。
僕が怒ってるのはそういうことじゃない。
思春期じゃなくても、絶対言い返してた。
「夢なんて叶うか分からないんだよ。」大人はそう言うけど、じゃあ叶わないかも分からないじゃん。
だから…決めつけないでほしい。
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「失礼します。新しく入る白花です。」
僕は自分でドアを開けずに待機した。
ここは軽音部の部室…音楽室だ。
「ほいほーい。葵音ぉー入ってきなって」
えっ、タメ語?
ガラッ…
「俺だよ、同クラの湯浅 大志(ゆあさ たいし)。」
あぁ~。
あのお調子者か。
クラスでのあだ名は、宿題忘れマン…ノリノリピーポー…最新型掃除機とか。
あ、ちなみに最新型掃除機っていうのは大志の食べる弁当の量がすごいっていうとこから来たあだ名。
てか、こいつも音楽好きだったのか…意外。
ドアを開けて中に入ると、大志とは別に2人男子がいた。
「おっ、後輩」
「大志のクラスメートか」
他の二人は2年と3年の先輩みたいだ。
「俺、2年の那津(なつ)!」
元気なタイプの人だな…。
「3年の怜雄(れお)」
怜雄先輩はなんか…那津先輩を太陽としたら月って感じ。
「じゃ、さっそく入部試験だなー」
「にゅ、入部試験?」
なんだそれ?
「何の楽器にする?」
僕、二つしか演奏できないんだけど。
「じゃあ…キーボード」
「「「おーっ」」」
「なんだよ『おーっ』って…」
「いや、今のところいなかったからさキーボード。結構大事だから…」
「じゃ、これ弾いてよ」
先輩…那津先輩に渡されたのはベートーベンの『月光』。
僕が小さい頃に習っていたピアノ教室の発表会で弾いた曲だ。
これはいける!
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「おー」
「結構いいじゃん」
「ミス0だし暗譜してる」
先輩&大志からの反応は良く、余裕の合格だった。
「大志は何の楽器なん?」
「え、俺?ギター」
「俺はドラム!4歳からやってる!」
え、すご那津先輩。
ベテランじゃないですか。
「じゃ…怜雄先輩が…」
「ボーカル」
やっぱり…そうなるしかないよな。
「曲考えるのも怜雄なんだよー」
「へぇ…」
「ぼさっとすんな。はい楽譜」
サバサバしてる怜雄先輩に楽譜を渡された。
…え、おかしくない?
今、僕がキーボードって決まったんですよね?
なのにこれキーボードの楽譜…。
「怜雄先輩、僕がキーボードなの予想してたんですか?」
「いや、他の楽器と言おうとやらせる気だったし」
サラって言ったけどさ…お、鬼ぃ…。
今更練習は遅すぎますって。
でも…なかなか楽譜はちゃんとしてる。
楽器を知り尽くしたような…うわっ手汗ヤバ僕。
「え…激ムズなんですけど」
「怜雄先ぱぁい…ここもっと簡単に…」
「ダメだ。練習しろ」
お、鬼ぃ…。
「じゃ、お先」
え…怜雄先輩帰ったんですけど。
「大志…怜雄先輩は?」
「あー。なんかこの後ボーカル専門の塾と、ピアノ教室とギター教室あるらしくってさー。」
鬼である上にストイック…。
帰ったと思ったらドアの隙間から怜雄先輩が顔を出した。
嫌な予感。
「あ、明日には完璧に暗譜して合わせるからー」
お、鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
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僕は家に帰ってすぐキーボードの練習をした。
嫌なことにすぐ母さんが入ってきた。
「葵音…部活?」
「………」
どうせまた諦めろ諦めろ言うんだろ。
「ちょっと聞いてるの!?」
母さんはブチギレてキーボードのコードを抜いてしまった。
「何するんだよ、練習してるんだけど」
ここは大人っぽく怒らないようにする。
「はぁ…。何も分かってないのね。今夜お父さんに言ってやるんだから」
父さん今日出張だし。
僕は母さんが部屋を出たのを確認してコードを差しなおした。
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「ふぁぁ…こんにちは」
今日は土曜日。
長い部活の始まりだ。
僕が入ると怜雄先輩が一人、練習していた。
音楽室の時計を見ると、まだ集合時間じゃなかった。
来るの早すぎたかな…。
怜雄先輩は発声練習をしている。
昨日から思ってたけど…なかなか声量がある。
「あ、いたの?」
あ、気づかれてなかった僕。
恥ずかしくない?
一人で歌ってたと思ったら人いたの。
「覚えてきたか?」
あ、恥ずかしくないんですね、はい。
コンコン…ガラッ…
知らない女子が部室に顔を出した。
「あの…失礼します。軽音楽部って今日活動日ですか?」
「待ってろ…誰だ?」
ちょ、先輩来た人に誰だは失礼ですよ。
「あぁあぁ…すみません!」
「ほら~、怖くて帰っちゃったじゃないですか…」
「ごめん」
もしかして先輩…女子苦手?
しーん…とした音楽室に二人がやっと来た。
「おっ、早いね葵音ぉ」
「俺…徹夜で暗譜した」
僕はさっきの女子が気になりながらも練習を始めた。
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「解散!」
「疲れたー」
午前9時から始まった練習は、昼休憩を挟んで午後6時まで続いた。
「葵音、さっきの女子追いかける」
「いや遅いですよ」
そう言いながら僕がドアを開けると…いた。
ドアの横にもたれるように座って眠っている女子…さっきの。
「おーい、ここは家じゃないぞ」
先輩が激しく揺する。
もっと優しくしましょう(泣)?
「ん…はっ!すみません帰りますっ…」
あー、また逃げられた。
先輩なんで追いかけないんですか…。
僕は代わりに走って追いかけた。
「捕まえたっ!入部?」
「…はい。でも…」
「大丈夫!楽器はまだ空きが…」
「そうじゃないんです!…私、音楽室に入ったとき絶句しました。女子が一人もいないなんて…不安で悲しくて」
「そんなの大丈夫だって!怜雄先輩は鬼だけどみんな優しいよ!」
「…本当です…か?でも、私親に現実的じゃないから諦めろって…」
「えっ…」
同じだ。
バンドやめろって?
そんなこと…聞いてられっか!
「大丈夫!一緒に叶えよう!分からないけど…でもきっと上手くいく!」
「…やってみます!入部させてください!」
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「お父さん…葵音が…」
父さんが出張から帰ってきた。
「葵音…頑張れ」
「えっ…!」
え、なんでどゆことええええええ!?
「父さんは…お母さんと違って応援するよ。その方が頭良いだろ?」
「ちょっとあなた何言って…」
「もし、お母さんが間違ってたらお父さんがカバーしないといけない…二重回答ってやつだ…あ、入試は二重回答ダメだからな」
屁理屈…?
「はぁ…」
母さんは呆れてる。
「飽きずにやるのよ。やり通すのよ、葵音。」
それだけ言って母さんはどこかへ行った。
…ってことは…許可!?
その日はとても嬉しかった。
--- 10年後 ---
僕たちは「Blue spring」というバンドとしてデビューした。
一人も欠けることなく、諦めることなく。
ただひたすらにがむしゃらに楽器を鳴らし続けた。
シリーズ二作目!次がラストです!ファンレターお願いします😢