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君と歩いた道
2025/6/9 18:41:18
・君と歩いた道
君と歩いた道は、世間にとっては無名である。
通学路という名の無名。中学校からの放課後だったと思う。
その道中、駅の北口付近でイベントを目撃した。
それは、線路の向こう側へ行こうとする悪ガキたち。
今ではちょっとどころかどこにも見かけない。不良だった。
授業をサボり、校舎の片隅でワルをやって、吸い殻を足で踏み潰して消している連中だ。生徒指導の先生に見つかったら、しょんぼりするどころか生意気な|蹲踞《そんきょ》の格好で悪態をつく。学ランのボタンは全開、黒のスラックスはだらだら。学校というものをバカにした、未開社会の文明だった。
そんな不良に憧れた中学生が、5人くらいの徒党を組んで、道路と線路を区切るフェンスを乗り越えようとする。
あっ、と僕も思った。君も思っただろう。
けれど、止める間もなく、入って注意を呼び止める仲でもなく、距離もなく。いわゆる危ない香り、臭いラフレシアには億劫だったから、通行人のままだった。
手慣れたやつが先に入り、乗り越える。「おい、早くしろよ」とくすんだ緑のフェンス越しに徒党を急かす。小柄の坊主がフェンスの網目に絡まって、手足が引っかからずにガシャンと鳴った。それを怒るどころか喜んでいた。たぶんきっと。怒られるかもしれないことに欲求不満だったのだろう。
若干|躊躇し《もたつい》たが、20秒以内に踏破した。それからは、マリカーの「カラカラさばく」のステージみたいに、線路を通って近くのホームへ走り出す。無銭乗車。改札を通らないヤツら。
降りる時はバレると思うが。
きっと怒られるだろうなー。と思いながら、君と無名の通学路を青春色にした。