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5.勇気
罪木蜜柑はいつもと同じように、学園の校門をくぐった。
しかし、いつもより少しだけ胸を張って歩いているような気がした。
そう、彼女はまっすぐ前を見据えていた。
…そう、イヤホンから流れてくる、『ペルソナ4』のゲーム実況だった。
実況者の声はなく、流れるのはゲーム内の音声だけ。
まるで自分が、主人公の『罪木 音』としてその場に立っているような臨場感。
特に、今は足立透とのコミュニティイベントのシーンが流れていた。
彼のどこか軽薄で、しかし時折、鋭い本質を突くようなセリフ。
そして、その裏に隠された孤独と葛藤。
イヤホンを通して、彼の声が直接、罪木の心に響く。
「な、なんだか…私が、直接足立さんと話しているみたい…!」
罪足立のセリフを、まるで自分だけに向けられた言葉のように感じていた。
それは、現実世界では決して得られない、特別なつながりだった。
「だ、大丈夫ですよ…!私、足立さんのこと…ちゃんと分かってますから…!」
周りの生徒たちに聞こえてしまったら、変な目で見られるだろう。
そう考えると、いつもなら身がすくんでしまう。
しかし、彼の声に励まされているような気がして、罪木は平気だった。
足立との会話は、学園の空気も、視線も、全てが遠いものに感じられた。
まるで、自分が『ペルソナ』を召喚し、心の影と戦っているかのように。
登校中のほんの短い時間だったけれど、彼女は確かに感じた。
『ペルソナ』の世界を通して、自分の弱さと向き合う強さを手に入れていた。
今日という一日を乗り切るための、ほんの少しの勇気。
それは、ゲームが与えてくれた、かけがえのない贈り物だった。
罪木は、耳元で響く足立のセリフを噛み締めながら、今日も一日、
希望ヶ峰学園という名のタルタロスへと足を踏み入れた。