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旅の終着点
満開の桜もやがては散っていくように、時はどんどん過ぎ去っていく。
私が生きる気力を失い、滅多に外にでなくなってからも、何度も桜は花開き、散り、青々とした葉をつけ、それを落としてきたのだろう。
でも、私の時は止まったままだ。
あの人がいなくなってから、私の時は止まったままだ。
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あの人は別れ際まで、ずっと私を心配してくれていました。
あの人はとても優しい人だったので、私を1人残して行くのを、心配していたのでしょうけれど、そのとおりね。
あなたがいなくなってから、私は抜け殻のようになってしまったわ。
生きることを諦めたってこういうことね。
あの人とは別れ際に約束を交わしました。
「必ず君へ会いに行く。」
私はその言葉を信じて、今でも待っています。最後の時まで待つつもりです。
でも、なるべく早く来てほしいですね。
私に残された時間はそう多くは無いのですよ。
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ああ、また冬がやってきますね。
桜は枝だけになって、うっすら霜が降りているときもあります。
枝だけになっても、桜は桜ですね。その風格は揺るぎないものです。
あなたはまだやって来ないわ。
でもあなたはきっと忙しいのでしょう。
大丈夫。もう少し待ってあげますから。
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「12月24日、午前9時20分。御臨終です。」
静かに医者が告げた。
狭い病室を、重い悲しみが支配していた。
「ばあちゃんは、ずっと待ってたんだんだよなあ。」
そういったのは彼女の親戚の1人だ。
「ばあちゃんは、戦争に行ったきりで帰ってこなかったじいちゃんを、ずっと待ってたんだよなあ。」
鼻を啜る音が響く。
「きっと今頃は、」
「じいちゃんと二人で再会を喜んでんのかな。」
病院のベッドに横たわる彼女は、とても幸せそうだった。