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# 憧 れ
今ぼくの足の下が
あの憧れの場所だなんて信じられない
もう来れないかもしれない
そう思って強く踏みしめながら歩いた 。
もう来れないどころかこの試験でぼくは
命をおとすかもしれない 。
ぼくは別に自分の死は怖く無い 。
親友が 、せなが 。
今隣で歩いているせながいなくなってしまったら 。
それが例えばぼくのせいだったら 。
そんなの絶対耐えられない 。
何があろうとせなだけは守る 。
そう決めていた 。
守ると言っても自分に何かができるとは思えないが 。
きっと出来る事はあるはずだ 。
たぶんね 。
「 なぁ 、るい 」
「 どーしたの 」
「 緊張 、してるか ?」
「 なんか実感が湧かなくて 、緊張すらできてない 」
「 同じや 、なんか夢みたいで生きてる心地もせーへん 。」
「 生きてる心地もしないって 、緊張してるじゃん 」
「 そーなんかな 、るい 、俺のほっぺた叩いてくれへん ? 」
「 あー 、夢じゃないか確かめたいの ? 」
「 おん 、本気でやってくれてもええで 。」
「 じゃ 、遠慮なく 」
--- べちん ッ ---
「 あ"あ"あ"あ"あ"あ" い"ッ"ッた !! 」
「 ああごめんやりすぎた ?」
「 阿呆なんか お前 っ !! さすがに痛いわ !!」
「 ごめんね ? もう一回叩いてあげようか ??? 」
「 やだ ッ もう夢ちゃうことはわかったから !!やめろ !!」
「 はいはい わかりました ー 」
「 ちょ ッ おま ッ 追いかけてくんな" ッ ぎゃあ"あ"あ"あ"叩かんといてー !!」
「 は"ぁ 、お前のお陰で試験の前にめちゃめちゃ疲れたわ 、」
「 あ 、試験 。忘れてた 」
「 お前まさかほんまにあほなんか 、? 」
少し引いた表情で此方を見るせな 。
もちろんだ 。忘れる訳がないだろう 。
20分は歩いただろうか 。
結構遠い 。
もう足がふらふらだ 。
「 はー 、もうすぐだね 」
「 そうやな 」
どんどん時間が迫ってくる 。
もう後戻りはできない 。
覚悟できてた筈なのに 。
一歩一歩近づく感覚と時間が刻々と迫り 、もう戻れないと言われているような感じ 。
やだな 。
あほなのかな 、ぼく 。
今ぼくはどんな顔をしてるだろうか
緊張で手が震えている 。
心臓がこれでもかというくらい動く 。
さっきまでは普通だったのに 。
急な変化に驚き 、余計心臓が動く 。
「 お前めっちゃ緊張してるやろ 」
真剣な顔でこっちを見てそういうせな 。
「 そーかもしれないな ー 、」
あまり心配されないように笑いながらいう 。
「 何があっても俺が守ったる 。大丈夫やで 」
弾けるような笑顔 。
こんな筈じゃない 。
ぼくはふざけて言ったのに 。その筈なのに 。
そんな真剣に 、真剣な顔して言わないでよ 。
こんなの求めてない 、
今回もまた 、救われたな 。
「 ありがとう 。せな 」
声が震えてしまった 。
心配かけたくなかった 。
笑って言ったつもりなのに 。
せなの言葉があまりにも暖かすぎて 。
かためてた涙も全部溶かされてしまった 。
溢れ出ないように 、我慢しなきゃ
大きな塊を飲み込むような 、そんな感じがした 。
我慢しろ 。ぼく 。
大きな塊を飲み込んで
我慢する時は何時だって苦しい 。
こわい 。
こわいよ 。
涙が目に溜まっていく 。
見られたくない 、こんなかっこわるいとこ 。
顔を背けた 。
なんでぼくはこんなんになってるの
なんで 。
やっぱりぼくには 、向いてない 。
「 へ 、っ !? 」
ぼくの手が暖かいものに包まれる 。
せなが顔を真っ赤にしてぼくの手を握ってくれていた 。
「 ごめん !! 嫌やった ? 」
慌てて手を離すせな 。
ぼくはその手を掴んで 、繋いだ 。
暖かかった 。
「 ありがとね 、安心できる 。」
「 そうか … 」
自然と表情が和らいでいくのを感じる 。
せなの気遣いが心を溶かしていく 。
やっぱりぼくは 、せながいないと生きていけないのかもしれない 。
目の前に大きな建物が近づいてきた 。
ビルのような高い建物だ 。
厳重に警備されている 。
もうすぐだ 。
「 実戦試験を受けにきた方ですか ? 」
重そうな服を着た警備員から話しかけられた 。
「「 はい 」」
ぼくたちは同時に言った 。
思わず顔を見合わせる 。
「 では 、此方から中へ御入り下さい 。ようこそM C E Cへ 。」
『 M C E C 』
もう 、来てしまったのだ 。
門をくぐる 。
そこには 50 人位の人が居た 。
此処の人は全員覚悟を決め 、此の土地へ来たのだろうか 。
「 其れでは試験を始める 。」
「 俺は 、M C E C 副市長の “ 桐木 匠 ” 」
「 どうぞ宜しく 。」
副市長は身長が高く 、青くて綺麗な目をしている 。
冷たくて凍りそうな目 。
鼻は高く 、整った顔 。
眉間の辺りには傷があった 。
戦った時についたのだろうか 。
雰囲気も傷も 、かっこよかった 。
流石だ 。
やっぱりぼくはこういう人に憧れる 。
「 此処からはいつ死んでも可笑しく無い 。」
「 もう試験が始まったら後戻りは出来ない 。」
「 半端な覚悟で来た奴は 、もう帰れ 。」
「 此処では自分が死にそうでも 、誰も助けてくれねーぞ 。」
「 覚悟は出来てるんか お前ら 。」
一斉にはいと言う返事が返る 。
ぼくの返事は小さく地面に落ちて消えていく 。
心がぐらぐら揺れ始める 。
ぼくは大丈夫なのだろうか 。
「 其れではまず 、」
「 お前らが着けてる腕時計にお前ら其々に合う戦い方が送られてくる 。」
--- ぴこん ッ ---
「 其れを見ろ 。」
--- 試験番号82番 るいさん ---
--- 貴方はドローン操縦型です ---
「 ドローン操縦型は俺の所へ来い 。」
「 俺が担当だ 。」
「 その他はあっちだ 。」
「 刀型は市長が担当してくださる 。感謝しとけ 。」
「 銃撃型は一人ずつ担当員がつく 。 」
「 十分後に其々の担当のところへいけ 。」
副市長の話が終わりざわざわしはじめる 。
「 今から練習するのかな 」
せなにはなしかける
「 多分そうやと思うで 」
「 なんか一日中練習するらしい 」
「 え 、長 」
「 無駄に死なせたくないんやろ 、多分 。」
「 なんだよーめっちゃ緊張しながら此処迄来たのにー 」
「 ほんまそれ 。俺の緊張返せって感じ 」
「 次会った時にるいはどんなんになってるかなー 」
にや っと笑いながらせなは言う 。
「 疲れ果てて幽霊みたいになってるよ 」
「 楽しみにしてるわ 」
ふたりで顔を合わせて笑う 。
やっぱりぼくはせなが …
いや 、何でも無い 。
「 よし 、そろそろ担当のところへいけ 。時間だ 。」
「 せな 、がんばろうね 」
「 おん 、るいもな 」
そう言いハイタッチをする 。
此れからあるのは練習のみ 。
きっと死にはしないだろう 。
たぶん 。
「 あ"あ"あ"あ" つ"かれた" !!!! 」
自分の今日泊まる部屋のベットへダイブする 。
ほこりが舞う 。
死にはしない 、なんて言ったが死にかけた
ドローンを操縦するには
想像力 、集中力 、判断力 などなど
色々な力を使う 。
此れが出来ないと操縦出来ないらしい 。
副市長はそれを難なくこなしていた 。
何匹もの鳥型ドローンを一斉に動かしていた 。
此れがどれ程難しいかきっとやってみなきゃ判らないだろう 。
ぼくには向いていないのかも知れない 。
そんなことを思いながら今日の失敗を思い出す 。
「 おい試験番号82 !! よそ見すんな !!!!! 」
「 はひぃ !!! 」
「 試験番号82 、まだ一匹も操れないのか … ?」
「 え 、えへへ 〜 … 」
「 るい!!!お前には体力が必要だ !!! 練習場10周してこいあほ !!!」
「 え" 、はい … 、了解です …」
俺が余りにも出来なかったようで 、
副市長に名前を覚えられた 。
いいのか悪いのか …
「 はー 、 」
手をおでこにあてる 。
疲れた 。
こんなんでぼくは誰かを守れるのだろうか 。
せなのこと 、まもれるのかな
「 おい消灯時間だ 早く寝ろお前なんかのために電気代払うかよあほ 」
「 あ 、なんだ副市長か 、」
「 あ"? なんだ副市長かってどういうことだよ 無能野郎 」
「 無能野郎ってひどいじゃないすか 」
「 んなことねーだろ事実だ事実 。さっさと寝ろ無能 」
そう言って勝手に電気を消して部屋を出ていった 。
無能か 。
確かにな 。
でもぼくだってがんばったよ 。
一生懸命やったよ 。
初めてだからしかたないじゃん
初めてにしてはすごいじゃん
いや 、言い訳はだめだ 。
今のままでは本当に命がなくなる 。
目を逸らしてはいけない 。
絶対に生き抜くから 。
その覚悟で此処に来たから 。
「 お"い 無能 !!!さっさと起きろ !!!」
「 全員朝飯くってるぞ !!!」
「 んああ ふくしちょーだあ 」
「 もう起こしにこねーぞ !!試験受けられなくても知らねえからな !? 」
「 やああああだあ 」
「 あ"あ"あ"む"かつく" !!!!!!早く起きろや!!!! 」
「 叩かないでえええ 」
「 ぃただきます 、」
白米 、味噌汁 、納豆 。
全て平らげ 、自室に戻り 、準備体操をした 。
あと30分で試験 。
ぼく 、しんじゃうかなぁ
“ 死にたくない ”
あと 20分
あと 15分
あと 10分
残り 、1分 。
「 実戦試験はじめ 。」
「 よっしゃ 、るい 、いくぞ 」
「 うん がんばろ 。」
もう 、始まってしまった 。
あんなに緊張していたのに 、
今となってはやけに落ち着いている 。
まずは一匹の鳥型ドローンから操作する 。
前方に|『 敵 』《エネミー》
せなは僕の後ろの|『 敵 』《エネミー》を倒しに行っている 。
ぼくはこいつを倒す 。
思った以上の|『 敵 』《エネミー》の数 。
そして種類 。
柔軟に対応する力がないと無理そうだ 。
一瞬で|『 敵 』《エネミー》の攻撃の仕方と弱点を見破らなければ 。
ドローンを敵に向かって飛ばす 。
前 右
攻撃を避けろ
上
ドローンは脳で操作する 。
この前注射され 、脳から直接指示が送れるようになった 。
どういう仕組みでこうなっているかはわからない 。
最近の技術はすごいな 。
この|『 敵 』《エネミー》は口から炎を吐くタイプ 。
そして小型 。
四足歩行 。
此奴の弱点はなんだ 。
敵の炎をかわす 。
いい感じだ 。
もっと 、。
ドローンを3匹出す 。
前へ進め 。
上にいって攻撃を避けろ 。
もう一匹のドローンは死角をついて攻撃しろ 。
同時に4匹のドローンへ指示を出す 。
今までのぼくにはできなかったもの 。
楽しい 。 これ 。
「 るい 、ええ感じや !! すごいやん 」
後ろにいるせなはもう|『 敵 』《エネミー》を倒し終わったらしい 。
流石だな 。やっぱり 。
負けてらんないね
前へ突っ込め 。
スピード勝負だ 。
と見せかけて一匹のドローンは敵の死角で
攻撃を進めている 。
これは 、勝てるぞ 。
|『 敵 』《エネミー》は基本的に強さがランク付けされている 。
これは見た目や特徴から見てランク2 。
ぼくには到底敵わないかと思っていた 。
だが勝利は目の前 。
絶対掴む 。
掴んでみせる 。
|『 敵 』《エネミー》がぼくの方へ走ってくる 。
ドローンを方向転換させ 、2匹はこれ以上進めないように守らせた 。
他の2匹は後ろから攻撃を続けている 。
「 見えた 、!」
敵の心臓部 。中心 。
彼処の精密機械によって|『 敵 』《エネミー》は動いている 。
あれを壊せばぼくの勝ち 。
「 いくぞ 、」
4匹で心臓部への一点攻撃 。
残り半分だ 。
壊せば勝てる 。
いける 。
--- ぐああああああッ ---
断末魔と共に|『 敵 』《エネミー》が倒れた 。
地面が揺れる 。
一斉に試験を受けている人の視線が集まるのがわかる 。
「 よっしゃ 、次 。」
そう言って後ろを振り向いた 。
後ろに大型|『 敵 』《エネミー》 。
その前で 、荒い息をして肩を揺らす 、男の子 。
多分ぼくより身が低いから 、年下だろう 。
綺麗な顔 。
その顔は今は 、苦しく歪んでいる 。
|『 敵 』《エネミー》が次の攻撃を仕掛けようとしていた 。
大きな手が男の子に振りかざされる 。
「 もう 、やめてくださ 、ぃ 」
今でも消え入りそうな声 。
駄目だ 。諦めるなよ 。動けよ 。
男の子は其処に座り込み動いていない 。
潰されちゃうよ 。立ってよ 。
ん ?
違う 。
諦めてるんじゃない 。
足からの出血 。骨折だ 。そして手に持っているのは銃 。銃撃型か 。
せなならどうしてた 。
僕の憧れのせななら 、こんな時どうする 。
気づいた頃にはぼくは走り出していた 。
ぼくを見て目を丸くする男の子 。
その手に握られた銃を奪い 、|『 敵 』《エネミー》に向けた 。
まずは手を 、どうにかしなければならない 。
もう直ぐ潰される 。
|『 敵 』《エネミー》に向かって適当に銃を4発撃った 。
弾が当たる 。当たる当たる当たる 。
手に大きな穴が空き 、隙ができる 。
今のうちだ 。
「 おんぶするから 、乗って 。はやく 。」
これしか手は無い 。
「 ぇ 、でも 、そんな … 」
「 いーから早く !! 」
「 はい 、 」
背中が重い 。
男の子を抱えてできるだけはやく走った 。
この重さは 、命の重みだ 。
今ぼくはそれを 、背負っている 。
よっしゃ 、だいぶ離れた
「 よし 、降りて良いよ 。」
男の子をおろす 。
|『 敵 』《エネミー》はもう回復してしまった 。
こっちに気づかれてしまった 。
「 あ 、あの !! 」
男の子が何か言いたげだったが 、ぼくはそれを聞く前に 、
走ってしまった 。
手遅れにならないように懸命に走り 、銃を構える 。
3発撃つ 。
当たる当たる当たる 。
よし 、だいぶ致命傷になってきたか 。
大型と言ってもそこまで大きな|『 敵 』《エネミー》ではなかった 。
ただ 、強いだろう 。ランク3くらいか 。
心臓部はどこだ ?
こいつの 、弱点はなんだ 。
最速で見極める方法 。
思考を巡らせる 。
よし 、この方法なら 。
銃を何発か連続で撃ってみる 。
なるほど 。お前の弱点 、心臓部は 、此処だな 。
右胸だ 。
銃を撃った時 、|『 敵 』《エネミー》の眼線が 、一瞬右胸にいった 。
そして 、右胸に当たらないように 、手で避け 、なるべく右側を見せないようにしていた 。
分かり易いな 。
弱点がわかればぼくの勝ち 。
銃を構え 、左目を瞑る 。
此処だ 、今 。
--- バン ッ ---
よっしゃ当たった 。
心臓部が剥き出しになり 、機械が見える 。
火花が散り 、|『 敵 』《エネミー》の眼の光が消え 、
奴は動きを止めた 。
よっしゃ 。
勝った 。
何これ 、楽しい 。
そうだ 、男の子 。
無事か ?
「 あの !! 」
聞き覚えのある声 。
さっきの男の子だ 。
「 君 、無事 ? 大丈夫 ?」
「 はい ッ 」
大丈夫とは言ったが 、左足を引き摺っている 。
大丈夫では無いだろう 。
「 あの 、おにーさんってドローン操縦型ですよね ? 」
「 ああうん 」
「 其れなのにあの命中率 !! めちゃめちゃ凄いです ッ !!」
目をきらきらさせて 、上目遣いで言われる 。
なんだ 、この子 、可愛い 。
「 ありがと 」
「 あと 、おにーさん頭いーです 。冷静に物事を考え 、見極めてる 。 」
「 そ 、そうかな … 」
そこまで言われて 、照れない人なんていないだろう 。
「 そうですよ 、しかも自分の戦い方じゃないのにここ迄出来るとか流石にすごすぎます !! 」
「 あとあと ッ 途中からおにーさんの目の色と雰囲気が変わってぶわーってなって !! 」
「 ぼく 、おにーさんみたいにかっこよくて 、たっくさんの人を守れる人になりたいんです !! 」
「 めちゃめちゃ 憧れます ッ !! 」
「 えへ 、ありがと 、」
「 いーえ ッ !! 」
そう言ってその子はにこっと笑った 。太陽みたいな子だな 。
「 あ 、すみません 、試験の途中なのに … 」
「 全然大丈夫だよ 」
「 助けてくれてありがとーございました ! 絶対受かりましょーね !! 」
「 うん 。」
「 では !! 」
そう言い 、歩いて行った 。
骨折はしてるが 、此処でリタイアする訳にはいかないだろう 。
その気持ちは 、よく分かる 。
だから 、止められない 。
左足を引き摺りながら歩く 、勇気のあるその子の背中を見つめる 。
なんか 、元気出た 。 ぼくもがんばらなきゃ 。
後ろを振り返る 。
え
せな 、?
せなはものすごいスピードで|『 敵 』《エネミー》を倒している 。
腕時計には倒した|『 敵 』《エネミー》の数 。
8 !?
「 嘘だろ 、」
あんな真剣な表情をしてるせなを見たことが無い 。
黙々と刀を振り翳している 。
その目は|『 敵 』《エネミー》だけを捉えていた 。
誰も失わない様に 。何も壊されないように 。
両親の仇打ち 。
今のせなからは怒りが感じとれた 。
その感情をバネにして刀を振り回している 。
いや 、本当にそれだけか ?
その感情が此処迄せなを 、強くさせるのか ?
せなの隠し事って何だ 。
でもせながたくさんの|『 敵 』《エネミー》を倒しているのは事実 。
置いていくなよ やめろよ
ぼくだってもっと 。
もっともっともっともっともっともっと
もっといけるはずなんだ 。
「 かは ッ 、!? 」
お腹の部分が熱く感じる 。
息が吸えなくなる 。
激しく咳き込んだ 。
その勢いで吐血してしまう 。
土が赤く染まる 。
何が 起こった ?
状況を把握しなきゃ 、
後ろに大型|『 敵 』《エネミー》。
大きさからみてランク4 。
大きな赤い眼 。眼が8つ付いている 。
その眼は奴が動物ではない “ 何か ” だということを物語っていた 。
そして奴の周りには煙と暑い空気 。
一番最初と同じ 、炎を吐くタイプ 。
先ほど奴が吐いた炎がぼくの腹に命中してしまったんだ 。
ぼくに倒せる相手じゃない 。
自分のお腹の辺りを見る 。
紅に染まった身体 。
こんなの 、初めてみた 。
見たことの無い血の量に困惑する 。
余計呼吸が浅くなる 。
昔から血が苦手だ 。
止血しないと 。
手で押さえる 。
「 なにこ 、れ … 止まんないじゃん 、」
もう 、無理 ?
だめ 、やだ 、やだやだやだやだ
止まって 。やめて
助けて
せなはだいぶ遠くで|『 敵 』《エネミー》と戦っている 。
珍しく苦戦しているようだ 。
こっちには来れないだろうな 。
てか 、せなが苦戦してる ?
だめじゃん 、たすけなきゃ
そうだよ 。
ぼくがここで 、諦めてどうする 。
勝つんだよ 、ぼくは 。
「 お前に 、|『 敵 』《エネミー》に … 勝つ !! 」
もう誰の命も 、お前に渡さない 。
絶対に生き抜いてやるから 。
出血が続いている中 、大きく動いたり 、長い時間戦うのはだめだ
今すぐにでも止血しないとぼくはしぬ 。
まず 、|『 敵 』《エネミー》の心臓を見つけなければいけない 。
見たことないくらいの大型|『 敵 』《エネミー》。
さっきみたいな少ないドローンでは勝てない 。
だとしたら 、副市長みたいに沢山のドローンを操る他 、
方法はない 。
いくぞ 。
一人に配られるドローンは50匹 。
此れはぼく達みたいな素人に操れる量じゃない 。
そんなん知ってるんだよ 。
予想外の出来事に怒りの感情が勝つ 。
手持ちのドローンを全て出す 。
この一瞬に 、ぼくの集中力を全て使うぞ 。
右に3匹 。
左に3匹 。
遠回りして死角をつく作戦 。
それ以外はスピード勝負の攻撃 。
ぼくの大量のドローンが|『 敵 』《エネミー》に向かって進む 。
すごいスピードだ 。
行けるぞ 。これなら 。
勝てる 。
この後の光景は 、ぼくが想像していたものとは違った 。
|『 敵 』《エネミー》がぼくのドローンを全て避けた 。
僕に向かって走ってくる 。
距離を詰められた 。
何故だ 。
確かにぼくの作戦は 、この大量のドローンが当たらないと
勝つ確率がぐんとさがる 、危ない作戦だった 。
もっと後の事を考えて作戦を立てなきゃいけなかったんだ 。
後ろの方に倒す対象を見失ったぼくのドローン
最大速度を出しても此処には届いてくれないだろう 。
ぼくのすぐ目の前には赤い眼を光らせた|『 敵 』《エネミー》 。
奴が口を開く 。 やばい 、炎を吐き出すつもりだ 。
え 。なにこれ 。
なにこの終わり方 。
もしかしてぼくって これで終わる ?
このまま実戦試験なんかで此処で倒されて 、
もう 、しんじゃうの ?
おもしれーじゃん 。やってやるよ 。
きっと|『 敵 』《エネミー》はこのまま僕を炎で焼き尽くすつもりだろう 。
口を開く 。
今がチャンス 。
口を開いた時に 、 眼を全て閉じる 。
こうしないと炎が出せないのだろう 。
それは先程 、拝見済みだ 。
一度見たものは全て覚えることができる 。
背景から 、行動 、細かい眼の動きまで 。
忘れる訳がない 。
「 眼くらい開けとけよ 」
開いた足の下を走ってくぐる 。
よっしゃ|『 敵 』《エネミー》の死角 。
見えてないとこから攻撃すればいける 。
--- カラン ---
足に何かが当たる 。
其れが陽の光を反射し 、きらりと光った 。
銀色の鋭い物 。
刀だ 。
誰かが落としたのかな 。
今ドローンは最大速度でこっちへ向かわせている 。
今攻撃しないとすぐに焼き尽くされる 。
「 やるしかない 、」
好都合過ぎる 。
誰が落としたんだろ 、これ 。
刀を掴む 。
出血が続く 。
こんな動きしたら 、身体が持たない 。
でもやるしか手はない 。
やってやるよ 。
一か八かの賭け 。
死と生の境界線 。
ぼくはそこを揺れている 。
|『 敵 』《エネミー》が此方を向く 。
この瞬間を待っていた 。
ぐわんと横に振られる|『 敵 』《エネミー》の尻尾 。
ジャンプで飛び乗る 。
その上を駆け上がる 。
大型|『 敵 』《エネミー》は頭に心臓があることが多い 。
頭を切り裂く 。
「 見えた 」
紅く光る心臓部 。
刀を振り翳す 。
よっしゃ 、通れ 。
真っ二つに切り裂け 。
いける 。
「 え 」
思ったより硬くて刃が通らない 。
「 なんこれ硬 ッ 」
もしかして 、ぼくの負け ?
いや 、そんなことは予測済み 。
ぼくのドローンがもうここに着いた 。
左右に配置する 。
計画通り 。
集中攻撃だ 。
勝利はぼくが掴み取る 。
ぼくだって 、勝てるんだ 。
証明してみせる 。ぼく自身に 。
全ての意識をここに集中させる 。
50匹のドローンが|『 敵 』《エネミー》の心臓を刺している 。
いけ 。
通れ 。
--- グウアアアアアアアアアアアア ---
よっしゃ _
__ 倒した _ ぞ 、
ぼくが ___ このしょうりを _
つかみとったんだ _
あれ _ ?
なんでくうちゅうをういてるのかな __
あぁ _ やつが _ たおれたから
そのいきおいで _
ふっとんだのか ___ やば 、なにこれ
意識が朦朧とする 。
立て直さなければ地面に背中を打つ 。
大量に出血しているぼくにとってそれはもう致命傷だ 。
というか 、死ぬだろう 。これは 。
心臓の動きが弱い 。
頭が痛い
だめだ 、出血量が多すぎる
背中は打たないようにしないと 。
まだ地面に着くまでもう少し時間がある 。
体制を立て直せ 。
大丈夫だ 。ぼくなら 。
いや _ もうこれ __ だめだ
諦めと共に動かなくなった身体で暗闇へと引き摺り込まれた 。