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宙の覇者
''それ''、は突如現れた。
ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ。東京、香港、上海。モスクワ、カイロ、ミラノ、ロンドン。これが、被害にあった都市だった。
東京、首相官邸。末原は頭を抱えていた。東京大都市圏は、謎の電波攻撃を受けている。スマホで秘書に電話をかけようとし、末原は舌打ちした。「圏外」このひと言がすべてを表している。頭が痛い。というか、さっきから物理的に痛い。
アメリカ大統領、サミュエル・ティルデンは頭を抱えていた。ただでも支持率が低下し始めているのに、さらに問題が発生するとは。まずはニューヨークで電波障害が発生し、次にシカゴ、すぐにサンフランシスコもダウンした。FBIがニューヨークでの電波発生源を特定したものの、そこへ向かった職員と連絡が取れなくなったという報告があった。
末原は駅に向かった。しかし、電車は動いていない。
「何があったんだよ」
「おい、責任者よこせ」
「スマホも使えねーじゃないか」
電車どころか電光掲示板すら動いていないために、どれくらい遅れるのか分からない。ゲームで暇をつぶすこともできない。この状況が確実に群衆の忍耐を削っていた。
「か、改札から出れない⋯」
「何言ってんだ強行突破しても鳴らないぞ」
多分、入る方も同じだろう。入っても電車は来ないが。
「政府は何やってんだ」
誰かが怒鳴った。なるほど、スマホも電車も駄目だということは、災害級の何かなのかもしれない。
「スマホはただの不調で、電車は遅れちゃっただけなんだよ」
総理の近くで小さい声がした。
「バカ言え、じゃあなんで電光掲示板まで壊れてんだよ」
別の声が返した。
SPが後ろから言った。
「人力車頼みましょうか。自動車はどうも使い物になりません」
もう一人のSPが一言。
「どこへ行ったら人力車があるんだ?」
「というかなぜお前らがここにいる?」
1人目のSPがキョトンとする。
「いやあ、総理ならとりあえず電車に乗っていそうだなあと」
2人目がひとこと言う。
「ところで、人力車なら浅草じゃないですかね」
末原は黙った。
ハリー・マエハラは喜んでいた。彼は地球外生命体を探す研究者であった。彼はこの出来事を地球外生命体の仕業だと考えており、喜びのままにメールを立ち上げ、彼は仲間にメールを送りこの素晴らしい出来事と、彼の仮説を披露しようとした。
「ん?」
ハリーは顔を上げた。彼はパソコンは圏外だった。彼はその時、カイロでバカンスを楽しんでいた。
サミュエルは未曾有の事態に対して混乱する頭を冷やそうと、ホワイトハウスのバルコニーに出た。そして、彼と他多くのアメリカ東海岸の住民は同じものを見た。空に、棒状の物体が多数浮かんでいた。
サミュエルは国防省に電話をかけることにした。彼に休憩する時間はなかった。
ある労働者はただ呆然とそれを見ていた。しかし、彼はまだ職場に向かわねばならなかった。
ある女はスマホを上に掲げ、撮った写真を投稿した。彼女の都市はまだ、通信障害が起こっていなかった。
末原は首相官邸に戻っていた。あまりにも強い通信障害のために、彼は米大統領の送って来たメッセージを受信できていなかった。
アメリカが幸運だったのは、ニューヨークのために首都が攻撃を免れた点だろう。しかし、不運だったのはニューヨークが目立ちすぎたことだった。どこから?それは、ハリー・マエハラの非公開レポートに書かれている。見てみよう。
<私は、この攻撃が地球外知的生命体によるものだと確信している。まず、この攻撃地点をみてみよう。宇宙から見て目立つものばかりではないか。そして、私はこれらの生命体が機械的生命体であると強く確信する。彼らは我らのコミュニケーションを奪おうとしたのだ。>
飛躍のある理論ではあったが、現時点では彼のみが正しい結論に達していた。が、このレポートが人の目に触れることはなかった。
アメリカ国防軍は、一気に謎の物体に対して攻撃を仕掛けた。が、それらは瞬間的に分解された。返す攻撃で、ニューヨーク全体の電子機器が全て崩れ落ちる。ここにハリーがいたとしたらこう言っただろう。
「なるほど、この生命体は同族を滅ぼし尽くす力を持っているのか」
そして物体は移動し、今度はシカゴへ向かう。その途中で複数の小都市へ小攻撃を行う。アメリカの文明レベルは一時間にして近世レベルまで退行した。
サンフランシスコが攻撃され、壊滅する頃には、多くの大手によるAIが動作不良を起こし始めていた。これが何を意味するか。たとえば、東京に行く予定のある人が「東京の電車の運行状況はどうですか。✕✕時台の電車は動きそうですか」と聞こうとしたとしても、聞けないのだ。世界全体の文明レベルはAI以前(と言ってもほんの数年前だが)まで退行。皆がその不便さを思い出した。が、その時間も短かった。
一日にしてほぼ全ての地球上の機械製品を消し去った棒状の物体は、地球を何週かした後にインドネシア上空で停止した。この時点で人工衛星も機能停止していたのでインドネシア人のみがその光景を見ることとなった。
棒状の物体が分裂し、地上めがけて、というより海上めがけて落ちていった。
そのころ、世界中で混乱が広がっていた。
あるところでは防犯カメラの故障に気付いた男がひき逃げの事実から逃げようと高速道路を時速百キロで走っていた。ひどい雨なので、男はおそらく捕まらないだろう。
あるところではレジ打ちができなくなり商品の購入ができなくなった人々が金を置いて商品を取っていっていた。人々はやがて金すら置いていかなくなった。
あるところではインターネットに接続できないことに気づいた引きこもりが部屋の中でパソコンをたたき壊していた。引きこもりは、たたき壊したパソコンから漏れ出したのが粉々になった基板ではなく砂であることに気付き、絶叫する。
そうしてしばらくすると警察は機能停止してしまった。
次の日はもっとひどい日だった。状況が分からない人々が食品を求めてスーパーに殺到し――もちろん自動ドアは動かないのでドアは叩き壊された。あるところで始まった乱闘はその乱闘が表に出ることなく静かに、同時多発的に広まった。最後には強盗すら始まった。こうした崩壊を免れたのは、昔ながらの生活を続ける農村部のみだった。
数日後、インドネシア領海に着水した機械生命たちが移動を開始したときには、都市部の人口はひどく減っていた。世界には、たった7億の人しかいなかった。
機械生命たちは、地球機械たちの絶滅を見届け、地球人類を鹵獲し始めた。
えー。補足しておきますが、攻めてきた機械生命体にとって同族とは、機械です。彼らにとってみれば寧ろ人類が機械の産物だと考えることは自然なので、まだ多くを調べていない現時点で、人間は人間から見た機械と同じ扱いを受けるでしょう。