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ウマ娘~オンリーワン~ 03R
第2章『憧れのレース編』
03R「私のメイクデビュー」
アルノ「話って、何ですか?」
いつもの練習中に、トレーナーさんに「大事な話がある」と呼ばれた。
季節は夏。制服も夏服に変わり、トレセン学園では、まもなく夏休みに入ろうとしていた。
トレーナーさんにチーム室の応接間に通される。
そして、トレーナーさんは口を開く。
牧村「――アルノのデビュー戦が決まった。」
アルノ「―――えっ……ええーーっっ!!!」
私は、驚いてつい大声を出してしまった。
牧村「いや、そんな驚かなくても……」
アルノ「いや、その……嬉しいです!やっと私、レースに出られるんだ……!」
牧村「……そうか。嬉しいなら良かった。で、レースの日は7月最後の週で日曜。場所は札幌レース場。いいな?」
アルノ「はい。」
7月の最後の週―――丁度今日から3週間後くらいだ。
牧村「で、距離は、2000m。――それでいいか?まあ、別に嫌だったらまだ出走登録はしてないから変えても構わないが………」
アルノ「大丈夫です!それでやらせてください!」
牧村「オッケー!じゃあ、早速トレーニングだな!」
=====
牧村「いいか?本番のコースは、初めスタンド前を通って、ゴールもスタンド前の直線。つまり、コースを一周するんだ。結構スタミナが必要になってくる。だが、アルノは、俺から見ても大分スタミナがある方だと思う。それで――アルノ。お前は逃げが向いていると思うんだ。ちょっと他の先輩たちと併走トレーニングしてみよう。アルノは、逃げでな。」
私は、うなずいた。そして、さらにトレーナーさんにあることを耳打ちされた。
私は、不安で迷い気に再度うなずき、すぐさまスタート地点へ向かった。
逃げのやり方はもうトレーナーさんから教わった。
今はどの脚質を指定されても、柔軟に対応できる程だ。
スタート地点へ行くと、先輩たちにも声が掛かっていたらしく、みんなスタート地点へついていた。
あわてて私もスタート位置につく。
マリー「アルノ、デビュー戦頑張ってね!あたしたち、いくらでも練習付き合うから!」
ショート「かわいい後輩のため。あたしたちも手を抜かずに本気でやるからね!」
先輩たちの頼もしい言葉に、私は本気のスイッチが入った。
そして、トレーナーさんの掛け声が響く。
牧村「位置について――用意、スタート!!」
その掛け声と共に、私は勢いよくダッシュした。
ショート「うぇっ!?そ、そんなに!?」
そう先輩が驚くのも無理はない。
私は結構先輩たちに差をつけていた。
あまり後ろからも足音が聞こえない。
牧村「そうだ!その調子!あと一周!」
スタート地点に戻り、一周終えたところでトレーナーさんがそう言った。
そう、さっき耳打ちされた内容――――
牧村「――アルノ。さっきも言ったけど、アルノはスタミナがある。だから、スタートしたら、先輩たちから大きく差を離せ。つまり、大逃げだ。」
アルノ「えっ…いいんですか?そんなことして。」
牧村「ああ。俺を信じろ。」
アルノ「…わ、分かりました……」
私は、あまりトレーナーさんの言うことが理解できなかった。
しかし、しぶしぶうなずき、とりあえずトレーナーさんを信じて、言う通りにしようと思った。
しかし、実際走ってみて分かった。
こんなに差を突き放しているのに、全然疲れない。
牧村「残り400!」
私は、一気にスパートを掛けた。
やはり、加速力には欠けるが、あんなに突き放せば、もしかしたら先輩に勝てるかもしれない。
だが、しかし―――
「うおりゃあああっ!!」
後ろから一気に追い込んできた先輩4人にゴール前ギリギリで抜かされてしまった………。
牧村「よくやった!すごい!初めてなのに、こんなに先輩たちと僅差なんて……」
ショート「いやー、あたしも大分焦った~っ!後輩に負けるのかなーって一瞬思っちゃったよ!」
マリー「やるじゃん。アルノ。アルノのその天才的な逃げ、あたし気に入った!」
アルノ「いや、でもやっぱり先輩たちには敵いませんねー。」
ブリザード「でも、アルノちゃんならきっと私たちを越えるすごいウマ娘になるかもね!」
サン「く、悔しいけど……先に重賞勝つのは私ですからね!」
そう言って、私たちは共に笑い合った。
=====
クリス「へえー、もうアルノちゃんデビュー戦決まったんだー!」
マロン「マロンちゃんは、7月のはじめにデビューして2着だったけど先週の未勝利戦で勝てたんだ~♪」
アルノ「すごい……!もうそんなに走ってるの!?」
クリス「あたしは、確かトレーナーが8月辺りって言ってたなー。」
そんな感じで、あっという間にレース当日がやって来た。
〈レース当日〉
牧村「ついに来たなあ。アルノ!」
アルノ「はい!」
ここまでの道のりは長かった。飛行機で北海道までやって来たのだ。
ちなみに、人生初の飛行機だ。
ここまで苦労してやって来たのだから、もう勝つしかない。
そして、前日に教えてもらったトレーナーさんの情報によると、私の出るレースは私含め6人しか出走しないという。
最大で16人が出走できるので、よほど少ないことが分かる。
そして、私は1枠1番。とても運が良い。
この絶好のチャンス、逃すわけにはいかない……!
=====
実況「さあ、はじまりました。札幌05レースはメイクデビュー。新たなスターの誕生となるか!出走ウマ娘の紹介です。」
実況「まずは1番・アルノオンリーワン!4番人気です。」
私は、肩にかけたジャージの上着をバサッと脱ぎ捨てた。
これをパドックと言い、みんなこうやるらしい。
今日の札幌レース場のメインレースが重賞ということもあってか、大勢の観客が見ていた。
とにかく、頑張らないと!
=====
実況「さあ、各ウマ娘続々とゲートへ入っていきます。メイクデビュー札幌。制すのはどのウマ娘なのか。そして最後。6番・ドリームミラーがゲートに入り、体制が整いました。」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!おっと、1番・アルノオンリーワンが早くも先頭。それ以外は固まっております。」
私は、練習した通り、後ろとの差を突き放した。
実況「アルノオンリーワン、差をぐんぐんと突き放す!現在10バ身!そして、まもなく第3コーナーに差し掛かります。」
私は、やはり全く疲れなかった。もしかしたら、私は、トレーナーさんの言う通り、スタミナがあるのかもしれない。
実況「第4コーナーをカーブし、最後の直線です!アルノオンリーワン、まだリードを広げたままです。すると、1番人気・ライトリュウオーが最後方から上がってきた!しかし、先頭はアルノオンリーワン!アルノオンリーワンです!アルノオンリーワン、圧勝、逃げ切りでゴールです!」
あっという間だった。気がつくと、歓声が溢れていた。
あれ……?私、勝ったの?
スタンド前の掲示板には、1着の欄に、「1」というランプが点灯している。
そして、2着との着差は、5バ身―――
本当に勝ったのだ。
私は、飛び上がるほど嬉しかった。
=====
「それでは、ウイニングライブです!」
♪響け ファンファーレ
届け ゴールまで
輝く未来を君と見たいから
♪駆け出したらきっと始まるstory いつでも近くにあるから
手を伸ばせばもっと掴めるglory
1番目指して
let's challenge
加速してゆこう
♪勝利の女神も夢中にさせるよ
スペシャルな明日へ繋がる
Make debut!
♪響け ファンファーレ
届け ゴールまで
輝く未来を君と見たいから
ここまで来れたのも、全部トレーナーさんのおかげだ。
色々迷惑を掛けたけど、勝って恩返しをすることができた。
でも、私はまだまだこれからだ。
先輩のように重賞やGⅠを勝ってオンリーワンのウマ娘になりたい!
♪響け ファンファーレ
届け ゴールまで
輝く未来を君と見たいから
駆け抜けてゆこう
君だけの道を
もっと
速く
I believe in
♪響け ファンファーレ
届け 遠くまで
輝く希望は君だけの強さ
飛び込んでみたら変わってゆくから
走れ 走れ 誰より速く
いつか笑える
最高だけ目指してゆこう
♪I believe
夢の先まで
「わああああっ!!!」
歓声と拍手が沸き上がった。
こんなに嬉しいことはない。
この喜びを、もっと上で――――
牧村「ふっ、やるなぁアルノ。絶対にアイツは強いウマ娘になれる!ようし、次のレースは――――」
牧村「札幌ジュニアステークス!重賞にしよう!」
〈数日後〉
「ええーーーっっ!!!」
チーム室内に叫び声が響き渡る。私の。
牧村「いや、驚きすぎだって……みんな来ちゃうから―――あ、ほら来ちまった。」
ショート「アルノ!何かあったの!?―――はっ!さてはトレーナー………かわいいアルノを―――」
牧村「違うわ!そんな目で見るなって!」
ショート「も~冗談に決まってるじゃないですか~♪……で、何かあったんですか?」
牧村「……アルノの次のレースは、札幌ジュニアステークス―――重賞に決まった。」
みんな「……ええーーーっっ!!」
牧村「お前たちもか!」
ショート「いや……だって、早いな~って。だってあたしの初重賞出走は、クラシック級になってからなんですよー!やっぱアルノは凄いわ!」
サン「わ、私なんて……今年の夏にやっと重賞初出走できたばかりなのに……」
牧村「まあまあみんな落ち着け!はい、解散!それぞれトレーニングに戻れーっ!」
みんな「…はーい。」
そういって、みんなしぶしぶグラウンドへと戻っていった。
牧村「―――さ、続きを話そう。で、距離は、1800m。この前より200m距離が短い。そして場所はこの間と同じ札幌レース場。でも、札幌レース場はもう経験済みだから、アルノにとって大きく有利になるだろう。」
アルノ「なるほど……私、勝ちます!」
牧村「頼もしいな。まあ、無理はするなよ。」
アルノ「はい!早速グラウンド一周してきまーす!」
しかし、現実はそう上手くはいかなかった。
=====
実況「――――1番・アルノオンリーワン逃げる逃げる!第4コーナーに差し掛かりました!」
レース当日。私は3番人気。そしてまた1枠1番を引き当てたのだ。
もしかしたら勝てるかも――そう甘く考えていた。
実況「第4コーナーをカーブし、最後の直線に差し掛かりました!アルノオンリーワン、後続集団から5バ身差を突き放しております!―――しかし、内から1番人気の13番・ルナビクトリーが追い上げる!物凄い末脚だ!あっという間に交わしました!残り200m!独走状態!外から2番・ロングキックが追い上げる!」
アルノ(嘘でしょ……!こんなに離したつもりなのに……)
そして、加速力がないのが仇となり、どんどん後ろからきたウマ娘に抜かされていく……
実況「ゴーーーールっ!1着は13番・ルナビクトリー!デビューから3連勝です!強い強い!」
後から全着順が分かった。
私は10着だった。
悔し涙がこぼれ落ちる。
やっぱり、私は弱いままだったんだ。
あのとき、たまたま人数が少なかっただけで、
最内枠を引いただけで、
やっぱり私は、まだまだ弱いままだったんだ――――
「ズキッ」
歩こうとした私の左膝に、激痛が走る。
あまりの痛みに、私はその場にしゃがみこんでしまった。
そして、再び立ち上がり歩き出そうとする。
しかし、あまりの痛さで歩けない。
すると、そんな私を見かねた救急隊員の人たちが駆けつけ、私は担架に乗せられ、救急車で運ばれた。
=====
「ガラッ」
牧村「アルノ、大丈夫か!?」
医務室の扉が開き、血相を変えたトレーナーさんが飛び込んできた。
私は、左膝を包帯でぐるぐる巻きにされ、ベッドに寝かされていた。
アルノ「トレーナーさん、全然大丈夫です!こんなの、大したことないですよーっ!」
牧村「そ、そうか………」
「あ、トレーナーさん!いらっしゃいましたね。」
医務室の奥からお医者さんが出てきた。
牧村「あ、先生!アルノは、走れますよね……怪我しちゃったけど、すぐ走れますよね……?」
先生「いや………しばらくは安静にしておいた方がいいでしょうね。無理をすると一生走れなくなる可能性も出てくるので………」
牧村「そんな……『しばらく』ってどのくらいですか?」
先生「最低でも、“2ヶ月”は安静にしておいた方がいいですね。」
牧村「そ、そんな……」
トレーナーさんは絶句していた。もちろん、私もだ。
私はまだまだ弱いけど、走るのが大好きだ。
それにたくさんレースで勝ちたい。
なのに、2ヶ月も安静にしろと……?
絶望的な現実を突きつけられた私は、ベッドの上で天を仰いだ。
-To next 04R-
~キャラ紹介02~
クリスタルビリー(Crystal Billy)
誕生日…2月27日
身長…162cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B82W57H83
非常に明朗快活でハキハキとした性格の持ち主。誰とでも気兼ねなく話すことが出来る。憧れの“あの人”に近づくためにどんな練習でもストイックにこなす。
一人称・あたし
毛色・黒鹿毛
所属寮・美浦寮
イメージカラー・青
作中に出てきたウイニングライブ曲の題名
『Make debut!』
(よかったら聴いてみて下さい!)