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二次創作 「静謐(せいひつ)」 <グローディ・ロイコディウム_王様戦隊キングオージャー>
静謐 (せいひつ)
静かで穏やかなこと。「静」も「謐」も「しずか」の意。
--- ーーー無駄と分かって何故足掻く、、、?ーーー ---
--- ーーーいちいち覚えてられるか、、、ーーー ---
--- ーーーいいかげん静かにしてくれよ、、、ーーー ---
--- 世界は何故こんなにも、うるさいのだろうか。 ---
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爆ぜる景色、燃える体。
潰えゆく意識、あたりを包む轟音。
感じた"最期"は、騒がしくも静かで、荒々しくも綺麗だった。
屍の友をたずさえて、生無き世界へ千鳥足、、、
憧れ焦がれた死が、やっと、俺の手を引いた。
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気が付くと、知らない場所にいた。
木々が光っている。 影がそよいでいる。
驚くほどに綺麗で、涼しかった。
"生きる"ということなど、初めからまやかしだったのだろうか。そう思えてしまう程、そこに"命"の気配はなかった。
、、、静かだ、、、。
なんと心地よいのだろう。これが、俺の追い求めていた「死」か、、、。
体中に絡みついていた嫌気が、はらり、と落ちて消えてゆく。
久しぶりに、ゆっくりできそうだ。
柔らかく冷たい光に包まれながら、静かな眠りへと溶けるように目を閉じた。
はずだった。
[ううう、、、]
、、か細い、うめき声。今にも消え入りそうな程小さいのに、恐ろしいほど鮮明に聞こえる。
[恨めしい、、、許せない、、、、]
段々と声が増えてゆき、あちこちから聞こえるようになった。
心地よい静けさが、一瞬で台無しだ。黙ってくれないか。そう言おうと体を起こした時には、声の主が俺を囲んでいた。
[帰りたい、、、帰りたい、、、] [おい、、、ここから出せ、、、]
数多の黒い影が、苦しそうにのたうち回る。
怨霊、だろうか? あまり触れてはいけないものであることは嫌でも分かる。
戸惑っている間にも声は増え続け、影が勢いを増してゆく。腐った果実にたかる蝿のように、耳障りで鬱陶しい。
うるさい、静かにしてくれ。影の声にかき消されそうになりながら叫ぶが、返ってくるものは禍々しい声だけだった。
[こっちに来い、こっちに来い、こっちに来い、、、] [出せ、、、助けてくれ、、、出してくれ、、、] [ううう、、、ああああ、、、]
勘弁してくれ。うるさい、、、ただでさえ騒がしいのは苦手なんだ。出せと言われたって俺にどうにかできるわけがない。お前が消えない限り俺もそっちへは行かない。頼むからやめてくれ。
迫る影の大群と声から、ひたすら逃げるように惑い続けた。
どれだけ叫んだ? 今俺はどこにいる? いつになったら黙ってくれるんだ?
怒りと焦りが、狂気へと変わってゆく。駄目だ。押しつぶされるんじゃない。ここで溺れたら影に呑まれてしまう気がして、理性に入ったヒビを必死で押さえていた。
いくら耳を塞いでも、声が響いてくる。耳が千切れそうなほど痛い。脳が痺れている。うるさい。黙ってくれ。うるさい。来るな。
【これがお前の、やったことだろう?】
どこからだろう。他の影の叫びが聞こえなくなるぐらいに鮮明な声がした。
場違いな程温かく、ぞっとする程冷たい。優しく包み込み、胸をえぐるような声だった。何故だろうか、少し懐かしい。
ふっと緊張がほどけた瞬間、それが言葉であった事を思い出した。何だ、なんて言っていた?
【そのまま償っていろ、グズめ】
顎と頬を軽く、はたかれた気がした。
それきり、その声は聞こえなくなった。影の叫び声が、また波となって押し寄せる。待て、俺を置いていくな。「そのまま償え」とはどういう事なんだ、、、。混乱と影の声がぐちゃぐちゃに重なり、脆くなりゆく理性を激しく蹴っているのが分かる。やめてくれ。うるさい。叫ぶことに、もう意味すらないのだろう。なのに。無駄と分かっているが、声を張り上げてしまう。救いがないのは分かりきっているから、だから。せめて足掻いてやろうと思っているのだろう。
ふいに、ざらついていた心が動きを止めた。
たとえいくら耳が千切れようと、どれだけ脳が溶けようと、影の叫びは俺を苦しめ続けるのだろう。
そうなのであれば。
あの影のように、自らなど捨て。
ただ黒く、虚しく、揺蕩うのも悪くはないのではないか、、、?
[嫌だ、嫌だぁぁぁあ、、、]
ふと目の前に影が飛び出し、今までよりもっと悲痛な叫びをあげた。
いや。
駄目だ。絶対に。
今、分かった。影の中にあるのは、黒い虚無ではない。自らを失い理由すら無くなった、ただ禍々しい負の感情だけだ。
こんなものになって、何かから解放されるわけがない。やはり俺は、抗い続けるしかないのだろう。
だが、理性はもうヒビ割れだらけだった。いつまでもつか、見当が大体つく。ずっと押さえてきた狂気。押さえてきたからからこそ、溜まって取り返しのつかない事になっている。
そうか。何を選ぼうと、救いは無いのか。ジョークを聞いた時のような滑稽さを覚えた。
笑いが、こみ上げてくる。まだ笑えたのか、と一瞬安堵を覚えたが、この笑みが理性から来るものでないのは明らかだった。
笑い声が、止まった。
まずい。影のうめき声が、今までは練習程度だ、と言わんばかりに強くなる。鼓膜なんてとうに破れているのではないだろうか。あらん限りの怨念と恐怖が、俺に降り注いでいる。
[うわああ、、、あ゛あ゛ぁ、、、、] [お前のせいだ、、、] [早く助けて、、、はやく、、、]
嗚呼、もう無理だ。長らく抑え込んでいた狂気が、理性に入ったヒビから染み出してゆくのが分かる。おしまいだ。きっとすぐに、おぞましい黒に呑まれてゆくのだ。いや、まだ!! まだ終わってはいない、圧倒されるんじゃない。俺は耐えられる、俺は耐えられる。あがき続けろ。
とどめを刺すように、影のうめき声が響く。今までと、何かが違う。
ひとつの叫び声が、聞こえる。
今まで聞いてきたどの叫びよりも、長く、儚く、痛々しい。
恐怖と悲しみと怒りが、ぐちゃぐちゃに重なっている。何度もどこかで、聞いた声。
思い出した。
俺の、声だった。
理性の砕け散る、音がした。
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