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満月の夜、少年と少女は。
はじめの文と本文の関係が最初らへん見えてこないと思うんですけど、取り敢えず最後まで読んでみてください。
ミスった……。自主企画に参加しようとしてたんですけど、期限過ぎちゃってました……。
まあ、書いたので呼んで欲しいなぁ、と思って投稿しました。
ある、満月の日のことだった。
その日、彼らは出逢う。
少年は、月を堕とし、少女は、月の力を手に入れる。
――それぞれの、目的の為に。
|月影《つきかげ》|縲《るい》の朝は早い。
今朝も、四時にアラームが鳴った。
縲は、アラームを止め、ベッドから起き上がった。
コップの水を一杯だけ飲み、朝ご飯も食べず、ランニングウェアに着替える。
そのまま家の扉を開け、ランニングを始めた。
縲が家に戻って来たのは、六時を過ぎてからだった。
急いで朝の用意を始める。
トースターに食パンを放り込んで、軽くシャワーを浴びた。
シャワーを浴び終わる頃には、食パンは焼き上がっていた。
食パンにマーガリンを塗り、手早く食べる。
食べ終わった後、高校の制服に着替えた。
仏壇の両親に祈り、家を出る。
縲が通う高校は、月山高校という。月山学園の高校だ。
小中高一貫のこの私立学園は、富裕層も多く通う、超一流の学園である。
今日は、その高等部の入学式。
入学式の前に、ざっくりとした流れについて説明を受けた。教室の九割以上の生徒は、そんなの必要ないよ、という顔をしていたが。
月山学園は小中高一貫のため、中学、高校の生徒は、ほとんどが内部進学生だ。外部からの入学者は一割に満たないだろう。
だから、縲の隣に座る生徒を、縲は知らない。恐らく、あちらも知らないはずだ。なのに、その少年は、まるで友達のように話しかけてきた。
「よう! 俺は、|朝陽《あさひ》|葵《あおい》だ! 葵って呼んでくれ! よろしくな!」
葵は、そう言ってニカッと笑った。
この流れは、縲も自己紹介をしなければならない流れだ。
縲は、ここには学びにきたわけでも、馴れ合いできたわけでもないのだが……。
面倒だ。
縲は、溜め息を吐きながら言った。
「月影縲だ。よろしく」
「おう! 縲、よろしくな!」
まだそれほど親しくなっていない相手に名前で呼ばれたのだが、不思議と縲は嫌悪感を感じなかった。
「では、体育館へ移動してください」
自己紹介をしている間に、説明が終わったようだ。
席から立ち上がってぞろぞろと体育館に向かう生徒たち。縲と葵もその中に紛れ込んだ。
入学式は、無事に全て終わった。――縲以外の者にとっては。
縲は、入学式でとある人物を見かけた。瞬間、どうしようもないほどの殺意が湧いてきた。暴走しそうになる力を必死に抑えながら、縲はその場をやり過ごした。
それが起きたのは、入学式の新入生代表の挨拶のときだ。
「新入生代表の挨拶」
この言葉でステージ上に上がって来たのは、みんな見覚えのある人物だった。もちろん縲にも。縲にとっては悪い意味だったが。
「望月……」
思わず、その名前を呟いてしまう。
縲だけでなく、他の生徒たちもどこかざわついていた。
「――わた――――ま――た。――――……」
あいつが!
望月家が!
同じ学園、同じ学校、同じ学年で!
――俺は、どうすればいい?
縲の心はざわつき、周りの音が、声が、耳に入らなくなっていた。
殺す、殺す、殺す。
殺す。
コロス。
コロス。
殺す!
縲は自分の感情を抑えられなくなっていた。
「――、――ぃ、――い、るい、おい縲!」
ハッとしていつもの状態に戻る。
声をかけてくれたのは、葵だった。
葵は、ヤレヤレと首を振る。
「いやー、びっくりしたぜ。急に縲の様子がおかしくなっちまってよ。大丈夫か?」
「……ああ」
それから、また教室に戻って新学期に提出しなければいけない諸々の書類を集めて、この学園についての資料が配られた。
内部進学組は、「またか……」という顔で資料を見つめる。
どうやら、毎回わざわざ資料を配って説明しているようだ。
「今から、自由参加という形だが、この学園についての説明会を講堂で行う。なお、本日の授業はこれで終わりだ。以上、解散」
幸い、担任の|目暮《めぐれ》先生は淡々とホームルームを進めてくれるタイプの先生だったため、ホームルームはかなり早く終わった。
これが体育会系だったら手に負えなかっただろう。
恐らく、ここらで余計なイベントを挟んできていたはずだ。
大多数の生徒は、自分たちと仲良くやってくれる教師の方がいいのだろうが。
縲は、ここにそんな目的できたわけではない。
学園についての説明など無視して、さっさと帰る。
一秒たりとも無駄にできない。
学園のことなんて、知らなくても問題はない。
「なあ、一緒に帰らないか?」
葵が縲に声をかけてきた。
「悪い。今日は用事があってな。早く帰らないといけないんだ」
今日「は」ではなく、今日「も」だが。
「そうか。残念だけど、諦めるしかないな」
葵は心底残念そうに言った。
そして、その後ニカッと笑って、
「また今度、一緒に帰れる日があったら教えてくれ!」
と言った。
葵は素直でまっすぐ。
そんな葵の人間性に感化されたのか、縲は普段とは違うことを言う。
「分かった」
普段なら、「善処する」と言ってうやむやにしていた。
だから、今回のこの返しは特別。
「約束だぞ」
「ああ、分かってるさ」
この瞬間から、縲の本当の意味での学園生活は、始まったのかもしれない。
縲は走っていた。
一般人には不可能なレベルで、足を上げ、腕を振り、前に進むという一連の過程をなめらかにやってみせる。
「なぜ、あいつの無駄話に付き合った?」
そのせいで、時間を無駄にした。
今の縲は、先ほどの一連の会話をしたことを、心底後悔している。
「いや、今はそんなことを考えている場合ではない」
自問自答しながらひたすら走る。
師匠との約束の時間に遅れる。
それが現実になるのが、嫌で。
走って、走って、走る。
やがて、周囲の風景が都会のビル群から趣のある日本家屋へと変わっていく。
その中の、ひときわ大きな館が、縲の目的の場所だった。
「失礼します」
人に敬語を使うことが少ない縲が、ほぼ唯一と言ってもいい、敬語で接する人物。
「遅かったのう」
「すみません、師匠。学校で少し時間を浪費してしまいました」
「その程度、別に良い。学校生活、存分に満喫するが良い」
「ありがとうございます」
「それで、今日も鍛錬をしていくのか?」
「はい」
「そうか……。今日くらいは、儂が相手してやっても良いと思ったのじゃが……」
その言葉を聞いた瞬間、縲がバッと師匠の方を振り向いた。
「本当ですか⁉」
「本当じゃ。儂がこんなことで嘘をつくわけなかろう」
師匠は少し呆れている様子だったが、縲を見る目には師匠が弟子に向ける愛情のようなものがあった。
「ここでは少し狭いからのう……。道場に行こうか」
「はい」
縲は、師匠と共に道場へ移動した。
縲と師匠の二人は、どちらも模擬戦用の模擬刀を手にしていた。
師匠は、刀を抜いて隙のない構えをしている。
対して、縲は刀を納めて居合の構え。
「来い」
縲に先手を譲る。
「いきます」
集中を高めながら、大きく息を吸って、止めた。
そして、その息を鋭く吐きながら、師匠に向かって斬りかかる。
――その一撃は、師匠に容易く避けられた。
驚きで、縲の動きが一瞬止まる。
その隙をつき、師匠が縲に攻撃する。
「ほれ、避けられた時の対策は考えていなかったのか?」
師匠は、あえて、縲が反応できる程度の速さで攻撃する。
縲が成長できるように。
何も得られない敗北で終わらせない為に。
――要は、師匠は手加減していたのである。
それが、攻撃から読み取れたから、縲は、
「ふざけるな」
師匠に敬語を使わなかった。
激しい怒り。
普段の感情が希薄(望月家に対する復讐心がほぼ全てを占めている)な縲が、望月家関連以外で久し振りに覚えた怒り。
もしかしたら、自分が必死で積んできたものを否定されたような気がして、悔しかったのかもしれない。
縲は、自身を満たす感情のままに刀を振るった。
当然、そんな攻撃が師匠に通じるわけもなく、縲は一瞬で、
「……負けました」
敗北した。
だが――。
「すっきりしたか?」
「はい」
気持ちがすっきりしていた。
もちろん、さっきの激情の余韻は残っている。
そういうことではなく、今までずっと縲の奥に溜まり続けていた暗く、重い感情。
それが、少しだけ発散された。
――もしかして、師匠は俺の気持ちが乱れていて、それが弾けそうなことに気付いていたのだろうか。だから、思い切り体を動かす機会を作ってくれた?
きっと、師匠に聞いても教えてくれないだろう。
でも――。
縲は、自分の考えが師匠の思惑と多少なりとも重なっていると思い、
――心の中で、感謝した。
「さてと……」
師匠が話し始めたので、縲は考え事をやめる。
「まだ、鍛錬はやっていくかのう?」
「はい。もちろんです」
それから、縲は刀を振って自身の武を磨いた。
たまに、師匠からよくない点とその改善点を伝えられる。
それがいつもの光景。
学校に行って、その後師匠のところで鍛錬をする。
毎日、毎日、その繰り返し。
学校では、
「誰が一番かわいい?」
なんて、どうでもいい話をする。
そんな日々の中で、ふと、縲は今の自分の「始まり」について思い出していた。
望月家は「魔」を祓う為だとか言って、縲の両親ごと「魔」を殲滅した。その時、縲は祖父母の家に泊まっていた為、無事だった。
両親の死を目の当たりにした縲は、嘆き、後悔した。それと同時に、生き残った自分に激しい怒りを覚えた。
――望月家に、これ以上ない絶望を味わわせてやる。
縲は、命を捨ててもいいと思いながら望月家の情報を集めた。
すると、望月家はかなり特殊な家だと分かった。
「魔」を祓う為に月の力を使い、戦うらしい。
同じく「魔」を祓う為に戦う家があるらしいが、そちらは太陽の力を使って戦うそうだ。
「月の一族」望月家と「太陽の一族」は犬猿の仲で、いつもいがみあっているらしい。
望月家と太陽の一族の力は五分五分。
「魔」を祓う為であるなら協力は惜しまないが、それ以外のところではバチバチ。
――月の力を封じて、失墜させてやる。
激しい憎悪を抱きながら、今日も縲は強くなり続ける。
|望月《もちづき》|沙羅《さら》は今日も忙しい。
朝、望月家が祀っているツクヨミ様へ祈りを捧げ、それから家業についての勉強。
そして、学校へ行き、学校が終わるとそのまますぐに家へ帰る。
家へ帰った後は、「魔」を祓う為の訓練。
夜は、学校の勉強。
これを毎日、毎日繰り返す。
沙羅は望月家の天才児と呼ばれている。故に、そんな沙羅への期待は大きい。
それが、沙羅への大きなプレッシャーとなり、沙羅に重くのしかかる。
毎日、毎日、沙羅は追い詰められながらも勉強や訓練を頑張った。
「沙羅殿。もうすぐ〈|月借《つきかり》の儀〉ですな。準備はできておりますか?」
「ええ。まだ完了してはいませんが、大部分はできています」
「私は数パーセントしか月の力をいただけませんでしたが、天才と呼ばれる貴女なら、一割いただけるかもしれませんね」
沙羅は心の中でそっとため息をついた。
――みんな、私の外側しか見ていない。私の内側を見てほしいのに……
「そうかもしれませんね」
――〈|月借《つきかり》の儀〉。
長い詩を唱えて月の力を僅かに借り受ける儀式。
詩は、自分で気持ちを込めて作成する。
内容は、主にツクヨミを褒め称えるもの。
学校では、「沙羅が望月家の人間である」という一点のみをもって近付いてくる人間に辟易とし、家では「沙羅が天才であり、月と太陽のパワーバランスを月に傾けることができるかもしれない」存在としか見られていない。
みんな、沙羅を利用することしか考えていない。
心の中でため息をつきながら、今日も沙羅は勉強と訓練をする。
夏――
師匠から呼び出された縲。
「ほれ、約束のものじゃ」
そうやって、縲が受け取ったものは――
刀だ。
「ありがとうございます」
礼を言う。
「それと……」
「はい」
「〈月借の儀〉のことじゃが、明日あるそうじゃ。場所は、知っておるじゃろう?」
「はい」
縲は、望月家に対する憎悪を膨らませる。
「ありがとうございました」
師匠にしっかりと礼を言ってから、縲は師匠のところを後にした。
翌日――。
縲は師匠から貰った刀の様子を確かめていた。
刃はとても綺麗で、この刀の特別な力もちゃんと使えそうだ。
縲は、既に自分の刀を持っている。
では、何故師匠に新しい刀を貰ったのか。
それは、この刀の特別な力が関係している。
縲は、月の力をなくして、望月家の力を落とそうとしている。
月の力を封じる為の道具が、この刀なのだ。
「〈|月封《つきふう》じの刀〉、か……」
師匠に貰ったこの刀の名前を呟く。
「今日の夜か」
縲が、望月家への復讐を果たすまで、あと少し。
今日は、満月だ。
夜――。
沙羅はある森の湖の湖畔へ行き、〈月借の儀〉の準備を進めていた。
ツクヨミへ捧げる詩は、既にできあがり、沙羅の頭の中に完璧な状態である。
準備は整った。
沙羅が儀仗を構え、〈月借の儀〉を始めようとしたその時。
一人の少年が現れた。
「望月沙羅。俺は、月影縲。お前らに両親を殺された者だ」
そこで、少年――縲は一度口を閉じ、深呼吸してから、
「そして、月を封じる者だ」
堂々と名乗りを上げた。
「月を封じる!? 一体どういうことなの⁉」
沙羅は疑問に思い、縲に尋ねる。
「こういうことだ」
それに対して、縲は言葉ではなく行動で答えることにした。
「〈月封〉」
縲がそう言うと、空に出ていた満月の力が、少し弱まった。
「え⁉ 嘘……」
先ほどから沙羅は驚きっぱなしだ。
驚愕しながらも、このまま月の力が封じられてしまえば自身の将来に大きな影響が出ると朧気ながらも理解できた沙羅は、急いで〈月借の儀〉を始めようとする。
縲はそれを止めようと、ここに持ってきていた使い慣れた自分の刀で沙羅に攻撃する。
だが、必死に回避する沙羅には当たらず、刃は空を切った。
沙羅は極限まで集中し、いつもより自由な世界でいつの間にか、最初に決めていた詩ではない、別の詩を詠い出した。
それは、沙羅の覚悟の詩。
「私は、望月家に生まれた天才。
籠の中の鳥。
いつも誰かの|操り人形《マリオネット》。
だけど、それでも、私にできることはある。
だから、私は、貴方の前に立ちふさがる!」
沙羅が覚悟を叫んだその時、天から楽しげな笑い声が聞こえてきた。
「あら、なかなかおもしろい子がいるじゃない。いいわ。貴女には全部あげる」
そう言うと、光の粉が沙羅に降り注ぎ、沙羅の中へ吸収されていった。
「力が......! ありがとうございます、ツクヨミ様」
その一連の様子を見ていた縲が、
「一応聞いてみるが、望月沙羅、お前は俺の復讐に手を貸す気はあるか?」
否、と答えるだろうと思いながら聞いた。
ところが、意外なことに沙羅は、
「ええ。そうさせてもらいたいわ」
イエスと答えた。
「本当か?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、月の力は俺とお前で等分しようか。俺の刀で封じ、その儀仗に力を流す形で運用する」
「分かったわ」
「ちょっと待ってな……。あともう少しで全部封じ終わる」
「分かったわ。その間に、何故私たちが望月家に復讐したいのか、その理由を話さない? お互いを知ることも大切だと思うの」
「そうだな」
そこで、縲は自分の過去のことを話し、沙羅は自分の今までの扱いを話した。
お互いのことを知った二人は、より一層、望月家への復讐心を強める。
「取り敢えず、泳がせるか」
「そうね」
彼らの復讐は、これからが本番だ。
――ある、満月の日のことだった。
その日、復讐者が一人誕生する。
彼らの復讐劇は、一体どうなるのか。
そして、この世界の未来はどうなるのだろうか。