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又旅浪漫
森の中、樹冠にぽっかり穴が空き、
そこから差し込む日光の形に合わせ
"それ"はワサワサと茂っている。
「こんなに好条件な群生地は珍しい」
そう、このワサワサと茂るマタタビこそ
日々俺がニボシを稼ぐ術となるのだ。
ニンゲン界と同じ"仕事"である。
開花期と同時に葉の先端を白く染め、
花が散る頃今度は可愛らしい実をつける。
気持ち良さそうな日光に照らされ
葉は左右にさらさらとなびき、
果実はぽよんぽよんと上下に揺れている。
今は花こそ咲いていないが
美しい葉と果実はいつ見ても惚れ惚れする。
空気は澄んでいて、明るさも申し分ない
土壌環境も良く春の霜もおりない。
おまけに水も食料もあり
身を隠すのにも持ってこいときた。
こんな空間が、幸福が、
永遠の物にならないかと考えてしまう程だ。
「あっ」
ついつい見惚れてしまい我に返る
今日はこちらの"栽培"が目的ではない。
この群生地を囲うように存在する岩肌の崖、
クジラぐらいの長さはあるだろうか。
丁度クジラの腹のあたりに洞窟がある
それぞれの高さに
いち、に、さん、と飛び出た岩を
ネコの全脚力を使って登って行く。