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イルーゾォ夢です
お前との最初の出会いは、そう、きっかけだ。あの時。
任務が終わったあとだった。ふと気まぐれで、酒が飲みたくなった。
アジトに向かう途中あった居酒屋に、ふらふらと足を踏み入れる。いらっしゃいませと、いやに呑気な声がかかるのがいつも気に食わない。
そこに#名前#はいた。
最初は単純に、加えていかにも幼稚だが、可愛い顔だと思った。ここに来るにはいささか幼い印象の顔。正直、好みだった。
オレはごく自然に、その隣の席に座った。自然にと言っても、引き寄せられるようにとか、半ば本能的にだが。だがだからこそ自然なのだ。
隣のお前は突然来たオレに驚くでも怯えるでもなく、ただ静かに飲む。
ワインのグラスを傾ける度にからん、からんと氷がぶつかる音がする。
オレも、同じ真っ赤なワインを注文した。特に意味はなかったのだが、何故だかそうしたくなったのだ。
ワインを待つ間がどうにも暇で、暇で、だから、オレはオレたちだけの間に流れる張り詰めた空気を破ることにした。
「なあ、お前、何歳だよ。」
また飲む。
「だから、何歳?」
飲む。
「おい、答えろ。このオレが訊いてやってるのに。」
また飲んだ。だが、既にグラスの中身は邪魔くさい氷だけ。
初めてこちらをチラリと見た。
「……15歳です。」
「ハッ、傑作だな。気に入ったぜ。……お前、名前は?」
やっとこっちを見たと思ったのに、またすぐに視線をはずす。
ああそうだ、こいつはこういうやつだ。眉ひとつ動かさずに、至極簡単に気に食わないことをやる。そういうところがムカつくんだ。
……ああ同時に、愛おしい。
「言う必要あります?知らない大人には関わるなと学校で言われました。」
「……お前、舐めてんのか?あ?」
先ほどまでの態度は大目に見てやったが、今回のは少しばかりカチンときた。
こんなちっぽけなガキにおちょくられたという事実がとても気に入らない。
チンピラじみたことを言ったのに、それでもやっぱりお前はオレを見ない。それが今でも、この頃でも、どうしようもなくもどかしい。
みっともなく胸ぐらを掴もうと立ち上がりかけたところで、一瞬早くお前が立ち上がった。
あまりにも素早かったので、あろうことか、オレはそれで少し怯んでしまった。
いつの間にか入口の目前にたたずんでいた。取手にその白い手を引っ掛けて、もう既に扉は開きかけている。
「舐めてんのは、あなたの方ですよね。……私の名前は#名前#です。」
そう告げて、ふっと笑った。
その微笑は正に妖艶で、艶やか、危険で、それでいて酷く愛らしくて……。
そこからだ、オレがあいつに完全に溺れたのは。落ちて、夢中になったのは。
だが、もう姿がない。扉に取り付けられた、本来お客が来たことを知らせるための鈴がからんころんと揺れている。
店員の、ありがとうございました、という声が本当に耳障りだ。チッと舌打ちをする。
仕方なくオレは、我がスタンドで追跡を試みた。
それからは、面倒な任務なんかより#名前#を一日中眺めている。
朝起きるときも、食べるときも、出かけるときも、勉強のときも、着替えのときも、風呂のときも、寝るときも。
#名前#「」のことなら、なんでも知っている。
オレは、勝手にここまで好きになった癖して相当駄目な男だ。まあ、一応自覚はしなければ。
常にこの気持ちにがんじがらめに縛られている。囚われている。既に、いや最初からこの気持ちが異常なことには当然、気付いているがな。
そんなオレを哀れむ者は一人もいない。
そして、結構前のことだ。と言っても、あれからもうしばらく経ったあと。
オレは、自分だけの鏡の世界にあいつを引き込んだ。
今や、二人だけの最高の世界だ。
時間がかかってしまったのは、そう!金が足りなかったからなぁ?
二人分の指輪を買うための金が。
早速オレは、ひざまずいて彼女の薬指に指輪を嵌める。オレとおそろいの位置だ。
彼女は何も言わない。あの頃と同じように、ただ静かに佇んでいる。
そして、また少し年月が経った今。夢主は何も変わらない。
あの頃と何も変わらず、オレを見ない。見ようとしない。やはり、それがどうにももどかしい。そして気に食わない。
ただ、ただ少しだけ、ほんのちょっぴり喋るようにはなったかなぁ?
ずっとお前に言いたかったんだ。
こんなに、こんなにこんなに好きで好きでたまらないのに、だから、お前だってオレのことが好きだよな?
ありがとうございます!