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空に浮いたら。32
緊張した、重い空気が流れる。10秒ほどだろうか。麗王にとっては長かったその時間。その時間を耐えた後に帰ってきた返事は、驚きのものだった。
「覚えてる…?唐澤くんのことかな?もちろん覚えてるよ!」
(…………は?)
彩花には過去の記憶…………前の記憶があるはずなのだ。なのに、なのに、なのに………
大きな矛盾だった。
『ああそうか、なかったのか』という一言で済ませられるものではなかった。少なくとも、麗王にとっては。
「そ…………っか。」
額には汗が滲み、心拍数は上がった。
「ふふっ。」
彩花がかすかに笑ったことを気づかないほど、麗王は動揺していた。
「それより、ちょうどお菓子はあるんだ!一緒に食べない?」
にっこりと笑いそう言った彩花に、麗王はかなわなかった。
「…………食べよっかな。」
少し悲しげに笑った麗王の顔は、哀愁を漂わせながらも神秘的で、なによりも綺麗だった…………
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「それでりりがさ〜」
楽しそうに喋っているのは彩花ではなく、麗王だった。
一言で言うと、彩花は人を元気づけるのが上手かった。そして、神の能力で人の気分を上下させるのも簡単だった。その二つを使えば、どんな犯罪者でも清い心を気持ち悪いほどに持ったものに生まれ変わらせることができる。
(なんだろう…………というか俺なんで落ちこんでたんだ?)
そして『記憶』を消すことも、お茶の子さいさいだった。
「これ、美味しいな!めちゃくちゃ美味しい!こんなのどこで買っt…………」
そう言いかけた。
だけど言えなかった。
そう、口を塞がれた。
眠いよおおおおおおお!!!!!!!!