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S4 番外編
「……そっかぁ。あんなにイチャイチャして自慢してきたのにね!」
私は元気を振り絞って言ったが、それが精一杯だった。
「……あ~あ。そっかー」
「お嬢様、大広間に参りましょう」
メロディが背を向けて歩き出す。
私もついていった。
ただ、朝食をとるために。
ただ、それだけのはずなのに、足取りは重かった。
大広間の扉を開けると、香ばしいパンの香りと、焼きたての肉の匂いが鼻をくすぐる。
銀器が並び、召使いたちが忙しなく動いている。
けれど、空気はどこかざわついていた。
「ミリアーナ様、もうご出発なさったそうですわ」
「ええ、今朝早くに。お付きの者も最小限で……」
「まさか魔王城へ向かうなんて……」
貴族たちの会話が耳に入る。
私は席につきながら、パンをちぎる手を止めた。
(……ほんとに行ったんだ)
ミリアーナは言っていた。
「魔王と結婚する」って。
冗談かと思っていたけど、あの子は本気だった。
「お嬢様、紅茶を」
「ありがとう」
メロディがそっとカップを置く。
私はそれを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……ミリアーナ、ほんとに行っちゃったんだね」
メロディは静かにうなずいた。
「ええ。お嬢様が止めようとしていたことも、きっと伝わっていたと思います」
「止めてないよ。……止められなかっただけ」
私はカップを持ち上げ、口元に運ぶ。
紅茶の香りが広がるけれど、味はよくわからなかった。
(ミリアーナ。あんた、どこまで本気なの)
(魔王城なんて、行ってどうするつもりなの)
(……でも、あんたなら、きっとやり遂げるんだろうな)
私は静かにパンを口に運びながら、心の中で彼女の背中を見送った。
なんて。
私―――ルシアが思っている間のお話。
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目次
- 1......1 婚約破棄
- 2......2 胸の痛み
- 3......3 優しすぎるわ
- 4......4 笑ってないわ
- 5......5 奴隷ちゃん
- 6......6 家から出るか
- 7......7 奴隷が優秀すぎる
- 8......8 頭がいいのかしら
- 9......9 冒険にでるわよ①
- 10......S1 番外編
- 11......S2 番外編
- 12......10 冒険にでるわよ②
- 13......11 冒険にでるわよ③
- 14......12 双子の神狼
- 15......13 いざ冒けn……て、え?
- 16......14 フェンリルが地味に怖くてぴえん
- 17......S3 番外編
- 18......S4 番外編
- 19......15 森の奥深くに何とフラーゼ家の別荘がありました。