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2・決意
アントロ
親の口座には、一円も入っていなかった所から、本当に自己中だ、と改めて実感させられた。
だが、まだ未成年だった私達には、政府から補助金を貰える事になった。
それのお陰で、高校には楽に通える事になったし、バイト代を配信者になる為の機材に使う事も出来た。
「ただいまー」
「お帰り」
今、私はユイと2人で暮らしている。
葬式の費用もなかったので、死体はそういう機関に焼いてもらった。
その時もユイは『お母さん、お葬式できなくてごめんね...』と泣いてみせて、役員の同情を買い、ソフトクリームを貰っていたので、やはりこの子は凄い、と思った。
しかも役員の姿が見えなくなった瞬間、
「はァ? 何でバニラよ! 抹茶がよかったんだけど~?」
とプリプリ怒っていたので、人間不信になりかけた。
「お姉ちゃんこれ何? でっか...」
「これ? これはねー」
大きな段ボールを開けてみせる。
「わっ、PCだ! しかも|KALLERIA《カレリア》の...」
「高かったけど、やっぱこのくらいしたいなって」
「お姉ちゃんずっとバイトしてたもんね」
配信の為の機材はこれでほとんど集まっていた。
ヘッドホン、マイク、カメラ、PC周りの物も完璧。どれも恐ろしく高かったが、数ヶ月休みなしでバイトを続けて何とかフルコンプできた。
「後は...一番これが悩むな...」
「お姉ちゃん本体だね」
ここ最近ずっと考えていた。
近くのスケッチブックを開く。ここにはどんな見た目にするか、どんな服がいいか等、見た目の案を書きだしている。
「どう攻めるべきかな...」
「お姉ちゃんファッションは疎いもんね~」
「うん...あっそうだ」
横を見れば、ファッションはお手の物の、芸能人希望の女の子がいるではないか。
「えっ私?」
「それが一番いいかなぁと」
「うーん...まぁお姉ちゃんがいいなら」
ユイは私のスケッチブックを神妙な顔つきで見つめだした。
「やっぱふわふわ系が人気かな...お姉ちゃん目がぱっちりしてて綺麗な青色だからパステルなんて似合いそう」
そんな事を呟きながら、空いているページに髪型や衣装を書いていった。
「お客さん、こんなのどうです?」
「どれどれ...わ...!」
一目見ると、その見た目に釘付けになった。
ピンクのメッシュの入った水色のハーフツイン。パステルカラーのパーカー。
袖は少し腕が見えるようになっていて、藍色のリボンの髪留めとミニスカートがチャーミング。
「ユイ...! すっごいよ! 可愛い!」
「でしょ? あっ、今から原宿行ってウィッグとか買おう?」
「そうだね。行っちゃおう」
コスプレ専門店、ウィッグ専門店、仕立て屋と、色々な店を周りユイの考えた衣装を発注した。
費用は少し高かったが、妹と2人で町を歩いたのは久しぶりで、満たされた物の方が多かった。
それから数日して、自宅に荷物が届いた。
「いくよ...?」
「うん...」
「せーのっ!」
段ボールの一つ目には、パステルカラーのウィッグが丁寧に入っていた。
ユイの考えたウィッグにそっくりで、愛らしい見た目をしている。
「かわよ...」
「ユイが考えたのにそっくり。すっごい可愛い」
「えへへ...よし! 衣装も開けちゃおう!」
そう言ってガムテープを剥がし、箱を開く。
箱を覗くと、やっぱりユイの書いた物にそっくりなパーカーが畳まれていた。
その下にはスカートや、リボンの髪飾り。
「わわわ~~! きゃわあああ!!」
「すっご! 私これ着るの!?」
その可愛らしさや質の良さに怯むほどには、完璧だった。
「...ユイ」
「?」
「わ、わたし...」
私は決意した。
ユイが一生懸命に考えてくれたこの衣装。
それを完璧に作ってくれた業者の人達。
「最っ高の配信者になる!」
人生で一番、私の瞳は輝いた。
「...うん。私も...妹兼プロデューサーとして支えるよ!」
その言葉に、嘘はなかった。
アントロです。第二話でした。まだまだ梨花は成長するようですよ。