公開中
10.クランは雪を、作ろうとする
「お嬢様! お嬢様、いい加減起きましょう!」
うるさいわね、と思って目が覚めた。
目の前には、少し起こった風のサリアがいる。
そして、外では太陽が真上に近いところまでに登っており……
「あらら……」
わたくしは、つい、そう呟いた。
「あらら、じゃあありませんよ! 一体いつまで寝ているつもりだったのですか!?」
「いつまでなんでしょう?」
わたくしにだって分からないわ。
強いて言うなら……昨日。『寝る子は育つ』なんて考えたものだから、寝すぎないようにする制御が外れたのかしらね。
「はぁ……取り敢えず朝昼兼用のご飯でも食べてきたらどうですか?」
「……。ねえ、サリア」
「何でしょうか、お嬢様」
「あなた、怒っていない?」
「さあ、お嬢様に心当たりがないのなら怒っていないんじゃないでしょうか?」
心当たり、ねえ。確かに起きるのは遅くなってしまったけれど、それだけでサリアはこんなに怒らないわよね?
なら、きっと心当たりはないのだわ。
つまり、サリアは怒っていないということ。
安心したわ。
「まあいいわ。食べに行きましょう」
食堂へと向かう。
その途中、ふと外を見ると、キラキラと光を反射している小さなものが、はらはらと空から降ってきていた。
「雪だわ……」
正月になってから一週間が経っている。
そんな中で、ようやく雪が降り出したのだ。
「これは遊ばなくてはね」
「まだ積もっていませんよ」
「それくらい分かっているわよ。これからのこと」
……いっそ、魔法で雪を作ってみたらどうなるのかしら?
後で部屋に戻ったら試してみましょう。
ようやくついた食堂では、まだ昼の時間ではないからか、人は少なかった。
そして、周りを見渡して気が付いた。
この前のわたくしと同じ留学生の方がいるじゃない……!
わたくしは、さっそく話しかけてみることにした。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
「お邪魔してもいいかしら?」
「あ、うん、いいよ」
「ありがとう」
何だか気まずいわ。
えーっと、なにか話題話題。
「そう言えば、雪が降り始めたわね」
「そうだね。何だか安心するんだ」
「安心?」
「そう、僕、北の方のバンゲア帝国から来たからね。雪がたくさん降っていたんだ」
「そうなのね。わたくしはフィメイア王国よ。気候は大してここと変わらないわ」
「フィメイア王国から? へえ、そうなんだ。……あ、僕はシンディって言うんだ。あなたは?」
「そう言えばまだだったわね。わたくしはクランよ、シンディ」
「よろしく、クラン」
「ええ、こちらこそよろしく」
「……」
「……」
「シンディは明日の説明には参加するの?」
「もちろん。じゃないといろいろと分からなくて不便だからね」
「わたくしも参加するの。良かったわ、顔を知っている人が他にも参加するみたいで。一体何人くらいが来るんでしょうね」
「うーん。どうだろう? 分かんないや」
「そうなのね。ごめんなさい」
「大丈夫さ。……クランはこのあとどうするの?」
「このあと? 雪を観察して、魔法で雪を作ってみたいと思っているわよ?」
「雪を作るの!?」
「初めての試みだけれどね」
まず、魔術は二年前はそこまで得意じゃなかったもの。
去年は訓練に勤しんでいたから遊ぶ余裕なんてなかったしね。
「見てもいい!?」
「いいわよ。……けれど何にもならないと思うわよ?」
「いいよ!」
「そう……じゃあ、準備が終わったら廊下で待ち合わせでどう?」
「いいよ! じゃあまた後で!」
「ええ、また後で」
わたくしもちょうど食べ終わったことだしね。
……そう言えば、シンディの皿は少し前に空になっていたわよね? もしかしてわたくしが食べ終わるのを待っていたのかしら?
「お嬢様、行きましょうか」
「ええ」
ずっと端っこで静かに食事をしていたサリアがようやく声を出す。
……いつもながら、気が利くわね。本当に助かるわ。
「あ、クラン! 待ってたよ! はやく行こう?」
……。
部屋に帰って出来るだけすぐ出たつもりだったけれど、そこには当然のようにシンディがいた。
……準備が早いのね。
「ええ、行きましょう」
「シンディはどこか雪の観察にいい場所知っている?」
「うーん、分からないね。来たのも最近だし」
「そっか……じゃあ取り敢えず広場に行こうかしらね」
「広場?」
「そう、裏のファブローの森の手前に、こぢんまりとした広場があるの」
「へえ、そうなんだ!」
広場に向かっているうちに、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
「ねえ、これ、本当にやるの?」
「もちろんよ? だって明日はやる時間なさそうだし、その次の日からは学園がとうとう始まるもの」
「そっか……もっと厚着してくれば良かった……」
「? 火魔術は使わないの?」
「……どうしようかな……」
「何かいいにくいことがあるのなら、言わなくてもいいわよ?」
「うん。今はありがたくそうさせてもらうね」
何か事情があるみたいね。
まあまだそんなに深い間柄ではないもの。いずれはそうなれたらえいいな、とは思うけれど、今は早急よね。
「ねえ見て! とても綺麗よ!」
「僕のものはこんな柄だね」
「あら、柄は同じではないのね。じゃあこっちは……また新しい柄だわ!」
「そう言えば聞いたことがあるかも。確か雪の結晶は一つとして同じジャたちのものはないんだって。似た形のものはあるけれど」
「そうなの? ……あ、これは始めのやつと似ているわ! けれど、確かに少し違うわ。その話、本当かもしれないわね」
「でしょ?」
しばらく二人で結晶を探し、観察した。
「水よ、結晶となれ」
十分観察できたと判断し、一度、作ってみる。
出てきた結晶は、一個だった。
「結晶じゃあだめなのかしら?」
「うーん、結晶だと一つに数えられるんじゃない?」
「そうかも知れないわね。なら……水よ、雪になれ」
今度は、少しだけ、雪が出てきた、が、この吹雪いてきた天候の中で、満足に観察することができない。
「ある程度上手くいったし、いったん建物に帰りましょう」
「そうだね」