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白い部屋。
何か言われた気もする。
善く状況がわからないまま手を引かれて連れ出された。
暗い廊下を抜けていった先で強い光に目が眩んだ。
再び目を開いたときには__________
消臭スプレーを振り撒く少年がいた。
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「……」
「太宰君、いったい何をしているんだね?」
少年は隣りの男性のかけた声に振り返った。
「あぁ、森さん。見てわかるでしょう?消臭スプレーを撒いてる」
「うんそうだね見たらわかる。……では理由を聞いてもいいかな?」
「ちょうど森さんがいなくなったから。|中年《おじさん》臭でも消そうと思って。」
「酷くない??」
「ところで、その子誰?誘拐?とうとう犯罪にまで手出したの?」
少年は僕を見て言った。
「うん。森さんのタイプっぽい。」
そっと、隣の「森さん」に目を向けると不運にも目が合ってしまった。
「…違うからね?」
信用できない。
「やーっと消臭し終わったところなのに帰ってきちゃうんだから。ほんともうちょっと遅く来てくれたらよかったのに」
「私の医院なんだけど?」
「僕だって森さんと同じくらいの時間此処で過ごしてるんだ。そのくらいの権利あるでしょ?あー…僕消臭スプレーのにおい嫌いなんだよねぇ」
そういうと少年は窓を開け放ってしまった。
何がしたいんだろう。
「名前は?」
あらゆる窓を開けながら少年が言った。
「森さんの誘拐してきた子の名前」
「だから誘拐してないって」
彼は視線を僕に移し替える。
カツカツと靴が音を立てて近付いてくる。
目の前まで来ると少年はスッとしゃがんでいった。
「名前と年齢は?」
パクパクと口を動かす。
なんか、なんか言わないと、。
「ぼ、く…は」
少年の鋭い視線が上に移る。
「……この子男の子?」
「厭?一人称が僕なだけの女の子」
あー、と少年が頷く。
「森さんの好みね」
「違うって!」
「あ、まね」
「え?」
「名前、アマネ…|年齢《とし》は…9」
ふぅん、と興味なさげに頷く。
「やっぱり森さんのタイプじゃない」
誘拐してきたんでしょ?という少年。
「…此処に来るまでの記憶は?」
「誘拐してないからね??」
「……ない」
「え?」
「へ?」
「何してたか、わからない」
二人が目を見合わせる。
「……やっぱり誘拐」
「違うからね??」
「じゃあ今まで何処で生活してた?」
「…貧民街。最初は仲間がいたけど、置いてかれちゃって、」
「なんで?」
「異能が怖いって、」
「異能持ちか。うん。どんな異能だい?」
「……『コピー』」
少年が目を丸くした。
「…どんな異能を持ってる?」
「衣服を操る異能、と数秒先が視える異能」
「衣服…あぁ、成る程。『吠えぬ狂犬』か。『数秒先が視える』?それも貧民街に?」
「ううん。元暗殺者の青年。僕を世話してくれてた」
「暗殺者。未来が視える。へぇ…面白い。ねぇ森さん」
「はいはい。取り敢えず彼女の回復が先。この先の話はそれ以降に。」
はぁい、と言って少年は窓を閉めた。
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今日の日記
目が覚めたら「森さん」の医院にいた。何故怪我をしたのかは覚えていない。
「森さん」は闇医者らしい。この医院の院長。ポートマフィア首領の専属医。少年曰くロリコン。
少年の名前は太宰。自殺をしようとして飛び降りたところ森さんに助けられた。頭がいい。
もう一人『エリス』という子がいると聞いた。僕と同じくらいの年だそうだ。金髪隻眼のかわいい子だと森さんが言っていた。ロリコンという話は本当らしい。
俺ㇷァブリーズのにおい苦手なんだよね。