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第8話:ダブル鎮圧の恐怖
その日、大塚家のリビングには、時代錯誤な「男塾」のような熱気が渦巻いていた。
和正が腕を組み、大雅と向き合っている。
「いいか大雅。我々大塚家の男が、いつまでも女房や彼女に尻に敷かれていていいのか!?」
「……いや。……よくない、親父」
「そうだ! 今日こそは、男の威厳というものを見せつけてやるのだ。琥珀ちゃんと母さんが買い物から帰ってきたら、我々は一歩も引かず、ドッシリと構える。いいな!」
二人は黒スーツに着替え、ソファに深く腰掛けた。
和正は葉巻(チョコ菓子)をくわえ、大雅は腕を組んで足を組む。そこには「一切の妥協を許さない組織のトップ」二人が並んでいるような、圧倒的な圧があった。
ガチャリ。
「ただいまー! 重かったぁ、大雅くん手伝って……って、何その格好」
買い物袋を両手に下げた琥珀と、その後ろで微笑む母。
「……ふん。……琥珀、荷物はそこへ置け。……俺たちは今、重要な『男の儀式』の最中だ」
大雅が低く、地響きのような声で言い放つ。和正も深く頷き、「お出迎えは不要だ。茶を淹れなさい」と、震える声(緊張)で命じた。
静寂。
琥珀と母が顔を見合わせ、スッと目を細める。
「あら、あなた。……今、なんて言ったの?」
母の笑顔が、一瞬にしてマイナス40度の氷結オーラに変わる。
「大雅くんも。……私、お砂糖とか牛乳とか、重いものいっぱい買ってきたんだよ?」
琥珀もまた、いつもより一段低い、けれど逃げ場のないトーンで声を合わせた。
そして。
「あなた。」
「たぁ〜い〜がぁ〜。」
――ズドォォォォォン!!
大塚家のリビングに、見えない雷鳴が轟いた。
琥珀と母による、究極の「ダブル鎮圧ボイス」。その威力は、通常の2倍どころか、二乗、三乗の破壊力となって男たちを襲った。
「「…………ッ!!」」
0.1秒後。
ソファで踏ん反り返っていたはずの180cmと173cmの巨漢二人が、まるで吸い込まれるように床へと滑り落ち、寸分の狂いもない綺麗な「正座」を決めていた。
「……すみませんでした」
「……調子に乗りました。……荷物、持ちます。……全部持ちます」
和正はサングラスを外してニコニコと謝り、大雅は顔を真っ赤にして琥珀の足元で縮こまっている。
「よし、よろしい! じゃあ、これ全部キッチンに運んで。あと、お風呂掃除も二人でやってね」
母の号令一下、二人の「若頭」はテキパキと小走りで働き始めた。
「えへへ、大雅くん。お風呂掃除終わったら、さっき買った果物剥いてあげるね」
「……ああ。……全力で、ピカピカにする」
結局、男の威厳など微塵も残らなかったが、琥珀の優しさに触れて、大雅の心はまたしても完敗(大満足)の状態に。
大塚家の「真の支配者」が誰であるか、改めて刻み込まれた午後であった。
終わり