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13.遭遇
そして、響は歩き、いや、カグラは歩き始めた。
隣の村の情報を聞き忘れたとはいえ、今の響にはカグラという足がある。
大丈夫でしょ、と安心していた。
……背中に怖気を感じるまでは。
それを感じたのは、昼過ぎのこと、お弁当を食べ終わったころだった。
(何?)
慌ててあたりを見回したところ、それはいた。見た目は……そう、オオカミのような感じだ。
逃げるべきだと判断し、響はカグラを走らせる。
(なんでこいつはそんなに体力があるの!?)
響は走らせながらそのオオカミに悪態をついた。もちろん、カグラも十分な体力は持っている……というか、カグラは響が走れ、としなくても逃げただろう。カグラはそんなに響に愛情を抱いているわけではないし、それ以上にオオカミが怖かったのだ。響は、落ちないように、頑張った。
オオカミのスピードが上がった。
(噓でしょ!?)
響は悲鳴を上げる、しかし、オオカミはなぜか響たちを、追い抜いた。
カグラは響が合図を出す前に、減速した。すると、オオカミも減速した。
そして、疲れたカグラは、立ち止まった。オオカミも、立ち止まった。
響は、カグラから降りようと思ったのだが、オオカミが怖くて降りられなかった。
オオカミは、響たちの隣にやってきた。それは、響に、背中に乗っていいよ、と言っているようで……響は、カグラからオオカミに乗り移った。
すると、オオカミはゆっくり走りだした。
(え?)
カグラは、一応ついてきてくれている。
(これってもしかして、オオカミの巣に持っていかれるの!?逃げなきゃ!?)
響は、オオカミから飛び降りた。
ひどく危険な行為である。背中だったらオオカミが食べるということはないというのに、自分から降りて、食べに来てもいいよ、と言っているかのように、動かないのだ。
オオカミは、近づいた。カグラは、離れてオオカミと響を見守っている。
(え?何々?)
オオカミは、響をなめた。
(はぁ!?)
もちろん、響がオオカミから飛び降りたときについた傷を、である。
いつしか、響のオオカミに対する怯えは消えていた。
オオカミ……実際は別の名前の種であるが、ここではオオカミと呼ぼう……は、退屈していた。家族の中でも自分が一番早いからである。一週間前に生まれたばかりであるのにかかわらず。何時も見かける獲物の足が速くないことは、数回追いかけたら分かった。そんな時、初めて見る獲物がいた。
オオカミは、「追いかけっこしようよ。」と、近づいていく。
そして、その獲物が逃げ出した。かけっこ、スタートである。
オオカミは、感心した。追いつけなかったからである。それがいつまで続いただろうか?その生き物の、スピードが落ちた。
オオカミは、「今だ!」とばかりに追い抜く。すると、他の動物と同様に、スピードを落とした。そして、本来ならここで負けた代償として食べてやるつもりだったが、オオカミは、そうしないことに決めた。この動物と仲良くなって、もっと追いかけっこをしてからでも食べるのは遅くない、と思ったからである。
オオカミは、あまりにも無知だった。
世の中を見れば、カグラより速い馬などたくさんいる。そして、オオカミより速い魔物もたくさんいる。
……オオカミは、判断を間違えた、かもしれない。それは今後の響の活躍によって変わる。
響は、オオカミを見て、一緒に連れていきたいな、と考えている。しかし、見た目はオオカミだ。お母さんたちが許すはずがない。
(そうだ!)
響は思いついた。このオオカミを犬だということにしよう、と。
日は沈みかけている。響たちと一匹のオオカ……犬は、村を探しに行くことにした。
「あのー今夜、泊めてもらってもいいですか?対価は、農業の知識です。」
「知識をくれる?お前さんはもしや神子かい?」
(ここでもかい!?)
響はずっこけた。
「あと、この馬と犬もお願いします。」
「……犬?かい、これが?そしてお前さんは神子なのかい?どっちなのさ。」
響は、なんて答えるべきか、迷った。