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3.ふたりのり
転校してきて、1週間が経った。
クラスの子達とも馴染めてるし、すみれとはだいぶ仲良くなれて、週末にはカラオケに行く約束をした。
「おはよ!すみれ」
「おはよー今日はお団子じゃん。かわいー」
「へへ」
朝少し時間をかけてセットをした髪を撫でる。
「湊もおはよ」
「おう」
湊は課題をやりながら、ちらっとこっちを見る。
「いつもと髪の毛違うね」
「うん!かわいいでしょ」
「さーね」
「ええー」
湊は、女子の扱い方を分かってるっていうか、見透かされてる感じがする。
最初は野心があるタイプだと思ってたけど、意外と話も面白くて、たまーに優しい。
みんなからも人気で休み時間は「湊ー」って声がよく聞こえる。
私が寒いと呟くと先生にエアコンの温度を上げるように発言してくれたり、教科書を見せてくれたり、悪い奴ではないんだと思う。
放課後、私は終わっていない課題を教室で1人進めていた。
「山田じゃん。何してんの」
顔を上げると、湊が教室に入ってきていた。
手にプリントを持っている。
「課題の残り。もう終わるよ!」
「俺は委員会。岡先生だるすぎた」
湊は私の隣の席へ鞄を置いて、帰る準備を進めていた。
すると何かが鞄から落ちたので、私が拾い上げた。
それはおもちゃのネックレスで、おもちゃとはいえどとても綺麗な作り。青い宝石がついていた。
こんなのThe男の子の湊が買うわけないし、妹のか…それか、彼女のかな。
「綺麗だね。…彼女の?」
「はっ。彼女なんかいないよ!駄菓子屋のくじで当たっただけ」
湊は照れくさくありがとうと言ってから、私の手からネックレスを取る。
「この辺に、駄菓子屋なんてあったの?」
「え、うん。桟橋のあたりだよ。知らない?」
桟橋のあたりは街頭が少ないからまだ行ったことがなかった。
「知らない…。駄菓子屋、夢だったの!行きたい!」
私は顔をあげて湊に言う。
すると湊は少し照れくさそうに、
「このあと、行く?」
と呟いた。
湊と一緒に駐輪場まで歩く。
歩幅が少し私よりも大きくて、男の子を感じた。
でも私に合わせたりしないところが、湊らしいなって、知り合ったばかりだけど思った。
「あっ。私今日車で送ってもらったんだった…どうしよう」
「?後ろ乗れば?」
「わぁー!凄い!綺麗!はやーーい!」
「うるせー!」
海が見える坂を、湊の後ろに乗って、自転車で駆け下りる。髪とスカートが風に靡いて、心地がいい。
空も、海も見渡す限り全部青くて、心が弾ける。
「私、2人乗りって夢だったの!こんなの初めて!」
「お前夢多すぎるだろ!!」
「夢は大きい方がいいんだよー!」
「多いと大きいは違うー!」
2人で、笑いあった。
人生で一番涼しくて、青くて、爽やかで、楽しくて。こんなに清々しいほどの青春、味わったことがなかった。
湊の背中は大きくて、抱きつくと安心した。
駄菓子屋に着くと、湊がくじを引かせてくれた。
2等が私のほしいネックレス。
箱の中をガサゴソと探って引いたくじを開くと、“6等”の文字。
私が肩を落としていると、湊が「おばちゃん、もう1枚」と五十円玉をおばちゃんに渡した。
湊が箱の中に手を入れる。
引いたくじを開く。
「おっしゃ」
湊は2等を引いた。
おばちゃんが6等のキーホルダーと、湊が引いた2等のネックレスを渡してくれた。
「はい。お揃いだね」
湊がポケットから自分のネックレスを取り出し、笑って見せた。
だから私は6等の貝殻のキーホルダーを湊に渡した。
「今日のお礼。ありがとう」
湊に微笑むと、湊は少し頬を赤らめて「おう」と一言。
帰り道も湊は自転車の後ろに乗せて、家まで送ってくれた。
ばいばいと手を振る湊の首元と、ありがとうと叫ぶ私の首元には、同じネックレスが光っていた。
夜眠りにつく時に、ネックレスを光にかざして眺めていた。
湊のことを思い出して、微笑みが漏れてしまう。
もう気がついてしまった。
恋に落ちてしまったことに。