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第一章 人間の霊術師
僕は、いつも通り、いろんな場所をうろうろしていた。
散歩していたって言うのが正しいと思うけど、僕は歩いていないからこっちが正解だとも思う。
まぁ、とにかく、人間たちがとことこ歩いているのを眺めながら空を飛んでいた。
そしたら、急にどこかに引っ張られて、変な檻に閉じ込められた。しかも、どんな壁でもすり抜けられる僕でも出られない!
おまけに、檻に貼られたお札のせいで、檻の外が見えない…………。
「ねぇ、僕を捕まえて何するつもり?」
「………」
「ね~え~!何するつもりなの!?」
「うるっさいな!!お前の声は俺くらいにしか聞こえないだろうから、アジトに着くまで待ってろ」
男の人みたい。でも、僕は今まで人間に『認識』されたことなんて、殆どない。でも、あじとって何だろう?
「ほら、着いたぞ」
お札を剥がされて、檻から出された。
「僕を連れ出してどうするつもりなの!?」
僕を捕まえたみたいな長い髪の男の人をバシッと叩く。でも、するっとすり抜けた。ぐぬぬぅ。
……もう怒った!『憑依』してやる!
僕の体からほんわりとした青い光が溢れる。
前に、僕と同じ幽霊に教えてもらった。幽霊は、人間の肉体に入り込んで、少しずつ人間の中の魂を追い出していって、完全に魂を追い出したら、人間に『憑依』できるらしい。
「……っおい!落ち着け!」
男の人の魂を追い出していく。初めてだけど、僕、『憑依』、なかなか上手いんじゃない?
そう思っていたら、男の人が、さっきのお札を自分の体に貼った。
「っ、なんで……!?」
とたんに、僕の『憑依』が効かなくなった。男の人は僕を体から追い出した。
「落ち着けって。俺はお前を利用しようとなんて、これっぽっちも考えてない。むしろ、協力して欲しい」
「……何をさ。何を協力して欲しいのさ」
「俺、お前みたいな幽霊を使って怪奇現象を解決するのが本業なんだよ。ただ、幽霊がなかなか集まらないから困ってたんだ。だから、俺と協力して、怪奇現象を解決してくれないか?」
「やだ。僕、かいきげんしょうが分からない。それにそれ、僕にいいことないよね?」
僕は人間をあまり良く思っていない。よく知らない人間にこき使われるだけで僕に利がないなんて、人間たちの言う『ぶらっく』だと思う。
「……本当に無理ってんなら、これを使ってでも協力して貰う」
男の人はそう言って、何かの紙を差し出した。
「なにこれ?」
「……束縛の、魔術契約書。これに二番目に触れた者は、最初に触れた者に永遠に付き従うことになる。天国まででも地獄まででも、来世もその来世まででも。仕事が出来ない代わりにこの手の物を作る技術は上がったからな」
ぞくっとした。もしかしたら、僕があの紙に触ったら、この男の人に永遠に付き従うことに……?
「分かった。束縛しないなら、協力はする。その代わり、僕無しでも大丈夫になったら、僕を成仏させてほしい」
「成仏だと?幽霊は成仏することを厭うはずだが……」
「僕は人間が嫌いなんだよ。なのに、人間だらけの世界をず~っとうろつくしか出来ない僕の気持ちわかる?」
「……分かった。俺が一人前になって、霊を多く集められるようになったら、成仏させてやる」
「ありがと。それと、僕をこき使うようなことをしたら、隙を突いて『憑依』するからね」
「……分かった」
ある幽霊の物語、第一章が始動しました。
今回の物語、長くなる予感が……。
一応、ファンタジーのつもりです。