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ウマ娘~オンリーワン~ 16R
ちょっと長すぎてしまいました。
ごめんなさい。
第2章『憧れのレース編』第3部
「パシャ、パシャ――」
司会「それでは、URA賞最優秀ジュニア級ウマ娘を受賞された、アスターウールーさん、アスカウイングさんのお二人でーす!」
「パチパチパチパチ!!」
司会「それでは、まずはアスターウールーさんから。昨年は、アルテミスステークス、そして阪神ジュベナイルフィリーズを制覇し、晴れて最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれましたが、その上での今年の目標を教えてください。」
アスター「はい。今年の目標は――世代最強マイラーになることです。」
司会「世代最強マイラー……素晴らしい目標ですね!応援しています。さあ、続いて、アスカウイングさん。アスカウイングさんも、昨年はサウジアラビアロイヤルカップ、そして朝日杯フューチュリティステークスを勝ち、最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれましたね。それでは、今年の目標をどうぞ―――」
この|瞬間《とき》が、あたしはとても嬉しかった。
だから、誓ったんだ。
これからも、たくさんのレースで1着になって見せるって。
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16R「君にだけは」
実況「――――なんとなんと!!アスカウイング4バ身差で圧しょーう!ここは負けられない、GⅢ・アーリントンカップで、見事NHKマイルカップへの切符をつかみました!昨年のURA賞最優秀ジュニア級ウマ娘の意地を見せました!」
〈控え室〉
「すばらしいです!!アスカさん!」
あたし―――アスカウイングのトレーナー・|篠原譲次《しのはらじょうじ》はそう言い、手を叩く。
あたしは、彼があたしの祖父の古くからの友達であった縁もあり、彼のチームに入った。
とても紳士的で、年も大分下のあたしにでさえ敬語で話す。そして、いつもスーツを着こなす。
篠原「目標のNHKマイルカップ、見事出走できましたね!」
アスカ「うん!この調子で、頑張らないと!」
篠原「そうですね。NHKマイルカップには、最近勢いを増している強敵も参戦して来ますからね―――」
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「タッ、タッ、タッ………」
「よし、そこまで!……よく頑張ったね!」
「ああ。やっぱり負けられないからな!アスカ殿には……」
あたし―――グッドラックナイトは、ジュニア級のとき、一度もレースで走れなかった。
デビューしたのも1月と、同期の中で1番遅かった。
トレーナー―――|五十嵐砂夜《いがらしさよ》殿曰く、あたしは、晩成タイプで、成長が遅いとのこと。
でも、それをはねのけるように、メイクデビュー、1勝クラス、重賞のニュージーランドトロフィーと勝ち上がってきた。
今はアスカ殿と同じで無敗だ。
やっと、アスカ殿と同じ舞台に立つことが出来た。
立つことが出来たからには、絶対に勝たなければいけない―――
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実況「さあ!やってまいりました!本日のメインレースは、GI・NHKマイルカップ!今年も、期待のクラシック級マイラーがたくさん集いました!
まずは1番人気!5番・アスカウイング。昨年、URA賞最優秀ジュニア級ウマ娘に選出。朝日杯フューチュリティステークスの覇者であり、前走のアーリントンカップは4バ身差での圧勝。4戦4勝。NHKマイルカップの制覇はもはや死角なしと言って良いでしょう。
続いて、11番・グッドラックナイト。こちらは今このメンバーの中で最も勢いのあるウマ娘であります。デビューはなんと3ヶ月前!前走のニュージーランドトロフィーを1番人気で制し、3戦3勝。アスカウイングとの直接対決となります。
続く3番人気です。8番・グレイトタイムズ。前走のファルコンステークスにて重賞初制覇。こちらも4戦4勝です。
続きまして、4番人気は、4番・シンタルカ。前走のニュージーランドトロフィーでは悔しい2着。重賞は未制覇ですが、オープン線のクロッカスステークスは1番人気で制しています。
5番人気は、12番・ラブリーマイン。前走のアーリントンカップでは2着。さらに朝日杯フューチュリティステークスでもアスカウイングに敗れ2着。アスカウイングに勝利し、逆襲なるか。
6番人気は、3番・レオフラペチーノ。ファルコンSをグレイトタイムズとの同着で制覇。前走のニュージーランドトロフィーは3着で敗れました。
以上、主な出走ウマ娘の紹介でした。」
ついに、来た。NHKマイルカップ!
この勝負服を着るのも、二回目だ。
紫色の肩出ししたワンピース。
その上に片方だけ羽織った茶色のカーディガン。
まるでどこかの国の民族衣装のような勝負服だ。
露出は少し多い気がするものの、あたしはこの勝負服を案外気に入っていた。
遠くの方に目をやると、そこにはグッドの姿があった。
裾が長い半袖の洋服。
その下にはピンクのスカートを履き、白いラインの入った青いニーハイソックスも履いている。
靴はサッカーで使うスパイクを模したものを身に着けていた。
背中には剣を指している。
グッドらしい勝負服だ。
グッドは初めてのGIで緊張しているかもしれない。
だけど、あたしは2回目。それに1回目は勝っている。
自分でも驚くほど、そんなに緊張はしていない。
あたしは勝つんだ。
勝って、クラシック級でも最強ウマ娘に――――!!
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「パーッ、パパパーッ……」
辺りにファンファーレが鳴り響く。
まもなく発走時間だ。
みんなゲートの近くに集まり、それぞれのゲートに入る。
しばらくし、あたしもゲートの中に入った。
実況「さあっ、体制が整いました。クラシック級マイル王は誰の手に!!NHKマイルカップ………」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!まず先頭に立ったのは、7番・アイルです。GI初出走。およそ1バ身半差離れて2番手は3番のレオフラペチーノと8番・グレイトタイムズが並ぶという形になりました。そして半バ身差離れ、ここにいます。11番・グッドラックナイト。デビューからの先行策、GIの舞台でも同じでした。―――」
東京レース場の芝1600mは、あたしがジュニア級のとき、サウジアラビアロイヤルカップで経験している。そして、勝っている。
あたしにとってはとても有利……!!
実況「4番手グッドラックナイト、真ん中の方に位置するアスカウイング、全く動きません。さあ、だれから動くのか。――おっと、12番・ラブリーマインがグッドラックナイトとの差を縮めます――そして、グッドラックナイトを見る形で、ピッタリとマーク。」
ラブリーマイン(アスカウイング……今日こそは絶対に勝つ!朝日杯フューチュリティステークスだって、アーリントンカップだってずっと私はアスカウイングに負けてきた。だけど、今度こそは……!!)
実況「さあ、まもなく第4コーナーに差し掛かります。……おっと、12番・ラブリーマイン、仕掛けた!!あっという間に2番手です!」
動いた!
ウマ娘のレースでの、暗黙の了解。
一人が仕掛けたら、みんなが一斉に動く。
もちろん、あたしも仕掛ける。
実況「ラブリーマイン、先頭!おおーっと、しかし、間からやって来ました!グッドラックナイト!グッドラックナイトです!あっという間に交わし、先頭!1バ身、2バ身と差を広げていく!」
グッド……??
いや、まだだ。まだあたしが来ていないんだから!!
アスカ「うおおおおおっっ!!!」
実況「来ました、来ました!外からアスカウイング!外からアスカウイング!ものすごい末脚だ!アスカウイングがグッドラックナイトを猛追!………しかし、先頭はグッドラックナイトだぁーーっっ!!――勝ったのは、グッドラックナイト!なんと、デビュー3ヶ月半で頂点の座を掴みました!これで4戦4勝!アスカウイングの無敗記録は無念のストップです――――」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ………」
嘘でしょ……
もう終わっちゃったの…?
負けるのって、こんなにあっさりなの?
今まででも出したことのないものすごい末脚だった。
グッドとの差が一気に縮まって………
でも、届かなかった。
ああ、あたしはグッドより弱かったんだな。
あたしは、気持ちの整理もつかないまま、天を仰いだ。
こんな時に限って、空は雲一つない快晴だった。
こうして、あたしの一生に一度しかないNHKマイルカップは終わった。
〈2週間後〉
「タッ、タッ、タッ……」
篠原「いいですよ!その調子!」
メガホン片手にトレーナーが叫ぶ。
NHKマイルカップから2週間。
次走は安田記念。
今は安田記念に向けてのトレーニングをしている。
しかし、グッドラックナイトも安田記念参戦の意向を示しているようだ。
また、グッドと戦う。
リベンジできるチャンスだ。
今度こそ、グッドに思い知らせてやる。
クラシック級のマイル王は、|アスカウイング《あたし》だと………!!
〈安田記念当日〉
実況「さあ、やって参りました。春のマイル王者決定戦・安田記念。降りしきる雨の中、去年に変わらず、今年もたくさんの実力のあるウマ娘が出走します。
まずは一番人気です。2番・グッドラックナイト。前走のNHKマイルカップを勝利し、4戦4勝。期待の新星です。
続いて2番人気です。3番・ヤマトレギュラー。おととしの皐月賞ウマ娘であり、その他にも重賞を2勝しています。
3番人気は、13番・ダークイーグルス。前走のダービー卿チャレンジトロフィーで勝利。重賞初制覇を成し遂げました。現在三連勝中です。
4番人気は、5番・アスカウイング。5戦4勝。前走のNHKマイルカップではグッドラックナイトに敗れ4着。リベンジは果たせるのか。
続いて、5番人気です。1番・フォアシズプライド。アメリカからの刺客で、去年の凱旋門賞に出走し、7着という経験があります。
6番人気は、12番・ワールズファスター。去年の安田記念では3着。重賞優勝経験もあります。
さあ、選ばれし17名のウマ娘たち。その中で春のマイル王者の称号を掴むのは、一体どのウマ娘なのでしょうか?」
今、あたしたちはゲート前にいる。まもなく出走だ。
周りを見渡すと、どれも強そうなウマ娘ばかりだ。やはりシニア級ウマ娘という|風格《オーラ》があるからなのだろうか。
――――前回のNHKマイルカップでは4着。
絶対に勝ってみせる。
少なくとも、|グッド《君》だけには………!!
すると、出走時間がやってきたのか、次々と周りのウマ娘たちがゲート内に入っていく。
あたしも、割と早めにゲートの中に誘導された。
―――ゲートの中。少し狭くて落ち着かない。
あたしは、ゲートが開くのをひたすら待った。
そして、その時は来た。
「―――ガシャン!」
パッと視界が開ける。
あたしは、反射的に勢いよく走り出した。
観客の歓声、かすかに聞こえる実況アナウンス。
これが、安田記念!!
実況「――――さあ、まずは誰が行くか!4番・バールセイリンがグイグイと来ました。重賞4勝です。1バ身差で2番手は、1番・フォアシズプライド。さらに1/2バ身差と開き、3番手は3番・ヤマトレギュラー。それを見る形で2番・グッドラックナイト、並んで16番・ラージパルフェが追走しております。人気ウマ娘はほとんど前の方です!」
――――ここはGIを勝利したウマ娘がたくさんいる。
アスカ殿もそうだし、前を走っているヤマトレギュラー殿も皐月賞を勝っている。
でも、あたしだってその中の一人だ。
大丈夫。4戦4勝。
内、安田記念のコースでもある東京芝1600mは3戦3勝。
メイクデビューも、その次の条件戦も、NHKマイルカップも、全部勝てたじゃないか。
シニア級ウマ娘がいたって、アスカ殿がいたって、全く関係ない。
今まであたしと共に歩んできたこのコースで負けるわけにはいかないんだ!
実況「さあ、第3コーナー直前!17人のウマ娘たちが、坂を駆け上がり、第3コーナーをカーブします!」
―――グッドはあそこか……
外はスタミナも使うし、重バ場でやりづらいけど、やるしかない……!
実況「さあ、1000m通過タイムは、1分00秒01!平均よりややスローペースです。さあ、まもなく第4コーナー!2番・グッドラックナイトは位置を6番手に下げました。そして、その後ろの5番・アスカウイングはグッドラックナイトをピッタリマークしています。」
グッドが動いたら、あたしも一気に……
実況「さあ、先頭は未だに4番・バールセイリンのまま、各ウマ娘、第4コーナーをカーブし、直線へ!」
歓声が一気に大きくなる。
さあ、グッド。君はいつ動くんだ……??
実況「バールセイリン、差が徐々に縮まってく!ここまでか!後ろに控えた12番・ワールズファスターと13番・ダークイーグルスが共に上がってくるが、伸びない!そして内から3番のヤマトレギュラーが伸びてきた!―――来た、来た!外からグッドラックナイト!グッドラックナイト!天才少女が外から襲ってくる!さらにもう一人外からアスカウイングがやって来た!クラシック級ウマ娘同士の一騎討ちかーっ!?」
逃さない!逃さない!
君に見せてやるんだ!
強いのは君じゃなくて、あたしだって!!
アスカ「うおおおおおおおっっっ!!!!」
負けたくない、負けたくない!
あたしをいつも勝たせてくれた、このコースで、今回も勝ちたい!!
あたしは、|幸運の騎士《グッドラックナイト》なんだ。
だから、運も味方につけるし、堂々と立ち向かう!!
グッド「やああああああああっっっ!!!」
実況「グッドラックナイト、物凄い末脚!他のウマ娘を蹴散らします!アスカウイングは追いつけない!残り100m!もう誰も彼女に追いつけないのか!?」
どうして……
こんなに全力で走ってるのに、どうして……
追いつけない、追いつけない……!!
実況「先頭はグッドラックナイト!グッドラックナイト!2番手に大きな差をつけ、グッドラックナイト、文句なしの先頭で、ゴォーールッ!!勝ったのはグッドラックナイト!グッドラックナイトです!!なんとなんと!クラシック級ウマ娘が安田記念を制しましたーっ!」
歓声「わあああああああっっ!!!」
息が乱れる。足がおぼつかない。
また負けた……
あたしは、本当は強くなんかなかったのだろうか――――
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「ガチャ」
あたしは、控室のドアを開ける。
篠原「――ああっ、アスカさん!」
中で待っていたトレーナーがあたしの元に駆け寄る。
篠原「よく頑張りましたね。安田記念、残念だとは思いますが、クラシック級ウマ娘としての4着はすごいことですよ。だから、そう気落ちせずに………ど、どうされましたか?」
トレーナーが驚くのも無理はない。
あたしは、泣きながら笑っていた。
アスカ「……トレーナー…あたし、あたし……」
アスカ「何のために走ってるのか、分かんなくなっちゃった……」
第2章『憧れのレース編』第3部 完
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