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**七瀬との対峙**
翌週の金曜日。午後4時。
蓮は、約束のカフェに静かに姿を現した。
そこは、かつて七瀬と何度も来た場所だった。
ガラス越しに見えたのは、変わらぬ黒髪とアイスコーヒー。
七瀬は、蓮の姿を確認してもすぐには表情を変えなかった。
けれど、彼が席につくと、小さく息を吐いた。
「やっぱり、来てくれたのね。」
「話がしたいって言われたから、来たよ。」
蓮は真正面から七瀬の目を見る。
そこには、もう昔のような遠慮も、迷いもなかった。
「もう、未練はないよ。でも……
ずっとちゃんと終わらせられてなかったのは事実だと思ってる。」
「……ふうん。」
七瀬は、ほんの一瞬だけ、さびしそうに笑った。
「それって、“君のことは好きだったけど、今は違う”っていうやつ?」
「違う。……最初から、ちゃんと“好き”だったかどうか、
今でも答えは出せない。君が僕に好意を向けてくれて、
僕はその期待に応えようとしてただけだった。」
「……最低。」
「うん、そう思う。でも、嘘を重ねる方がもっと最低だから。
……だから、君にも、僕自身にも終わらせたかった。」
七瀬は目を伏せ、指先でストローを回す。
「彼女、素直そうだった。……怖くならない?
ああいう子、真っ直ぐなぶん、簡単に傷つくよ。」
「うん、わかってる。だから、絶対に、
彼女の心を迷わせたりしないって決めた。」
七瀬は目を細めた。まるで遠くを見るように。
「へえ……そんな顔するようになったんだ、蓮。」
そして立ち上がった。
「……もう、二度と呼ばないから。じゃあね。」
出口のドアに手をかけたとき、蓮はひとことだけ言った。
「ありがとう、七瀬。」
その背中はもう振り返らなかった。
でもきっと、心のどこかで、彼女も区切りをつけられたはずだった。
カップの中の氷が音を立てて、溶けていく。
蓮はその音を聞きながら、ようやく深く息を吐いた。
そして、スマホを取り出す。
画面に浮かぶ「柚子月」の名前が、ほんの少し滲んで見えた。
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次回「未来への約束」
蓮がついに、柚子月に“自分の未来”を打ち明ける。
そして、彼女の夢も——二人の人生が重なりはじめる。