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第六話 雨夜、トレーニング
一ヶ月くらいやってなかった!?
嘘だろ!?
雨夜たちがアンノウンを使って作り出せる武器には、合計で十二種類のものがある。
とはいっても、不思議な力は持っていない。乱暴に扱っても簡単には壊れない強度や、子供でも扱える軽さを備えてはいるものの、あくまで炎や氷など分かりやすいファンタジーはないのだ。
厨二病のような真似をせずに済んでよかったと思う反面、アンノウンはファンタジーのような物質なのだからそれくらいできてもいいのでは、とも少しばかり思う。ゲーム三昧の日々を過ごしていた雨夜は、ゲーム内の技に憧れることもたまにあったのだ。
とはいえ、実際にやるとなると恥ずかしさの方が圧倒的に勝るが。
なお、それを説明してくれた日向は「やってみたかったねー」と無邪気に微笑むばかりである。否定するのはなんとなくまずい気がしてならない。雨夜はやはり少々やりづらさを感じるのであった。
閑話休題。
十二種類のうち、半分は戦闘においてメインで用いるもの、もう半分は、主に戦闘補助に用いるものである。月宮たちはこれを、メインとサブ、と称しているようだ。エネミーについても武器の呼び方についても、命名は月宮らしい。雨夜は内心で安直なネーミングを嘲笑った。
メインは刃物型と銃器型があり、戦闘員はそれによってアタッカーとシューターに分けられる。
刃物型の三つが、
|短剣《ナイフ》、
|刀《ソード》、
|戦斧《バトルアックス》、
である。
雨夜はアタッカーに属し、その武器は|短剣《ナイフ》だ。これは名前の通りナイフであり、武器の中で最も軽いのが特徴だそうだ。その分重さには欠けるものの、急所を正確に狙えば一撃で倒すことも可能であり、さらに応用も効く。比較的小柄である雨夜にとっては恰好の武器だろう。
なお、日向坂と日向は|刀《ソード》だそうだ。雨夜にいきなり斬りかかってきたときの、あれである。白く輝く幻想的な日本刀である。重さは本物の日本刀より軽いらしく、一方で切れ味や丈夫さは本来の日本刀を上回るレベルだそうだ。
|戦斧《バトルアックス》の使い手は、雨夜はまだ知らない。いつか会うこともあるかもしれない。|戦斧《バトルアックス》は、重く扱いが大変だが、一撃の威力はどの武器にも勝るらしい。
対して、シューターに属す銃の武器は、
|散弾銃《ショットガン》、
|短機関銃《サブマシンガン》、
|狙撃銃《スナイパーライフル》、
だ。
日向坂曰く、|散弾銃《ショットガン》は、月宮が使う武器らしい。月宮の強さなんて雨夜は知ったことではないが、たぶん、強いのだろうなという予感があった。奴の内に感じる得体の知れないオーラゆえである。
|短機関銃《サブマシンガン》は、同じ訓練生である有明が使っている。近距離から中距離に強い、バランス型の銃だ。中距離戦闘においては、攻撃の要になるらしい。
|狙撃銃《スナイパーライフル》は、同じく訓練生の朝霞が使う武器だ。専門はその名の通り狙撃。司令部以外で、唯一前線に赴かない役職だ。ただ、相手の手の届かないところから撃てるという強みは、他の何にも変えられない。
これらの銃器タイプの武器は、射程や弾の威力が強化される。弾は、戦闘中に自分で体内のアンノウンを使って出現させられるので、ほぼ無限に出せるそうだ。ただし、出しすぎて体内のアンノウンが尽きると雨夜たちは死ぬが。
ちなみにアンノウンを供給する方法は、呼吸だ。空気中に漂っているアンノウンを取り込むらしい。
雨夜は目醒めてから外に出たことがないので知らないが、外にはもっと濃い霧としてたゆたっているらしい。
……なお、サブについては、雨夜はまだ詳しく教わっていない。
雨夜が日向坂を師匠として訓練を始めてから数日。
これが、雨夜がこの数日間で得た知識である。
「では、一旦休憩だ」
日向坂がすたすたと去っていくと、日向はその場にへたりこんで雨夜に笑みを向けてくる。雨夜と有明もそれに準じて座り込んだ。
「はー、疲れたね、月菜ちゃん、雨夜ちゃん!」
「そうだね」
「…………はあ……」
勘違いされぬよう言っておこう、雨夜は日向と有明を無視しているわけではない。
「ぜえ……はあ……」
疲れきって声も出せないのである。
日向坂から才能があると太鼓判を押された雨夜は、なるほど確かに、少し練習するだけで驚くほどこなれた身のこなしができた。
その成長速度たるや、雨夜より前に訓練を開始していた日向や有明を追い越すくらいだった。なお、朝霞はスナイパーなので別メニューだ。
それほどに、雨夜には才能と呼ぶべきものがあった。
だが。
純然たる体力の差が、雨夜とその他の訓練生にはあった。
当然と言えば当然である。
何しろ雨夜は、人生の半分ほどを引きこもって過ごしていたのである。
筋力に関しては、リングフィットネスゲームをしていたからまだなんとかアンノウンで強化されて人並みになったようだが、体力、すなわち持続力は元が悪すぎたらしい。
しばらくして、ようやく呼吸も落ち着いてきた。雨夜はゆっくりと深呼吸したあと、水をがっと喉に掻き込む。火照った身体に、冷たい水が食道を押し退けて浸透していくのが分かった。
今のところしているのは基礎修行だ。
基礎の基礎。受け身、対人戦闘のコツ、対獣戦闘のコツ、初歩のナイフ術。
エネミーは異形だ。中にはやたら小さいものもいる。歯や爪で攻撃してくるものもいる。そのために、対人だけではなく対獣戦闘も学んでいる。
時折、日向坂との模擬戦闘も行う。
大体は完敗だ。雨夜の身体はよく動き、技術の習得も速いが、やはり体力不足であるし、膂力も人並み程度。片や日向坂は基礎能力も技術も優っている、勝てるわけがない。
雨夜としてはナイフを振る方がやる気が出るのだが、最近課されるメニューはもっぱら体力向上中心の筋トレである。
雨夜はペットボトルを床におく。中身は一割ほどしか減っていない。
「休憩は終わりだ」
「はい!」
二人が弾かれたように立ち上がる。
雨夜もゆっくりと立ち上がり、誰にも聞こえないように呟く。
「……やってやるよ」
まだまだ時間はかかりそうだった。
お知らせ
参加キャラの一人、小鳩悠さんのデータが消えていました。
残念ながら、読みこみをする前だったので、どういうキャラだったのかを覚えていません。
なので、誠に遺憾ながら、参加を取り消させていただきます。
申し訳ありませんでした。
今後このようなことがないよう対応させていただきます。