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第2話 面接
❃虹色うさぎ❃
そんなこんなで、玲斗はレストランの中へと案内された。店内は、清潔感のある白を基調としつつも、アクセントに金色が使用されていて高級感があり、窓にあるステンドグラスが日光によって照らされ、店内をカラフルに彩っていた。
「こちらのお席にお掛けになってお待ちください。只今瑞希お嬢様の御両親に連絡しますので、いらっしゃいましたら料理を提供致しますね。その間瑞希お嬢様のことを見ていて下さいますか?玲斗さんには懐いていらっしゃるご様子なので…。」
と颯志は優しく微笑むと、失礼しますと言い残し厨房の奥へと消えていった。すると玲斗の手を握って隣でじっとしていた瑞希が
「れいともいっしょにごはんたべれるの、うれしい!」
と玲斗の手をとりながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。それを見ながら口元を少し綻ばせると「じゃあ座ろうか」
と言いながら席に着いた。が、瑞希は特別に用意されていた子供用の椅子ではなく玲斗の膝へとよじ登り座った。実は玲斗はあまり人は好きではないタイプなのでベタベタとされるのは苦手な方なのだが、ニコニコと笑顔を浮かべられるとまぁ良いかと思ってしまった。
「れいとはなんさい?わたしはこのまえ6さいになったんだよ!」
と満面の笑みを浮かべながら問うてきた。
「オレは17歳だよ。けどもうすぐ18になるな…。」
と目の前の幼き少女を見て、しみじみと年をとったなと、物思いに耽った。そう、もうすぐ成人するのだ。もう大人には頼っていけなくなっていくのだから自立しなければと自身を鼓舞した。しかし、そんなことなど全く知らぬ瑞希は
「12さい?としうえなんだね〜」
と能天気に、数字を色々言ってしまったせいで合ってるとも間違ってるとも言えない計算を始めてしまった。6歳にしては賢い方だろうか…。
そんなことをしていると厨房から颯志が出てきて
「すぐに到着されるそうです。見てて頂きありがとうございま…」
と言いかけ心底驚いたような表情で
「本当に良く懐かれているんですね…!御家族以外には人見知りだと有名なんですよ。」
と玲斗に抱きついている瑞希を見て呟いた。それを聞いて玲斗は少しむず痒さを感じながらも3人で瑞希の親の到着を待つことにした。会話の中で、颯志についての情報もいくつか得た。
年齢は23歳で、弟子入りしたのは16歳のときだったこと。また、店を構えて三つ星を獲得しているにも関わらず、まだ修行を積みたいということで瑞希の家でシェフとして働くことを提案され、今日はその面接も兼ねた食事会だったこと。それを聞いて玲斗は
(そんな大事な日に迷子になられてこの人も大変だな…。)
と颯志に少し同情した。すると、店の外から足音が聞こえてきてガチャリと扉が開いた。
「まま!ぱぱ!」
と瑞希が玲斗の上から降りて呼ぶと、上品そうな婦人が瑞希に駆け寄ってきて
「瑞希!無事で良かったわ!心配するから勝手にどこかに行っちゃ駄目でしょう…。皆さんにもご迷惑をお掛けして…。」
と安堵したような表情で瑞希を抱きしめた。「ごめんなさい…。」
と反省した表情で言うとハッとしたように玲斗の元へと向かい、足をぎゅ〜っと
「貴方が瑞希を保護してくださった方ですか?」
と瑞希の母親と一緒に入ってきた身だしなみの整った父親であろう男性が玲斗に問い掛けてきた。
「は、はい。」
玲斗は荘厳な雰囲気に息を呑まれ、少し声が裏返ってしまった。それを聞き、緊張が伝わったのだろう、瑞希の両親は微笑みながら
「そう畏まらないで下さい。改めまして瑞希の父と母です。保護して頂き本当に有難う御座いました。食事をご一緒させて頂けるとは春風さんからお伺いしていますが…、他にも何かきちんと御礼をさせて下さい。」
と提案してきた。玲斗がどうしたものかと思考していると、瑞希のお腹がぐ〜と鳴った。瑞希が照れたように
「おなかすいちゃった…。」
と、にへらと笑みを浮かべて呟いた。それを聞いた颯志が
「ふふ、只今お食事を用意して参りますね。」
とペコリとお辞儀をして厨房へと向かった。
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それから四人は同じテーブルへと座った。玲斗はまたも厳粛な雰囲気に緊張していたが、瑞希の父と母は優しく微笑み、瑞希は玲斗の方へと手を伸ばしている。すると、
「改めまして、私は瑞希の父の|朝星壮一《あさぼしそういち》です。こちらは妻の|朝星静香《あさぼししずか》です。」
と会釈をしながら自己紹介してきた。玲斗も慌てて
「崎口玲斗です…!」
と名乗った。
暫くすると、どうやらコース料理らしく、前菜、メインディッシュ、デザートの順で運ばれてきた。こんな料理を食べる機会がない玲斗は目を輝かせながら舌鼓を打っていた。一方、食べ慣れているであろう瑞希はそんな玲斗を見て、
「れいと、かわいいね!わたしのもわけてあげる〜。」
とお肉や果物を玲斗に分け与えていた。そんな様子を壮一と静香は微笑ましそうに眺めていた。
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食事が終わると颯志も交えて五人で談笑していた。因みに瑞希は駄々をこねて玲斗の膝の上へと移動することに成功したので椅子は四つしか使われていない。すると静香が
「そういえば話が途切れてしまったままでしたね。きちんと御礼がしたいので、宜しければご家族に御挨拶させて頂けないでしょうか。」
と切り出すと玲斗は気まずそうに
「…えっと、家族は何ていうか…いません。」
と目を逸らしながら呟いた。静香は慌ててすみませんと謝り、瑞希は
「れいと、ひとりなの…?」
と悲しそうな顔でギュッと玲斗の腕を抱きしめた。そんな瑞希の背中をポンポンと優しく撫でると、大丈夫だよと微笑みながら囁いた。
「失礼ながら…いつから御一人で?」
と躊躇いながら静香が尋ねると
「母は数年前に他界したんですけど、一人になったのは一週間前ですね…。父が家出してしまって…。」
と乾いた笑みを作った。それを見た静香は慎重な面持ちで
「…でしたら、金銭面で御困りではないでしょうか?宜しければサポートさせて頂けませんか?」
と提案してきた。玲斗は慌てて首を左右に振った。流石に迷子を保護した見返りとしては大きすぎる。すると、それを見た壮一が考え込み、
「では、うちで住み込みで働くというのはどうでしょうか?あぁ、勿論学校には通って頂いて構いませんし、専門的な技術も要求はしません。ただ、私も妻も忙しくて中々この子に構ってあげられず…寂しい思いを沢山させてしまっているので、遊び相手になってあげて欲しいのです。この子が私達以外に心を開くのは珍しいので…。」
決断は今すぐでなくても良いので、とつけ加えると、どうか…!と頭を下げてきた。どうしたものかと考えていると瑞希が瞳を輝かせて
「れいとといっしょにくらせるの!?わーい!」
と喜んでしまった。こんなに喜んでいる少女に向かって否定するのは心が痛む。それに何より実際に金銭的な問題には直面していたところだったので渡りに船であった。そのため玲斗は
「そうですね…。では、働かせて下さい。」
と返事をするのだった。