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1話
Yomogi
「行ってきまーす!」
お昼ご飯を食べたあと、僕はまっ先に城を出た。
裏庭を抜け、街を出たところにあるのは、
「いつ見てもきれいな森だなー。」
ヒューマ帝国が作った人工の森。
僕は自然が好きだ。
けど、国の掟「国の外に出ないこと」で出れないから、
お父さんをなんとか説得して国内に人工の森林を作ってもらった。
あとは城のベランダから外の森を見ていたりする。
その他にも、街に図書館を作ったり僕が気に入った料理人を雇ってくれるように頼んだ。
本当は全く地位とか興味ないけど、
こういうときなどはここに生まれてきてよかったなと思う。
僕は片手に虫取り網、もう片手に図鑑を持って森の中に入っていった。
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数時間後、突然強い風が吹いた。
「うっ寒い・・・。もう家に帰ろうかな・・・。」
そう思って僕は、いつもより少し早い時間に帰ることにした。
その時僕は知らなかった。
このあと起きる悲劇も、その後のことも。
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「ベルー、ただいまー!」
「おかえりなさい、ニア様。」
この人はベル・アース。
さっき言った、僕がヒューマ家に仕えさせた料理人なんだ。
ベルの料理は本当に美味しくて、ほっぺたが跡形もなく落ちそうなんだよ。
そんなベルに
「今日の夜ごはんは何?」
と聞くと、
「今日は寒いので温かいシチューにしようと思っております。」
と返ってきた。
ベルの得意料理は、まさにシチュー。
もしかしたら5つ星ホテルのものより美味しいかもしれない。
ま、食べたこと無いけど。
「ねーベル、ぼくも料理手伝ってもいい?」
そして僕のもう一つの好きなこと、料理。
こんな感じでたまに厨房に入り、ベルと一緒に料理をしたりする。
「ふふ、いいですよ。ニア様にお勉強の意思があって何よりです。」
「やったー!」
ベルのシチューには秘密の隠し味がいくつか入っているらしい。
でも僕はひとつも見つけたことがない。
今日こそは、絶対に、絶対に見つけてやる!
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「今日もだめだったー・・・。」
「ふふ、またの挑戦をお待ちしております。」
今日も隠し味一つもわからなかったー・・・。
いつ、どんなときに入れているんだろう。
アラドに聞けばわかるかな。
「呼んだか?」
「ぎゃー!アラド!」
噂をすれば。
コイツはアラド・アース。
ヒューマ家に使える、俺の1個上のお兄さん的存在だ。
毒見係兼傭兵をしているらしい。
そして毎回僕のことを驚かしに来る。
全く、やめてって何回言っても聞きやしない。
「もう、驚かすのはやめてって何回言ったらわかるの!?」
「いつも用心深くしていないとザクッとやられちゃうぞ、ヒューマ帝国の第2王子様。」
こいつ・・・。
完全に僕で遊んでる・・・。
「そんなこと言ってたら、お父さんに言ってクビにさせるよ!」
「俺は別に構わねーけど、お前はそれでいいのかよ。動物や虫しか友達いないくせに。」
くっそー!
僕にもっと口で対抗できる力があればなー・・・。
「そこら辺にしなさい、アラド。あまり王家の子をいじめてはいけません。さもないと・・・。」
「ひっ、は、はい!」
べ、ベル・・・。
お姉さんの力は凄まじいね。
ていうか、あのアラドがここまで怯えるとは。
ベルさん、弟に何してたの。
「さあニア様、そろそろ食堂に戻っておきましょう。もう少しで夕食のお時間です。」
見ると、時計は午後6時を刺そうとしていた。
「たしかに。早く戻ろう!」
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「ただいまー!」
「おう、戻ったかニアよ。今日はお主が作ったシチューだそうじゃな。」
この人は僕の父、フロム・ヒューマ国王だ。
人工林や、ベルの受け入れなんかも引き受けてくれた、心の広いお方だ。
「そうだよー!でも今回も何もわからなかったー。ベルの隠し味って本当に何なんだろう・・・。」
「ふふ。今回は負けましたが、いずれわかる日が来ると思いますよ。」
この人はリトル・ヒューマ、僕の母で、王妃様だ。
スラッとしていて顔立ちも良く、お父さんにはもったいないぐらいだ。
「ニアよ、何かわしに失礼なことを考えなかったか?」
バレてたか。
「コイツはそういう騙し合いの類では頭が回るようですからね。」
「何だとファル兄!」
ファル兄ことファル・ヒューマ。
僕のお兄ちゃん。
毎回毎回何かを見つけては僕になすりつけてくるんだよな。
「さっさと座れよニア。それとも、ベルのシチュー食べたくないのか?」
アラドの言葉を聞いて俺はハッとした。
周りを見ると僕の家族は全員食卓に座っていて、
アラドや他の家臣なども位置についている。
立っているのは僕だけのようだ。
「やだやだ座る。ベルの料理食べたいもん。」
と僕が言うと、
「相変わらず子どもだな。」
とアラドが煽ってきた。
コイツ本当に、ついさっき煽るなって言ったばっかだよな?
頭大丈夫かよ。
「それでは、ニアより先にいただく姉貴の美味しーいシチューを、」
この時、
「くっそー!」
強く、風が、
「いっただっきまーす!」
吹いていた。
「っ!?」バタンッ
「キャー!」
アラドが倒れたのとほぼ同時に、メイドたちの甲高い悲鳴が聞こえた。
そして、近くで待機していた医師が動き始めている中、僕は動けずにいた。
(ア、ラド・・・?なんで、さっきまであんなに・・・なんで、なんで急に喋らなくなったの・・・?)
涙は出なかった。
ただ疑問だけが、僕の頭の中をよぎっていた。
少しして、アラドの近くにいた医師が立ち上がった。
「手遅れですね。彼はもう死んでいます。」
「そん・・・な。」
僕の頭は真っ白になっていた。
急に何が起こったのかわからず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
沈黙が続く中、ヒューマ帝国の第1王子のファル・ヒューマが、この空気を破った。
「ニア、お前・・・今日料理のつまみ食いしたか?」
「え・・・?」
一瞬、わけがわからなかった。
なぜ今になってそんな話をするのかを。
目の前で、アラドがこんなにもなっているのに・・・。
「し、してないよ・・・。」
そう答えると、ファル兄の顔が怒りと恐怖が混ざったような顔立ちになった。
「お前もしかして、『毒を盛った犯人』だからつまみ食いをしなかったんじゃないか?」
その瞬間、この部屋の空気がどっと重くなり、その場にいた全員の視線が僕に向いた。
たしかに僕はつまみ食いをしなかった。
だからといって毒を盛った記憶もない。
「確かに、ファル様の判断は正しいと思います。ですが、私はニア様と一緒に料理をしています。不審な動きは何も見られませんでした。」
ベルがファル兄に反論した。しかしすぐにファル兄が言い返した。
「直接毒を入れるならベルの目にとまるだろう。だが魔法の場合はどうだ。俺はあまり魔法のことは知らないが、ニアの魔法のうまさだけはわかる。」
「確かに、わしは最近、ニアから無詠唱で魔法が使えたことを聞いておる・・・。おいお主ら、鍋を徹底的に調べるのじゃ!魔法陣ならその場に残るはずじゃ!そしてニアを拘束せよ!」
お父さんがファル兄の言葉に納得をし、素早く人を動かした。
まだあまり状況が掴めず固まってた僕は、されるがまま傭兵に拘束された。
そして、なんとか状況を読めてきた僕は、遅いながら必死に抵抗した。
「僕は何もやっていない!お願いだから信じてよ!僕があんな、確かにずっとからかってきたりはしたけど、それでも僕を認めてくれたアラドのことを、殺せるわけ無いじゃん!」
僕は何度も、何度も同じことを繰り返し言った。
でも、誰の耳にも届かなかった。
いや、届いてはいたんだろう。
状況が状況だったため、誰も答えられないんだろう。
そしてゆっくり、お父さんが口を開いた。
「わしも信じたくないんだが、これから言われることが真実じゃ。」
その言葉の直後、まだ温かい鍋の調査をしていた1人が立ち上がった。
「とてもいいにくいのですが、お告げします。鍋の底に、小さく、ほんの僅かですが、とても強力な毒系統の魔法陣が貼られていました。小さくても魔法が強ければ、それは即死級のものとなるでしょう。」
その言葉が終わったあと、その場にいた全員の視線は僕からそれた。
そして、お父さんは言った。
「ニアを城の地下刑務所に入れろ。そしてアラドの遺体を別室に移せ。」
僕は膝から崩れ落ちた。