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遣らずの雨。
私は雨が降った後の匂いと、濡れたアスファルト。それと、少し嬉しそうな植物がすきです。
雨は苦手だ。
朝起きた時に憂鬱な気分になるし、手荷物が増えるし、湿気で髪がまとまらないし、低気圧でしんどいし、制服のスカートに模様をつくるし、靴は汚れるし、昼なのに暗いし、雨音は煩くて、隣を歩く君の声がよく聞こえないし。
雨がすきだ。
独特な香りと、植物に雫が落ちた時の音と、濡れたアスファルトと、雨の時にしかない雰囲気。それと、君と同じ傘に入れること。
「今日どうする? この雨じゃ行きは良いけど帰りが大変だよなぁ」
私の方に傘を傾け、自分の方を濡らしながら君が言う。
「私の家来なよ、近いしさ」
気持ち大きめに出した声は、雨に邪魔されることなく君に届いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
道中、水溜りを避けて、トラックの水飛沫で少し足を濡らして、公園の紫陽花を見て、雨音を理由に君に近づいた。
「お邪魔します」
洗面所から持ってきたタオルを彼に渡す。照れくさそうに、肩を拭いた。
来るのは初めてじゃないのに緊張している彼は、私の部屋に足を踏み入れるのを何故か少し躊躇った。男の子ってそういうものなのかな。それとも、雨のせいかな。
カーテンを閉めて、部屋の明かりを付ける。家の中にいる時の雨音は、心地良い。
明後日までの課題と、テレビゲームと、クラスの話をした。
雨は、まだ止まない。
「強くなってきたなぁ」
弱まらない雨の音を聞いて、不安そうにする。
「弱くなってから帰ればいいよ」
憂鬱になるのも、荷物が増えるのも、髪のセットが上手くいかないのも、低気圧も、服が濡れるのも、靴が汚れるのも、暗いのも、煩い雨音も、全部、ぜんぶ、すきだから。君の声なんて、雨音がいくら大きくたって、私ならちゃんと聞こえるから。
だからどうか、このまま降り続けてください。
「遣らずの雨」…帰ってほしくない人を引き留めるかのように降ってくる雨。