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#5:メンテナンス
お試しで書き方を変えてみました。今までの書き方と今やってみた書き方、どちらが見やすいのでしょうか。
よければ教えてください。
時系列ガタガタだったので修正しました。
すっきりとした目覚めだった。
昨日酷い目にあった舌は、既にすっきりとしている。
出された病院食を食べて、先生からお薬の説明を受けて、噂通り薬がとてつもなく苦いのを確認した。
人間が飲むものの味じゃない、あのシロップ。想像を絶するほど苦かった。食欲が消え失せる。食後に飲まないとダメだ、アレは。
今日の夜も飲むと思うと舌がヒリヒリとしてくる。
よし、このことを考えるのはやめにしよう。
別を考えて頭を落ち着かせる。
……ちなみに、先生はやはり男の人らしい。看護師さんたちが私の方を微笑ましい目で見てくるので、居心地が非常に悪かった。
考え事をしていた私の視界の端で、静かに扉が開く。
「おはよう、亜里沙。」
「局員って、暇なのね。」
「そこは平和って言ってよ。まあ、新人の僕に任される仕事が少ないからなのかな?」
ソレイユの足取りは軽い。
「さて、今日はリハビリをするついでにクリエイターさんたちに会いに行こう。」
「いつか言ってた、『ファクトリー』ってところに関係ありそうね。クリエイターって名前なんでしょう?」
「うん。クリエイターは技師みたいなもの。みんな優しくて面白い人だから、安心してね!そうそう……君の義足を作った人もいるから、彼から色々教えてもらおう。」
左足の痛みはだいぶ収まった。
あの薬の性能は味を犠牲にしたせいか、かなり高くなっている。
いつまでも入院しているわけにはいかない。働かざるもの食うべからず。薬を飲んで体調が良くなったのだから、リハビリに励むべきだ。
動けるようになったら、失った悲しみも少しは癒えるだろう。
手すりに体を預けて、前に進む。
こっちの棟「ファクトリー」にも手すりがあって本当に良かった。既にここまでの移動でヘトヘトである。
「いいよー!その調子だよー!」
「何よそのかけ声。」
子供の運動会を見にきた親のようではないか。
「あの亜里沙が、ここまで歩けるようになるなんて……。」
「まだ私が起きてから2日しか経ってないけど。そんな『ずっと見てきました』みたいなテイで言われても困るんだけ」
しょうもないやりとりをしていた私の視界は、突然真っ暗になった。
「え?亜里沙?これ、落とし穴!?」
少しの衝撃。柔らかく、軽いものが私の体に当たっている。体を仰向けにすると、心配そうにこちらを覗き込むソレイユの顔が見えた。
発泡スチロールのような、白く丸い物体。それが一面に敷き詰められた床に私は横たわっていた。
数秒遅れて理解した。ここは、落とし穴の中なのだと。
漫画でよく見る、アレである。こんなコテコテのドッキリ、現実世界にあるわけないとたかを括っていたのだが、どうやら存在していたようだ。ずいぶんと大掛かりな仕掛けである。
ここが別棟だとしても、その一階で落とし穴が作れるとしても、いくらなんでも落とし穴を作ることはまずしないし出来ないだろう。誰がやったんだこんなこと!
「ドッキリ」
バッ、と。ソレイユの横に、男の顔がいつの間にかあった。
「だーいせーいこーう!……あれ、見慣れない顔やな。あっ、あの子か!義足作った子やん!」
「ま、まさかこれ、|晴《はる》さんがやったんですか?」
どうやらこの男、晴という名前らしい。ぽりぽりと頭を掻いて弁明した。
「そう。悪いことしてもうたな。ハルさんがそっち行くってことになってたはずやから、ここに落とし穴作っても大丈夫かなって思ってたんやけど。」
うん?その言い方だと、つまりは。
「ソレイユ。もしかしてあんた、間違えた?」
あからさまに視線を逸らして、観念したかのようにがくりとソレイユは項垂れた。
「ごっ、ごめんなさーい!いや、確かにそういうことにはなってたけどさ!亜里沙のリハビリになると思って。あと、大抵のドッキリは見破れる自信あったから。」
「ハルさん、クリエイターやからな。どのドッキリも手を抜かず本気で作っとるから。なめてもらっちゃ困るで。」
穴の上部、片方の顔がドヤ顔に変わる。
「間違いだって分かってて連れてきたのね。呆れた。」
「あは、あははは。」
笑って何とか誤魔化そうとしている。悪化していたら洒落にならないのだが……発泡スチロールのようなもののおかげで、大した怪我はなかった。しっかり緩衝材を置いてくれた晴さんに感謝だ。
いや、その晴さんが落とし穴を作っていたのか……。
「まあとりあえず、ここから引っ張り上げてほしいんだけど。」
私が万歳のポーズで静止したのを見て、ゆっくりとソレイユは腕を穴の中に入れる。
「はーい。」
「おっと。ここはハルさんに任しとき。」
ソレイユよりも長い腕がこちらに伸ばされた。しっかりと私が腕を掴んだのを確認すると、腕の持ち主は一気に私を引っ張り上げる。
先生に負けないくらい、長身だった。先生以上かも知れなかった。
「ほんまにごめんな。」
「あ、大丈夫です。特に怪我もしてませんし。」
「元々上手く接続できてるか確認するつもりやったけど……念入りに確認しとくわ。」
そのまま、そう遠くない清潔感のある小部屋に連行された。謎の電極たちを左足にこれでもか、というほどペタペタと貼られる。
学のない私にはよく分からないグラフに、軽快な電子音。カタカタとキーボードをいじる音。微細な振動が加わる左足。
体感、数十分。会ってからあまり時間が経っていない人間と2人きりだったので、少し長く感じていたのかもしれないが。
「もしもし。ちょっと手伝おてくれへん?流石に1人だと不安なんやけど。人間の義体作るの久しぶりすぎて、いろいろ忘れてるかもしれへん。」
電話を晴さんは、誰かにかけた。
「やだ。だって武器じゃないでしょ。それに、あたしの方が晴よりそういう経験値少ないし。」
「そこをなんとか。」
「……しょうがないわね、今日も晩酌付き合ってよ!」
「もちのろんや!」
晴さんの声しか聞こえなかったが、電話の相手が同僚であることをなんとなく知るのには十分だった。
「もう1人。あと10分くらいで来るはずや。この後は麻酔かけなきゃいけない作業だから、きたらかけるわ。」
無言で頷いた。頷く以外の選択肢はなかった。
また作業する音だけが聞こえるようになり、心を無にしてそれを聞く。
また数十分経ったような気がした。作業音以外の音が、乱入してくる。もう1人入ってきたのだろう。
「はいはーい。じゃあ、かけるで。」
何が、とは。言われなくても分かった。
意識が宙に浮いて、遠のいていくような感覚を私は覚えた。
「お、おはようさん。といっても、もう夜やけど。」
窓はないが、晴さんの発言からもう半日程度経っていることがわかった。もう半日経ったのか。ほとんど眠っていたので不思議な気分だ。
「おはようございます……隣の方は?」
金髪に、コーラルピンクの瞳をした人がそこに座っていた。片目は隠されていた。これまた現実ではあまりお目にかかれない、眼帯というやつだろう。
「メルよ。こいつと同じくクリエイター。よろしく。ま、専門は武器なんだけどね。しょうがないから来たのよ。」
「ほんま、ありがとうな!」
「疲れたわよ。半日も拘束されたし。」
お礼を言われたメルさんはまんざらでもなさそうだった。
「無事に終わったで。この調子なら、もうじき退院や。」
肩の力が抜けた。
「ありがとうございます、作ってくれて。」
あの時助けてもらえなかったら。あの時晴さんが義足を手配してくれなかったら。こうして、笑うことすら出来なかったのかもしれないのだから。
「……さっ、これで解散や。お疲れさん!」
「いつものところ。行くわよ。」
「財布持っとる?」
「持ってる。」
彼ら2人は飲みに行くようだった。
扉を開けた先で待っていた、ソレイユに向けて私も宣言することにした。
「行くわ。コンビニ。」
「病院の売店でいいでしょ。」
「散歩したい気分なの。今ならどこだって行ける気がする。」
「やめておいた方がいいよ、その、ここの近く……出るから。」
「何が?」
幽霊でも出るのだろうか。
「ねぇ、いいでしょ?たったの数十分よ、数十分。」
「……分かったよ、ちょっとだけだからね。」
きれいに掃除されている別棟を出る。よかぜが心地よかった。それに、メンテナンスが終わってすぐだからだろうか、飛んでいけると錯覚してしまうぐらいに体が軽かった。
「行くわよ、夜の散歩!」
「流石に、大丈夫だとは思うんだけど。」
クリエイター二人組と絶妙に距離をとって歩く。近くの私御用達コンビニブランドでちょっとだけお菓子を買った。ソレイユには睨まれたが、もう一つ余分に購入したことがわかるレシートと現品を見せたら黙った。
バリバリとお菓子を噛み砕く音が夜道に響く。
「私たち、共犯だからね。」
「美味しいからいいや。」
「あ、そうだ!ソレイユはどっち派なの……」
振り返って、ソレイユに某人気チョコレート菓子、どちらが好きなのか聞こうとした。
ふいに、心臓が縮み上がった。
つられてソレイユも振り返る。前の2人も、異変を察知したのか気づいたら私のすぐ後ろにいた。
「あら?あたしの可愛い可愛い試作品ちゃんのサビにしようかしら?」
「やめーや!死んだらどないすんねん!」
「あたしは人じゃないの!クリエイターだからって、そう簡単にやられはしないわ。」
と、満面の笑みでメルさんは謎の機械音がする小型ナイフを取り出す。
「そんな物騒なもの携帯しないでくださいよ!?」
「あーあー、亜里沙もツッコんでる場合じゃないよ!」
メルさんとは反対に、緊張した面持ちでソレイユはベルトにつけていた何かからそれを取り出した。
月光を反射する、剣といえそうなものだった。
「だからさっき言ったでしょ。」
同じく月光を反射する、黄色い何か。何かとしか形容できないような形の、蠢くもの。それが数匹。
私の足の仇、といっていいのだろうか。
「このあたり『出る』って。」
ソレイユはきのこ派です。そして亜里沙はたけのこ派です。
戦争するでしょう。ちなみに私はたけのこ派です!
さて、今回登場したのは乾 晴くんとメルちゃん。ありがとうー!
質問(だと思う)に回答します。聞きたいことあったらどうぞー!
Q1:どうやったら特別保安局に就職できるの?
→就職ルートは大きく分けて二つ。生きて入るか、人間辞めてから入るか。
生きて入るルート。堂本パイセンみたいなタイプですね。ミナちゃんやアシスタントさんに引き抜かれてます。ギルティとか見える人が多いです。
あとは……どこかのクリエイターさんみたいに「武器オタクで武器の研究のために法を破りたい」とか、そういう特殊な事情がある人をサポーターさんたちが見つけています。政府の協力も得ているので結構簡単ですね。こっちの場合は奴らが見えないこともあります。
人間辞めるルート。政府と癒着しているので、ある程度のベース……体は手に入ります。
そこから幼すぎたり歳をとりすぎたり、体の損傷が激しすぎない人を見つける。そしてリバースに転換します。記憶はないし行くところもないので目をつけられたら就職するしかないですね。
Q2:堂本パイセンって声まで中性的なの?
→イエス。男性にしては高め、女性にしては低め。男って言われたら男の声ですが。
カラオケに行っても普通に女性キーのところ歌います。