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又旅浪漫
「ここまででいいよ。」
俺が地面を目で指すと、横には排水溝がある。
緊急用であるが、雨が降らない今
家まで安全に一直線で帰れる隠し通路だ。
「今のあんたの顔最高。
今夜みたいな三日月の空に
そんな左目で|魅《み》せられたらやられちゃうわ。
まるで "同じ" カタチね。
...|浪漫《ろまん》があって最高よ。」
「|浪漫《ろまん》か。何か良いな。
それをいうなら
葉っぱの"は"と
三日月の"づき"も
浪漫があって最高だ。」
「あんた爪は無いくせに一撃必殺ね。」
ニンゲン風冗談だろうか。良く分からない。
「俺の手足があとホタテほど長ければ
"|花《はな》ネコ"として俺の横を歩いて欲しかったな。」
これはニンゲン風の冗談だ。
「結構な長さじゃない気持ち悪い。」
ハヅキはふふっ、と笑った。
嬉しいな。
が、すぐに言い返されてしまう。
「あんた手足も尻尾も短いから心配だわ。」
「尻尾は関係ないだろう。
掻いてやりたいがカラスを殺したメスだった。危ない。」
「あはっ、ハトよ。お味は要注意ね。」
「ははっ、俺にはギュウがお似合いさ。
特上だ。」
記憶のある中で、過去一番の夜。
俺は笑った。