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第四話:知的な懸念と、異変の報告
ゲネシスの神殿での朝の集いが終わり、各自がそれぞれの神殿へと戻っていった。
ゼフィールは北西の方角にある自らの神殿に戻り、広大な天候観測設備の中央制御室に腰を下ろした。彼にとって、感情という「変数」は世界の安定を乱すものだったが、「理」の崩壊という「バグ」は、何よりも許容できない異常事態だった。
彼は天帝から与えられた特別な権限で、世界のあらゆる生命の循環データをリアルタイムで収集・分析していた。画面に映し出される無数のグラフと数値は、日を追うごとに悪化の一途を辿っている。
「……致死確率の低下。寿命の停止。個体数の異常増加」
ゼフィールは寡黙に、しかし正確にデータを読み上げていく。彼の頭脳は高速で解決策を模索するが、原因が「柱神による直接干渉」という前代未聞の事態であるため、有効な対処法は見つからない。
「これは、世界の根幹を揺るがすバグだ。修正が必要だ」
ゼフィールは、事態を天帝に報告するための準備を始める。もはや、四神の間で密かに解決できるレベルではないと判断したのだ。
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その頃、天界の中央に位置する天帝の宮殿には、下界から次々と報告が舞い込んでいた。
「報告申し上げます!下界第三地区において、本来寿命を迎えるべき数十万の生命体が、未だ生存を続けております!」
「同じく第五地区でも!死が機能しておりません!」
宮殿は騒然としていた。天帝は、数澗歳という悠久の時を生きてきたが、これほどの異常事態は経験がなかった。世界の「理」、特に「死」という絶対的な流れが滞っている。それは、世界そのものが詰まり始めているようなものだった。
「一体、何が起きているのだ……誰かが、世界の根幹を弄っているのか?」
天帝の鋭い視線が、報告に来た神官たちに向けられる。しかし、誰も答えられない。
この日を境に、天界全体に緊張が走る。平和な日常は終わりを告げ、神々の世界は大きく動き出そうとしていた。そして、その原因が、他ならぬ「創造之神ゲネシス」にあることを、天帝と柱神たちはまだ確信していなかった。
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