驚くほど綺麗な______

私の目は片方義眼だ。誰にも指摘されることはないけど、確かに義眼なんだ。確かに入れるという会話を聞いた。 「明日は晴れかな。」 地面を打ち付ける雨の音が少し不規則なリズムで面白い。 「エルミ。明日の天気は何？」 ソファの上に具合が悪そうに横たわる男、エルミに声をかける。 「ああ・・・。頭が痛いから少し待っててくれ。」 エルミは雨になるとテイキアツとやらのせいでよく寝込んでいる。ソファから体を起こして何処かに行った彼をよそに、また外を眺める。 空は灰色で、心なしか空気もどんよりとしている。あまり変わり映えの無い光景を眺めていたら眠くなってきた。 「ふあぁ・・・。」 大きく口を開けてあくびを出す。少し体も強ばっていたようで体が痛くなる。 「ルア、明日は曇りだ。」 戻って来たエルミが私に言う。 「そう。頭は大丈夫なの？」 「一応頭痛薬は飲んだ。あんたは心配せずに学業に励んでくれ。」 私の頭をポンポンと撫でるように叩くエルミ。もうそんなに子供じゃないし、と手を振り払うと、彼は少し笑った。 「何に笑ってるの。」 「いや、成長したなってさ。」 穏やかな笑みを浮かべるエルミに、私は少しだけ何かを感じた。 --- --- --- 「エルミ、目が変な感じ？なのだけれど。」 義眼が入っている方の目に違和感を感じ、エルミに伝えた。 「ん、大丈夫か。目を見せてみろ。」 「はい。・・・何も無いと良いんだけど。」 エルミは私の義眼の方をじっくり見た後、少し唸った。 「うーん・・・特に何かがあるわけでは無いな。よし、病院に行っておこう。」 「分かった。それじゃあ支度をする。」 目にあった違和感は、次第に別の何かに、何かへの不安に変わっていった。 「何も起きなければ良いのだけど。」 --- --- --- さてさて、と外へ出た。いつもの曲がり道とか信号をぐいっと歩いて行き、もう少しで病院という所だった。 「というか、病院に行く事が多いんだから車を買えば良いのに。」 「そんなに金は持ってないさ。」 彼は苦笑いをして、横断歩道へと歩みを進めた。 でも、私は気付いた。 エルミの元に車が迫っている。 まだ間に合うはず。 でも声が出ない。 どうすれば。 そうだ。 決心を決め、エルミの元へと駆け出す。 そのままエルミを押し飛ばす。 エルミは驚いた顔をしたけれど、私はそこに倒れ込む。 「__ルアッ・・・！__」 最後にエルミは何かを言っていた。 もう車はすぐそこ。 ただ、にこやかに笑う事しか出来なかった。 --- --- 「ルアッ・・・ルア・・・何で。」 俺のせいだ。俺が車に気付かず進んだから。 それでも俺を庇うとは。最期まであの子らしい。 「うっ・・・。・・・？。」 何故なのかは分からないが、ルアの義眼が取れていた。普通なら気持ち悪いだろうが、全くそんな気がしなかった。 「あんなにっ、あんなに大事にしてたのになぁ？何で取れてしまうんだっ・・・。」 悔しくて悲しくて、涙が止まらない。 まだ間に合うかもしれない。一つの可能性を考えた通行人は、救急に電話をかけた。病院の近くだったので、かなり早く駆け付ける事が出来たが、間に合わず、息を引き取ってしまった。 涙でぐちゃぐちゃになった顔を少し拭った。涙と言えば、少し思い出す事があった。少し前の事だ。 --- 「エルミ、何故か涙が止まらない・・・。」 きっかけは彼女が切り出した話だった。 「ほぼ溢れ出してる・・・。このままじゃ水分が無くなる！」 少しボケた彼女のせいで、笑いがこぼれる。 「笑わないで！結構重大なんだから。」 頬を膨らませるルアをなだめつつ、その日も病院に連れて行った。 --- 「こんな事考えたら余計に苦しくなるだろ・・・。」 一人きりで後悔する。どうにも久しぶりで、感情を何処にぶつければ良いのか、どうやって制御すれば良いのか。何も分からなくなってしまった。 ルアを失った今、俺には何も残らなかった。