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真夜中に
男が少し肌寒い夜道を歩いていると女がついてきた。
髪は長くきれいだが帽子を深く被っていて顔が見えない。
男が歩く速度を速めると向こうも速めてくる。
不思議に思った彼が彼女に話しかけると彼女は「あ、えっと、かっこよかったのでついてきちゃいました…」と言った。
「かっこいいって?」
「あなたのことです。私すごく好きです!」
「いや全然かっこよくなんか…」
「いやいやかっこいいですよ!今まで見た中で一番かっこいいです!」
年齢=彼女いない歴の彼は少し怪しんだがかっこいいと言われ少し口角が上がった。
しかし初対面で少し怖かったし離れたかったので「えっと、ごめんなさい」と少し意味の分からないことを言ってその場を離れようとしたが彼女に「連絡先だけ交換してもいいですか?」と言われたのでこれも何かの縁だし連絡先だけならと交換した。
その後少しやり取りをし数日後また会うことになった。
仕事を終え待ち合わせ場所へと向かうとコートを着た彼女が黄色く暖かく灯った街灯の下で待っていた。
「待った?」
「ううん、今来たところ」
その日は夕食を取る予定だったので事前に予約しておいた店へと向かった。
「これ、おいしいね!」
「よかった、君の口に合ったみたいで」
「私パスタ大好きなんだ!ピザも大好き!」
「よかった」
向かった先は高級イタリアンレストランだった。
ここは幅広い年齢層に人気の三ツ星高級レストランでデートスポットとして名高い。
そう、彼は彼女に恋心を抱いていた。
それも顔がかっこいいという理由だけで話しかけてきた彼女に。
食事中は、新しいカフェのケーキがおいしかった など他愛のないことを話して楽しい時間を過ごした。
夕食を食べ終えた彼は彼女に誘われてカラオケへ行った。
「歌、うまいんだね!」
「そ、そうかな…笑」
褒められ恥ずかしく思った彼は照れ隠しにトイレに行くと伝えその場から離れた。
しばらくして気持ちが落ち着いてきた頃に部屋に戻ると彼女は満面の笑みで「おかえり!」と言ってくれた。
喉が渇いた彼は口にジュースを含ませ曲を入れる。
曲のイントロが流れ彼が歌おうとした瞬間急激な眠気が彼を襲い彼は膝から崩れ落ちた。
薄れゆく意識の中で彼女の方を見ると彼女は見たことのない顔で笑っていた。
そして彼女はこう言った。
「キミ、数回しか会ったことない人の事信用しすぎだよー。笑」