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青林檎
クリスマス・イブの日、私は先日殺された女子高生の資料を眺めながらこう言った。
「ねぇ、やっぱり警察に任せない?」
「私と同い年の同志が殺されたんだよ?信用できない人間どもに任せておけないし」
相変わらず黒夢の人間嫌いには困らせられる。
山中女子高生惨殺事件。
12月20日、16歳の有酒名子が山の中で殺害され、遺体はその場に放置された。
そして彼女は…目の前の人間嫌いと同じ組織「純白の地球を取り戻す会」に所属していた。
「やっぱり思想が強いグループだし、その筋から恨まれてたんじゃないの?警察もその線で調べてると思うし」
「名子は人から恨まれるようなことはしてない」
彼女のその言葉は一応信じられる。目の前の資料は彼女がいかに品行方正で人から好かれやすかったかを表しているからだ。
「交友関係は…恋人が一人、いやまぁ一人じゃなきゃおかしいんだけど」
「この人のことも調べなきゃいけなさそうね」
資料を見るにつれ、私はだんだんなぜ彼女が殺されたのか気になってきた。
「で、彼氏のとこ行く?」
私は少し考えて、首を縦に振った。
ピンポンという軽快な音があたりに響く。
「黒鉄望さんはいらっしゃいますか?」
私はインターホンに話しかける。
「…息子は今アルバイトに行っております」
母親だろうか、インターホンから女性の声が聞こえてきた。
「どこに行っているのでしょうか?」
「…コンビニとしか聞いておりません」
そう言うと、女性はインターホンを切った。
「あれ?!もしもーし!」
私は少し焦るが、面識もない相手にそれほど情報は教えられないのだろうと考え直す。
「どうする?暗狩ちゃん」
「…とりあえず、近くのコンビニを回ってみましょう」
「望さんの写真は持ってる?」
彼女は写真を差し出した。
「だから…キツイって」
私はコンビニを4件回り、なにも収穫がなかったことを悔やむ。
「少し休もっか」
黒夢は明るい声でそう言った。
近くのベンチに座り、私は自販機で買ったコーラを流し込む。
「あと一個回ったら今日はやめにしましょ…」
「そうしよっか」
私と彼女は合意した。
「先輩?なんであなたたちが知ってるんです?」
ヒット。私は内心喜んだ。
「あー、ちょっといろいろありまして」
黒夢は言葉を濁した。
「質問、なんですけど」
「はい」
「12月20日はどこにいました?」
「このコンビニで働いてました」
「望さんに恋人がいたことは知っていますか?」
「はい…」
「名前は?」
「すいません。名前までは…」
「二人の関係は良好でしたか?」
「多分…クリスマスにはデートするって言ってたし」
私はひとまず質問を終える。
「ありがとうございました」
少し経営に協力しようか。私はレジの近くにあるグミを取って買おうとした。
その時だった。
「暗狩ちゃん、あれ見て」
彼女が指さした方向を見た瞬間、私は少し驚いた。
そこには被害者の彼女、黒鉄望がいたからだ。
「あの…事件に関してはもう全部警察に話しました」
彼にそう言われ、私はそのままとぼとぼ帰ろうとする?
「ちょ、ちょっと!まだ粘ろうよ」
「いいじゃない。彼、かなり被害者を愛してたみたいよ」
ケータイに目立たぬように貼ってあったプリクラとキーホルダーがそれを証明していた。
「でも、愛していたからこそ情がもつれて…なんてこともあり得るんじゃ」
私はもうこの事件に対する興味をなくしていた。
手に持っていたグミを清算しようとした時、声が聞こえた。
「なぁ聞いたか?また万引きだってよ」
「今度は雑誌か…」
万引き?私は男二人の会話につられる。
「あの『足のないバスケ少年』の話が載ってたやつですか」
「そうそれ!」
さっきまで話を聞いていた彼女は彼らの会話に参加した。
「でもあれ痛くないんですかね?」
「え?」
「だって足がないのにラグビーするためには、ボールになるしかないじゃないですか」
「えぇ…相変わらず天然だなぁ」
その会話で、私は完全に好奇心を取り戻す。
「あの!」
「ん?」
「その万引き犯ってどんな格好なんですか?」
「えっ、えーと青い服に黒いズボンで…そこまでわかってるんだけど、その子を何回問い詰めても物証が出てこないんだよ」
「確かに物はなくなってるのに」
「ありがとうございます」
私はスマートフォンを菓子の棚に置く。
「ねぇ、スマホ貸して」
「え?なんで?」
黒夢はわけがわからない顔でこちらを見つめる。
「私、知りたがりなんで」
「…やる気、出てきたみたいだね」
私は買おうとしたグミでスマホを隠し、黒夢のスマホと繋げる。
最近は別のスマホからカメラを確認できるアプリがあるんだ。
私は一度家に帰り、スマホを確認する。
スマホを開いた瞬間、望の後輩は画面から出ていった。
そしてその後、『青い服に黒いズボン』の女性が入ってきた。
彼女は何者かと電話しながら缶詰の棚に近寄り、ものを盗る『ふりをした』。
「あれ、この子なにも盗ってない?」
私はもう一度資料を見る。
凶器はハサミ、どこにでも売ってある品物と書かれていた。
私は犯人を確信する。
「行くよ!黒夢!」
私は彼女と家を飛び出た。
「戻りましたー」
望の後輩の声を遮るように、入店音が鳴り響く。
「ハァハァ…犯人がわかったのね!」
私は頷く。
「有酒さんを殺したのはあなたですね?」
私は休憩から戻ったばかりの彼女を指さした。
「え、な、何を言っているの?」
「万引き犯とグルだったんですね」
「いや、万引き犯自体そもそも存在しなかった」
「万引き犯が盗んだことにして、凶器から犯行がバレないように」
「な、なにを言っているんです?」
「先輩の彼女を殺す理由がないじゃないですか!」
私はその言葉を聞き、にやけた。
「あれ?望さんの恋人の名前は知らないんじゃありませんでしたっけ?」
「それに、あるんでしょ?あなたにしかわからない理由が」
彼女は怒りの表情を見せた。
「あなたは少しだけ他人と違う」
「正直に言ってみてください」
私は彼女に催促する。そして、彼女は諦めた表情を見せた。
「先輩は一人でいる時が一番輝いてるんです。あなたには確かに理解しづらいと思うけど」
「先輩の輝きを邪魔するあの人は許せませんでした」
「だって先輩は…私の太陽なんですから」
彼女は、恋する乙女の顔をしていた。
「しっかし、なんで彼女がおかしいって気づいたの?」
「店員仲間との会話よ」
「サイコパス診断に似たような問題があってね、手足がないラグビー少年に関しては」
「物知りね~」
彼女に褒められて、私は少し嬉しくなった。
人事ファイル No.3
暗狩四折
好きなもの: 紅茶、謎
嫌いなもの: 変態
尋常ではない勘。それが才能。