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なりきり系作家謎に理系 1巻
やあ!私はなろう系作家!
異世界転生が流行り始めてから作家を志した旬に遅れた作家だ。
遅すぎた天才と呼んでくれ。
何しろ大学は理系専攻だったしね。
でもまあ私クラスの理系になると文系にも通ずる。
どの職業からも作家は目指せるってよく聞くしね。
いずれ芥川賞、直木賞の受賞者として絨毯の上に並び、自分の小説を手に抱え、マスメディアで報道されるだろう。
遅咲きの天才作家なんて見出しが付いたら良い。
どの年齢からでも文豪になれる!こっちの方がいいな。
私の後の年の受賞者がインタビューで私の小説を読んで再起、執筆しましたなんて言葉も聞けそうだ。
流行りに出遅れた感はあるが悪いことばかりじゃない。
下積み期間が短い訳だ。
亀の甲より年の功と言うだろう。
齢を取れば、それ相応の文才を発揮できるものだ。
私の原稿はこの前見てもらった編集社からは酷評だったが、それは私の小説が実験的だったから。
私から広まる小説の新形態は時代を創るだろう。
私は決意を漲らせ、編集社の思い扉を開けた。
「どうでしょう?私の考えた新形小説、"なりきり系小説"は?」
「なろう系小説との相違点は?」
「読み"きり"の"なろ"う系という点です」
「確かになろう系始めライトノベルはシリーズが殆どですが、それは読者の需要と作者の供給が釣り合うからです」
「読者様の需要に間に合うよう、納得頂けるクオリティーを高頻度で実現してみせましょう!私が作家になったからには私本人の利益はあまり問わず、純粋に光る作品を追い求めていくつもりです」
「確かにどの作品からも影響されていないように見受けられますね。逆を言えば実験的すぎるのではないかと」
「いや、そこからは我々編集部の腕の見せ所じゃないかな?理系作家さん、今日は忙しい中来てくれてありがとう。そうだね、中々光る物を感じたよ。我々の中で検討するが、前向きに受け取ってほしい」
「ありがとうございます!」
「彼、デビューさせるんですか?」
「うーん、今日来るもう1人の作家の卵の原稿を読むまで言い切れないけど…センスはあったね」
「その作家の卵さん、もう到着してますよ」
結論から言うと彼は採用されなかった。
遅すぎた天才は強ち間違っていなかった。
彼は遅刻したのだ。
彼の小説は他の新米作家とは一線を画すセンスがあったが、最後の信用勝負で負けたのだ。
押しドア、ビル風、作家ごっこ