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呪術俳優
フィリー
さあ、狂乱の幕開けだ」
羂索(偽夏油)役の俳優が、カメラに向かって不敵に微笑む。
今回の新章「死滅回遊」は、全国数箇所に巨大な「クローズド・セット」を作り、役者たちが実際にその中で生活しながら演技を続けるという、前代未聞の超長期サバイバル・ロケだった。
仙台結界:空を駆ける「特級」の意地
「乙骨さん、ワイヤーチェック入ります!」
海外の映画祭から帰国したばかりの乙骨憂太役は、空港からそのままヘリでロケ地の仙台へ降り立った。
「四つ巴」のアクションシーン。空中に吊るされた烏鷺(うろ)役が、ブルーバックの前で「私、実は高所恐怖症なの!」と叫ぶが、乙骨役が「大丈夫、僕がしっかり支えますから」と王子様スマイル。
その瞬間、烏鷺役だけでなく、モニターを見ていた女性スタッフ全員の「領域」が展開したという。
東京第2結界:カジノ化した撮影現場
一方、新宿の廃校セットでは、秤金次役と鹿紫雲一役が対峙していた。
「おい秤、その演出……マジで光るのか?」
鹿紫雲役が指差したのは、セット内に持ち込まれた本物のパチスロ台と、ド派手なプロジェクションマッピング。
「ああ、俺のシーンは予算の半分が電気代だからな。いくぜ鹿紫雲、確変(撮影)開始だ!」
撮影中、秤のテーマ曲が爆音で流れる中、二人はアドリブ全開の格闘を繰り広げた。あまりの熱量に、鹿紫雲役の「電気」エフェクト用の電飾がショートし、現場が本当の停電になるハプニングも。
桜島結界:謎の「芋虫」スーツ
真希は、新形態の呪霊(直哉)と戦うため、巨大な「芋虫型ロボット」と対峙していた。
「……直哉、その格好で『真希ちゃん!』とか言われても、笑い堪えるの必死なんですけど」
芋虫の着ぐるみの中から、直哉が「これがプロの役作りや! べっぴんさんやねぇ、真希ちゃん!」と、関西弁全開で嫌味なセリフを吐く。
カットがかかった瞬間、芋虫がシュールに横転し、真希が「……シュールすぎるわ」と膝から崩れ落ちた。
高羽史彦の「スベり知らず」
現場の空気を一変させたのは、コメディアン俳優の高羽だった。
「羂索さん、漫才しましょうよ!」
シリアスな演技派で知られる羂索に対し、全力でハリセンを振るう。
「僕、台本覚えてきたんですけど……」と困惑する羂索に、「いいんですよ、笑いはライブ感ですから!」と高羽がアドリブを連発。
最終的に、羂索が「……意外と、悪くないね」とノリノリで全身タイツを着た時、スタッフは「これが本当の呪いか」と震えた。 伏黒恵の「受肉」
そして、衝撃のシーン。
宿儺が虎杖の体から離れ、伏黒の喉に指を突っ込むカット。
「伏黒、ごめんな。これ、苦しいよな」
「宿儺さん、大丈夫です……。でも、指の小道具がちょっと甘い味がしますね」
「ああ、美術さんが『かりんとう』で作ってくれたんだ」
そんな和やかな会話の後、カメラが回ると伏黒の表情は一変。「宿儺に支配された絶望の顔」を見事に演じきり、現場を凍りつかせた。
「……よし、これで『死滅回遊』全工程終了! 次はいよいよ、五条悟の復活だ!」
監督の声に、疲れ果てた役者たちが顔を上げる。
そこには、獄門疆(楽屋)での3年間の休暇を終え、肌ツヤが最高に良くなった五条悟役のスターが、最新の高級車に乗って颯爽と現れる姿があった。
「……よし、これで本当に全部、終わり!」
都内にある国立俳優養成学校、通称「呪術高専」。
最終回の放送が終わり、校舎の屋上で虎杖悠仁は大きく伸びをした。隣には、すっかり髪が伸びた伏黒恵と、新作映画の役作りのためにネイルを変えた釘崎野薔薇がいる。
「終わっちゃったわね。明日から、あんなに血塗れになって叫ぶこともないんだ」
釘崎が少し寂しそうに笑う。
「でもさ、変な感じだよな。あの新宿のセット、昨日行ったらもう更地になっててさ。あんなに必死に戦った場所が、ただの駐車場に戻ってるんだ」
虎杖がそう言うと、伏黒が静かに答えた。
「……場所は消えても、撮った映像は残る。それに、俺たちの体に染み付いたアクションもな」
そこへ、背後から聞き慣れた軽い足音が近づいてくる。
「やあやあ、3人とも! 卒業制作の評価、A+だったよ。おめでとう!」
サングラスをずらし、現役トップスター兼・講師の五条悟が、手に高級な紙袋を下げて現れた。
「五条先生! さっきニュースで見ましたよ。新作のハリウッド映画、主演決定おめでとうございます!」
虎杖が駆け寄ると、五条は「まあ、僕『最強』だからね」といつもの調子で返し、袋から3つの箱を取り出した。
「これ、卒業祝い。君たちの名前入りの特注台本カバー。これから先、別の現場に行っても、これを見て『高専の地獄のロケ』を思い出して頑張りなよ」
箱を受け取る3人。
ふと校庭を見下ろすと、そこには新しいドラマの準備で走り回る後輩たちや、パンダ先輩、そして「次こそは主演を獲る」と木刀を振るう真希の姿があった。
「……さて」
五条が空を見上げる。
「次はどんな役を演じる? 呪術師でも、普通の学生でも、なんなら悪役でもいい」
虎杖は、屋上から見える東京の街並みに向かって、拳を突き出した。
「俺は、何にだってなれます。この3人で……いや、みんなで作り上げたあの時間は、本物ですから」
夕焼けが校舎を赤く染める。