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12月24日。 最寄り駅から一つ隣の五井駅へ移動する。そこから更にスマホのマップを眺めながら足を進める。街はすっかりクリスマスシーズン。この地域では雪が積もらないが、とても気温は低くなる。息を吐けば、白い煙が口から出でてくる。私は暑いのも寒いのも苦手だが、冬の夜空はとても好きだ。雲がない日は、綺麗な冬の大三角がキラキラと輝く。シーンとした、誰にも邪魔されない、不思議な感覚に溺れていく感じがたまらない。目を瞑って、ひんやりとした空気を吸い込む。私は冬になると、夜にいつもこんなことをしている。変な習慣がついてしまったとは思うが、コレをしなければ眠れなくなってしまった。
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駅から約6km。運動が苦手な私には中々堪えたが、なんとか目処病院に辿り着いた。外観はとても清潔で、如何にも"病院"という感じだった。エントランスで受付を済ませる。どうやら涼太くんは202号室にいるようだ。ああ、緊張する。ここまでの道のりは落ち着いていたのに、いざ会うとなれば、心拍がドラムロールのようになっている。足を動かし、階段を上がる。廊下に出て、進んでいく。
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202号室。 ついに着いてしまった。髪型が崩れていないか、前髪を触る。そして少し、呼吸を整える。
よし、開けるぞ。扉に軽くノックをして、ガララッと一気に扉を開けた。
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「えっと…ひ、久しぶり!」
やらかした。扉を開けるなり大声で急に喋ってくる奴なんているだろうか。しかも事故の怪我がまだ癒えていないのだ、ただただ迷惑でしか無いだろう。 少し間が空いて、寝ていたのかな、と思い私は顔を上げた。カーテン越しから透けて見える彼の姿は、今にも消えそうなものだった。ドキドキしつつ、ゆっくりとベットへ近づいていく。
「あ、開けるよ…」
カーテンを開けた。奥にはベットの上に横たわる、頭と右目に包帯を巻いた私の好きな人がいた。その姿はなんとも痛々しいもので、包帯には少し血が滲んでいる。よく見ると、右腕にはギプスがはめられている。落下の衝撃で折ってしまったのだろう。
私がまじまじと彼を見ていると、ボーっとしていた涼太くんは急にこっちを向いてきた。
「え゙っ、あっ…。」
ギュンッといきなり目を開いてこっちを見つめてきたので、言葉が出てこなかった。
「み、浦…さ…。」
「へっ…?」
抱きつかれた。 好きな人に。気がつけば。
「うぇあっ…?」
変な声が出た。今、何が起こっているか分からなかった。
「り、涼太く…。」
「三浦さん…!」
体の熱が一気に何処かへ逃げてしまった。 私は今の一言で、全てを理解した。
--- 涼太くんは、三浦さんのことが好きなんだ 。---
「あっ…。」
「三浦さん…やっぱり、生きていたんだね!」
やめて
「"あの時"僕が見たものは、幻だったんだ!」
いや
「ああ、良かった! 君がいなければ、僕は…僕は…!」
それ以上は…
…? "あの時"?
「涼太くん…。"あの時"って?」
「えっ…ああ。 それは…」
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ある日、僕は君が欠席した時にプリントを届けに行ったんだ。受験に必要なものが書いてあるプリントだ。嬉しいことに、クラスの中で一番家が近かったのは僕だったからね。君の家に堂々と迎えるなんてこれまでにない位、嬉しいことだったよ。
君の家の前に立った時、違和感を感じたんだ。あるべきはずのポストが、なかったんだよ。これじゃあ、プリントを君に届けられない。しょうがないから、インターホンを鳴らしたよ。…でも何分待っても反応がない。留守なのかなと思ったんだけど、なにか嫌な予感がして、試しにドアを引いてみたんだ。 …簡単に開いてしまったよ。すると、奥から鉄臭い匂いが臭ってきてね。ゾッとしたよ。失礼だとわかっていながら、君の家へ上がり込んだ。一階の、特に鉄臭い匂いが酷い部屋のドアを開けた。 そこには、君の両親の…死体があったんだ。本当に、腰が抜けると思ったよ。それから、君のことがとても心配になって君を探したんだ。 君はいたよ。二階の、部屋に。部屋には、天井から、ぶら下がっていた…君が…。
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そこまで話した涼太くんは気を失ってしまった。焦った私はナースコールを押した。駆けつけた看護師達に部屋から追い出され、帰路についた。 病院から家までの記憶はない。気づいたら、自分のベットに突っ伏せていた。 少しずつ、痛くなっていく。長距離歩いたから、筋肉痛? いや、心の痛みだ。ああ、私は今日、失恋したんだ。 ボロボロと涙が出てくる。止められない。朝の時間の、身だしなみにこだわっていた自分が馬鹿みたい。
「はは…もう、どうしよう…。」
続く