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公開中

馬が来るまで

「わたしこっちだから。じゃあね、アキくんたち!」 ヒナはそう言い、バイバイと家へと帰ってった。 はぁっと息をもらすと、アキが言ってきた。 「ねぇ、さっきこそこそ話してたけど、なんの話?」 ギクっと表情をかためるナツとゲシ。もちろんぼくも例外ではない。 「いやー…、アキって女子に好かれるよなって…。」 正直にぼくが言うと、アキは言った。 「んー…、なんだろ、正直、オレはトウヤたちと遊べるほうがうれしいけど…。」 ヒナのあのもうれつなアタックは、アキには全くひびいていないようだった。 それどころか、ヒナのことを全く気にしていないようだった。 「…なんか、今日、つかれたなぁ…。」 アキはそう言って顔を下に向けた。 だけどまた、ばっと顔を上げてアキは言った。 「そういやゲシって、どうやってイーハトーヴに来たの?」 ぼくらが住んでいる、ここイーハトーヴは、ちょっと変わった所だ。 地図に名前もないし、電車を使うしかイーハトーヴの外に出ることはできない。 そして、外からイーハトーヴに行くことはおろか、存在を知っていてもたどり着けない場所なのだ。 「うーん、イワテの方に行きそうな切符買って、いつの間にかイーハトーヴに着いてたんだよな。」 「えぇ〜っ、なんかすごいや。」 アキはそう言い、ナツとゲシは不思議そうに首をかしげる。 「そういうアキはどうやって帰ってきたんだよ。」 ゲシがたずねるとアキはこう言う。 「そりゃあ、切符買って、電車乗って…あ、ゲシといっしょだ。」 うーん、と声がもれる二人。 確かに、アキはどうやって町からイーハトーヴに帰ってきたんだろう。 考えれば考えるほど、なぞが生まれる…。 すると突然、ナツが言った。 「明日、駄菓子屋行かね?」 ナツのいきなりの誘いに、アキとゲシは顔をポカンとさせて、 その後に行くと答えた。 「いきなりだな。」 ぼくがたずねるとナツは答えた。 「ちょーっと思い出したことがあってな…。」 なんだよー、とアキとゲシは問いかける。だけどまだヒミツとナツはもったいぶった。
「ハル〜、さっさとええ加減に勉強しろ!」 おかあの怒った声が俺の耳を貫く。 「このままやったらバカ私立しか受からんよ!?あんた受験生でしょ!」 「ひぇ〜。わかった。わかったから。勉強するからファミコンぶっ壊さないで〜…。」 俺は屈して、勉強道具をある程度まとめる。 「全く…、トウヤくんを見習い。」 ややグサっと心に刺さったが、俺は勉強をすることにした。 …暑いし、集中できない。 初日からずっと書いていない日記も、そろそろ手をつけないとまずいレベルだ。 ひとまず日記を書こう。 ぺらっとページをめくると、まっさらな行が写る。 俺はそこに「7月25日」と書き綴った。 「あの日は、確か…。」 おばさんの家に着いたときだ。トウヤはまだ学校で、お土産を渡した時。 あーぁ、あの時のまんじゅう、マジで美味しかったなぁ…。 そこから、俺はまた次々と書く。 「7月26日」 二日目のこと。確か親に駆り出されて、じいちゃんの畑の手伝いをさせられた。 腰抜けとか浅いとかめっちゃ言われて、帰る時にはすごい腰が痛かったっけ…。 しかもその上、大量の野菜を持ち帰らされたり、じいちゃんの友達の墓参りまでした。 色々友達の話も聞かされたけど、疲れすぎていてそれどころじゃなく、全く覚えていない。 「7月27日」 トウヤとゲームして、しかもトウヤが爆速で宿題を終わらせていた。 だけど絵日記で詰まって、トウヤがしんどそうにしていた。 寝ている時、トウヤはうなされて、しかも泣いていた。 でもやっぱこいつはガキなんだと分かって嬉しかった。変な話だけど。 「7月28日」 特に何もなかった日だ。 近所のガキを集めて、メンコ大会開いたっけ。 多すぎて消費しきれなかった野菜を、そこで配ったりもした。 みんなトウヤよりメンコが強かったけど、トウヤほどかわいくはなかった。 「7月29日」 トウヤがアキくんの所に泊まることになった日。 駄菓子屋に行って、お菓子を買って、ただひたすら店主のばあちゃんと話してたっけ。 するとナツって子の話をしていたのを思い出した。 トウヤが言っていたことまんまで、ますますナツくんに会いたくなった。 そして今日は7月30日。あと一日で7月が終わる。 今はまだ昼。今日の夜、日記を書こう。 「ハル〜?ちょっと来て〜!」 おかあの声。 「今行く。」 タタタと俺は向かった。