公開中
#12
職員室、放課後の重苦しい空気
「……というわけで、図書室の死角で密着しているところを現行犯で押さえました。中等部1年で、これほど不健全な行為は断じて許されません!」
重森先生の怒鳴り声が職員室に響く。
はじめの両親と、九郎の母親が並んで座り、気まずそうに下を向いている。はじめは涙目で、九郎の制服の袖をぎゅっと握りしめていた。
「はじめ、本当なの……? まだ中1なのに……」
母親の悲しそうな声に、はじめが
「あ、あのね、それは……」
と言いかけた時。
「……先生、言葉を選んでください」
九郎が、一歩前に出た。
いつもより低い、冷徹なまでの静かな声。
「『不健全』って、具体的に何を指してるんですか? 俺たちは一緒に勉強して、たまに……まあ、手が触れたり、近くにいたりしただけです。それが、そんなに悪いことですか?」
「貴様! 図書室で何をしようとしていたか、白状せんか!」
重森先生が机を叩く。
「……好きだから、一緒にいたい。それだけですよ。……父さん、母さん。俺、はじめのことが本気で好きなんです。不順な気持ちなんて一ミリもありません」
九郎は重森先生を無視して、はじめの両親と自分の母親を真っ直ぐに見据えた。
その瞳は、中1とは思えないほど強くて、一点の曇りもない。
「はじめは、俺がいないと数学も英語も赤点。俺は、はじめがいないと……毎日がクソつまんない。お互いに必要な存在なんです。……これのどこが『不健全』なんですか?」
九郎のストレートすぎる告白に、はじめの顔は一瞬で真っ赤。
両親たちも、九郎のあまりの堂々とした態度に、毒気を抜かれたように顔を見合わせた。
「………まあ、九郎くんがそこまで言うなら。……成績、上がってるのは事実だしね」
はじめの父親が、苦笑いしながら口を開いた。
「重森先生。……子供たちの『好き』っていう気持ちまで、大人が力ずくで押さえつけるのは、教育としてどうなんでしょうか? もちろん、一線は越えないように厳しく言い聞かせますから」
「そ、それは……! しかし……!」
ぐうの音も出ない重森先生を置き去りにして、九郎ははじめの手をガシッと掴んだ。
「……話は終わりですよね。……行こうぜ、はじめ。……勉強の続き、やんなきゃだろ」
職員室を出て、誰もいない廊下に出た瞬間。
九郎は壁に寄りかかって、はぁーーーっと深い溜め息をついた。
「……。……。死ぬかと思った……」
「九郎……! かっこよすぎだよぉ……っ!」
はじめが泣きながら抱きつくと、九郎はいつもの意地悪な顔に戻って、はじめの頬をむにゅっと引っ張った。
「……バカ。親の前であんなこと言わせんなよ。……責任取れよな、一生」
「うん! 一生、九郎のそばにいる!」
九郎は恥ずかしさを隠すように、はじめのポニーテールをぐいっと引っ張って、
「……帰るぞ」
と歩き出した。