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EP1 妖精バジルのマルゲリータ 〜オリーブフラワーを添えて〜
キャラクターのメニュー表です
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「オイオイオイ俺ァ暇じゃあねェーッての!お前がやればいいじゃねぇか!俺は今からァ……そう!トイレ行くんだよ。長めの!」
だだっ広いレストランの店内に怒号が響き渡る。
客はいないので営業に支障はないが、店内は険悪な空気に包まれる。
その声の主は彩度の高い赤い髪を持ち、常に黒のワイヤレスイヤホンと黒マスクをつけている糸目の人物だった。
怒号を飛ばされたオーナー、ジョン・リドゥルは微笑みを顔に貼り付けたまま、少し困ったような表情をする。
「カレシスプさん、誠に申し訳ないとは思っておりますが、貴方は腐っても店長でしょう。」
「腐っても、ってなんだよ!!」
二人が揉めている様子を、ウェイターの制服を着た明るい茶髪の男がニコニコと微笑んで見守りながらノートに書き記していた。
「なるほど〜店長は16:20からお手洗いに行くと…ほう、メモメモ」
「ヴィアン!そんなのメモしてんじゃねぇ!」
ヴィアンと呼ばれた男は、カレシスプから怒鳴られてもなお、事細かに今の状況を分厚いノートに書き込んでいく。
「はぁ…ちょっとうるさい、只今営業中なんですが。」
厨房から水色のサイドポニーテールをした美人が現れた。
コック帽を被ってコックコートを着ている。
「おや、レイさん、お騒がせしてしまい大変申し訳ございません。」
ジョンは一応謝ってはいるが、その言葉が心にもないということをその笑顔が物語っている。
レイはカツカツと三人の元に歩み寄り、事情を問いただす。
「実は、どうしても足りない食材がありまして〜それを店長に採りに行ってもらえないかとオーナーが交渉(強要)していたところなんです〜」
ヴィアンが説明してくれるが、交渉という言葉の裏に微かなパワハラの香りがした。
「それって、どんな食材ですか?」
説明を聞いてレイはジョンにこう尋ねる。
「『オリーブフラワー』という、南米にのみ咲く魔法植物です。とてもいい香りがするんですよ。明日の午前3時までに欲しくて。」
なるほど、南米か〜、とレイが頷いたところで
「…って!店長に南米まで行かせる気だったんですか!?しかも明日の?午前?3時?までにとってこいって…正気じゃない!」
レイは耳を疑う言葉に思わず口が滑った後、ハッとして口を押さえる。
「正気じゃない…?」
ジョンは不気味なくらいにこやかに微笑んでいるが、目の奥は笑っていない。
レイはバツが悪そうにしていたが、やがて思い出したようにハッとして提案する。
「あ、でもそれって資料とかありますか?あれば私の魔法で出せるかもしれません。」
その言葉を聞いて、嬉しさのあまりジョンはおそらく真に満面の笑みになる。
「素晴らしいですレイさん!さすがは料理長ですね!」
---
しばらくしてジョンが一冊の分厚い本を持って、レストラン奥立ち入り禁止の廊下の先の部屋から現れた。
「これがオリーブフラワーです。」
その花はとても小さく可憐で、オレンジと水色のほのかなグラデーションカラーだった。
「わかりました。これを用意すればいいんですね。」
レイが全神経を集中させて両手に力を込める。
『creator』
光の糸が集積し、一つに束ねられていく。
やがてその光の束は先ほど見た可憐な花を形作っていく。
目の前で起きる出来事に、誰もが息をのんでその様子に目を奪われていた。
ヴィアンだけはその光とノートを交互に見て書き記していた。
「…完成です!…ふぅ。」
目の前の机の上に置かれたその小さな花は本で見たものとそっくりそのままだった。
「助かりました!これで明日ご来店くださるお客様にお料理が提供できます!」
「レイ、あンがと。クソクズ、ゲホゲホ……オーナーの無理難題に対処してくれてさ。」
「いえ、これくらいあたしには朝飯前ですよ。夕飯前だけど。」
「料理長は冗談を言うことがある、っとメモメモ…」
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翌日の午前2時。
いまだにレストランの従業員たちは働いていた。
「…んでこんな時間まで働かねぇといけねぇんだよ。明らかに労働基準ぶっ超えてんじゃねぇか!」
カレシスプは死んだような目で、目を瞑っているので実際のところはわからないが、不満をぶちまける。
「まぁ、当店デリージュは大雨の日にのみ開店するという謎ルールがありますからね〜雨が止むまでは店を閉められないですもんね〜」
このレストランの中からでも外の雨音は聞こえてくる。
まだしばらくは止むことがなさそうな勢いだ。
「ンなんだよそのクソクズルールッ!いらねぇっつうの!さすがはあのクソクズオーナーだわ…」
「その何たらオーナーというのはもしかすると私のことでしょうか?」
カレシスプの後ろから音もなくジョンが現れる。
笑顔の圧に凄みがある。カレシスプはオーナーの突然のご登場に固まった。
「皆様、お疲れだということは重々承知の上ですが、もうすぐでお客様がいらっしゃるので気を引き締めて参りましょう!」
ジョンは疲れの色を微塵も見せない様子でガッツポーズをする。
士気をあげようとしているようだがほとんど意味はないようだった。
カランカラン…
何者かが店内の扉を開ける音が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりましたキャメロン様。最上級のお席をご用意しております。」
ジョンがキャメロンという客、色白の鍛えられた体に黒い革ジャケットを着た中性的な客である、の上着と荷物を受け取る。
「お客様、どうぞこちらでェす!」
カレシスプがキャメロンをエスコートする。
キャメロンは堂々とした足取りで案内された席に着く。
「らっしゃーい!今日は何注文すんスか〜?」
「いつものだ。」
「『妖精バジルのマルゲリータ』ね、りょ〜。」
「受け答えが軽いな!…もう慣れたが、まだ多少心配になる。」
「ご安心をー。常連のことはしっかりわかってますから。トマトソースは濃いめでチーズは2.5倍に増量、ピザの耳はカリカリ、妖精バジルはあと乗せで最後にオリーブフラワーを添える、っすよね?」
「ま…まぁそうだが…」
「いちいち注文するのも疲れるでしょうし、常連についてはこっちが把握してんので無駄に喋らなくてヘーキっすよ。」
「そうか…確かにそれはそうだな」
キャメロンは何か考え込んでいたようだが、納得したように一人頷いた。
カレシスプは厨房に向かっていく。
「カレシスプさん、少々宜しいでしょうか。」
カレシスプが厨房に着くと何やらオーナーが従業員を集めていた。
三人が取り囲んでいるのはさきほどの分厚い書物だった。
「ここを見てください。」
ジョンが指さしたのはオリーブフラワーのページ。
その花の絵が描かれている横に何やら注意書きが書いてある。
『オリーブフラワーを調理するときは必ず5人以上の魔法使が花を取り囲んでください。魔力で花を威圧しないと花が暴れて周りのものを破壊します。』
「…はぁ!?」
「おやおやですね。」
こうして4人は窮地に立たされたのであった。
<キャラ原案>
カレシスプ・ヒミュー(店長)_ミルクティさん
ヴィアン・ゼアロトリィ(副店長)_♱𝖑𝖎𝖊𝖓𝖆♱さん
レイ・ルージェ(料理長)_和音さん
キャメロン・ゴア(客)_早作花さん
ありがとうございます!