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9話 心地の良い痛み
アメリアを好きになった数日後、僕はアメリアに自分の気持ちを伝えた。気持ち悪いと、拒絶されるのを覚悟でアメリアに告白した。アメリアは、少しの間驚いて、僕の手を取ってくれた。嫌われる未来しか見ていなかった僕は何がなんだか分からなかった。でも、それから二人で仕事の手伝いを休んで街や花畑に行ったり、こっそり手を繋いでみたりするたびに愛しさとともに実感も湧いてきて。一年に何度かある花火大会の日、皆が花火に夢中な中、キスをしてみた。すごくドキドキして、周りの誰かに脈の音が聞こえてしまうのではないかと心配になるほどだった。そんな日々が2年ほど続いた。アメリアと付き合った日から僕たちは、お互いの誕生日にあの花畑に行くようになった。その日はアメリアの17歳の誕生日。花畑に向かっている途中の山道で雨が降り出した。僕は帰ろうと言ったのだが、アメリアは、『きっとすぐに止むから大丈夫よ。今日は絶対にあそこに行きたいの。』と言った。上を見上げると空は青かったので、勢いは強いが通り雨だろうし、アメリアの言うようにすぐに止むだろうと思った。だが、それが間違っていた。アメリアは、土砂崩れに巻き込まれて死んでしまった。もともと脆かった地盤が雨でさらに脆くなっていたらしい。……僕のせいだ。僕があのとき、目の前でアメリアが土砂の下敷きになる前に手が届いていれば、この足がすくまなければ、そもそもあのとき無理矢理にでもアメリアと引き返していれば、こんなことにはならなかった。ずっと、後悔してきた。なぜ、僕のほうが生き残ったんだ。アメリアが居なければ生きている意味なんてどこにもないのに。決して結ばれない運命でも、たとえ誰が僕たちを否定しようが構わなかった。そう思えるまで強くなれたのはアメリアが居たからだ。昼と夜がぐるぐる回るだけの日々に楽しさなんて見いだせず、死ぬ気力すら生まれないまま毎日毎日死んだように生きていた。そんなときに、彼女―――オリビアと出会った。アメリアが生き返ったのかと思うぐらいそっくりで、本当は強く強く抱きしめてみっともないぐらい泣きわめいて後悔の念を叫びたかったが、彼女は、アメリアではなかった。一人の人で、オリビアだった。それが僕にとって、毒になったか、薬になったか、まだわからないけれど、たったひとつ、わかることがあるとすれば、今僕の中にあるのは、心地の良い胸の痛みだけということだ。