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#1 じゃんけん最弱王
楠木山小学校、6年2組、3番、大橋結花。
「楠木山小学校」と「大橋結花」以外、ガラリと変わったプロフィールに、少しだけ戸惑う。
「また、あんた?」
1年、いや、くすのきやまこども幼稚園のきりん組(年長さんのことね)からクラスが一緒の幼馴染・足立宙。神様が「あなたと宙は宿命の相手です」っていうぐらい、ずうっと同じなのだ。
「いやぁ、2番なんて何時ぶりだろ」
足立のあ、だから、彼はほぼ1番だ。なのに、今回は|阿崎心和《あさきここな》ちゃんがいるせいで、久しぶりの2番となった。
ちなみに、わたしも宙と並びになるのは久しぶりだ。だいたい、|井村紗良《いむらさら》ちゃんとか、|宇野《うの》のぞみちゃんとかが入る。
「さっそく、委員会を決めたいと思います」
みんなの自己紹介と、いろいろ雑多なものが終わった後、さっそく委員会を決めることになった。
図書委員会、体育委員会…と、さまざまな委員会が白チョークで書かれる。その下に(2)とか、(3)とか、人数が書かれる。
えーと………。
「|村木《むらき》先生、2人あまってます」
「ああ…」
あ、ちなみに、先生の名前は|村木彩芽《むらきあやめ》ね。
「えーと…とにかく、希望する委員会を決めて、マグネットをはりにきてください」
さらっとスルーされた。
『大橋結花』と書かれたマグネットを、『環境委員(2)』のところにはる。
そして、じゃんけんをする。|佐野隆介《さのりゅうすけ》と、|日村隆弘《ひむらたかひろ》とだ。
…結果、負けた。グー対チョキ。うぅ、また宙に『じゃんけん最弱王』って馬鹿にされる。
図書委員、保健委員のじゃんけんでも負け、とうとう2人たりないの2人に入ってしまう。
「あ、宙も?」
「くそぉ。っつーか、お前だって2連続負け負けだろ?じゃんけん最弱王」
「うるっさいなぁ!どこぞの星みたいに弱くないから」
わたしと、宙。あーあ、なんでこの2人。神様、やっぱり宿命ですか?
「足立さんと、えっと、大橋さん。20分休み、来てください、『悩み室』に」
「?」
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20分休み。2階の突き当りにある空き教室、『悩み室』にわたしと宙は来た。
確か、悩み室の前にあるポストに、悩みを投函したら解決してくれる…だっけ?利用したことないな。
「2人には、『悩み委員』になってもらいます。正式には、『悩み解決擁護委員』」
「悩み…委員?」
「はい。このポストに投函された悩みを、解決してもらう委員会です。この仕事には、さまざまな条件があります。男女1人ずつ2人だけ、習い事をしていない、性格や特技がまるっきり反対、という条件です。本来は教師が指名するんですが、わたしはまだわからなくて。じゃんけんに負けたあなたたちが、ぴったりだと思ったんです」
「は、はぁ…」
ああ、あの悩みって、この委員会が解決してたのか。
「放課後、少し残ってもらって解決するんです」
「うぇええ!?」
「うるさいな、宙」
「すみません。それで、解決してもらうんです。ここが部室ですので、よろしくお願いします。それでは」
「はーい」
元気な返事をしたものの、わたしは「はぁ」とため息をこぼした。
「ったく、なんであんな『うぇええ!?』みたいな声出したのよ」
「そんな変な声じゃねえよ」
「はいはい、変な声で悪かったですねー」
「俺はゲー…勉強で忙しいんだよ」
今明らかにゲームって言ってましたよね。というか、宙、超平凡なやつでしょ。出席番号以外、ほとんど中位。まんなか。
「黙れ」
「お前もだろが。全国の習い事していない人に謝れよ」
「わたしは勉強してるし。習い事ナシで、自主学習だけで東大行くのが夢だから」
ああ、そうだった、宙のプロフィールね。
運動もふつう、偏差値もふつう、顔もふつう、性格も流されやすくてふつうと来た。
ちなみに、わたしは勉強もできて運動もでき、性格もよしという三拍子(顔は?って質問はナシね)。
「ふぅ…。あーあ、暇だなぁ。ほら、何か悩みでも出してよ」
「勉強ができない」
「ゲームなんてしないで、わたしみたいに努力して自主学習しろ。次!」
「そんなあっさり解決するやつ、見たことねえよ。それが簡単にできたら、困らないんだってば。そんなんでつとまるわけないだろ」
なんなの、解決してやったのに。
「取り敢えず、ポスト、見てみる」
「んー」
何が「んー」だ、何が。
段ボールで作った、かなーり年季の入ったポストを降る。カサカサカサ、という音がする(Gではないからね)。
なんとか取り出すと、ノートの切れ端が入っていた。
「あった」
「新年度早々?」
「取り敢えず、さっさと解決するわよ」
開いてみると、いびつな字でこう書かれていた。
『2年3くみ16ばんごとうちく2年生のべんきょうふあんです なんとかしてほしいです』
「ったく、学校じゃなくて学年でしょ」
「2年だろ」
ごとうちく…?
『ごとう』は『後藤』だろうが、ちくはなんだろう。
「これ、『さく』の鏡文字じゃないのか?」
「鏡…ああ、なら『さく』で当たりね」
佐久、が一般的だろう。ていねいに番号まで…
「明日、行ってみるわ」
「おっけ」
「20分休みね」
「あーい」
取り敢えず、今日は帰ろう。
これにて、悩み委員会1日目、終了っと。