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泡沫の記憶、愛しい人
<Attention>
本作品は、「ヘタリア」の二次創作です。本田菊と本田椿のお話です。(not腐)初めて執筆をしたので、違和感を感じる箇所があるかもしれません!ご了承ください。
※実際の国、歴史、公式関係者様とは一切関係ありません。一部史実を参考にしていますが、政治的意図は一切ありません。無断転載等の著作権侵害に値することは、いかなる理由があっても認めません。
以下、多くの独自解釈・特殊設定が含まれます。苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
• ファンメイドキャラクター(本田椿)の登場: 原作者様未公認の派生キャラクター(帝国擬人化設定)をメインに扱っています。
• 公式キャラクター(本田菊)との双子設定: 二人の関係性を双子として描写しています。
• 特殊設定の描写: 特殊世界観設定の要素を取り入れています。
• 国の消滅・生まれ変わり描写: キャラクターの消滅(死を連想させる描写)および、現代への転生(記憶なし)が含まれます。
• 切ない結末(メリバ・バッドエンド風味): 救いのあるエピローグですが、全体的に切ない(シリアスな)すれ違いで終わります。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
世界が、がらりと音を立てて塗り替えられていく。
激しい時代の波の終わり。それは「大日本帝国」という国が終わりを告げ、彼が消滅することを意味していた。
誰もいない、薄暗い部屋。窓からは、血のような夕暮れの赤が差し込んでいる。
「がはっ……、っ、げほっ……!」
畳に突いた手から、サラサラと白い砂のように体が崩れていく。しかし、彼――本田椿の口から溢れ出たのは、鮮血ではなかった。
ボトリ、ボトリ。
まるで首を撥ねられるかのように、瑞々しい、そして悍ましいほどに真っ赤な「椿の花」が、彼の内側から次々と吐き出されていく。
「ああ……、もう、時間ですか」
視界が白んでいく。双子の弟の顔が浮かぶ。
表の光を歩む、自分と全く同じ顔をした、愛おしい弟。
(菊……)
声にはならなかった。
衣服の隙間から、ひび割れた皮膚から、無数の赤い花弁が咲き乱れるように溢れ出す。衣服が床に落ちる微かな音。それが、大日本帝国という化身が、誰に見届けられることもなく、静かにこの世界から散っていった瞬間だった。
それは、前触れもなく訪れた。
「――?」
執務室でペンを握っていた菊は、突如として襲ってきた奇妙な感覚に、椅子から転げ落ちるようにして立ち上がった。
痛いわけではない。苦しいわけでもない。
ただ、自分の胸の奥の、一番大切な境界線が、突然ボロリと崩れ去ったような――魂の半分を、生きたままゴソリと削り取られたような、悍ましいほどの喪失感だった。
冷や汗が全身から噴き出す。なぜだか分からないが、視界が恐怖で激しく歪む。
(椿……?)
脳裏に、不意にその名前が過った。
もしかして、という最悪の予感が頭を支配する。ペンを床に落としたまま、自分の執務室を飛び出し、回廊をなりふり構わず走り出した。
向かう先は、双子の片割れの部屋だ。
お願いだから、何かの間違いであってくれ。心臓が早鐘のように鳴り響く。しかし、走れば走るほど、その「予感」は残酷な形を変えて菊を襲い始めた。
(……あれ? 私は、いま、誰の部屋へ向かっている……?)
おかしい。ついさっきまで叫んでいたはずの『名前』が、走る一歩ごとに、霧のように頭の中から薄れていく。
誰だ。私は誰に会いに、こんなに必死に走っているんだ?
ドタドタと足音が静寂を切り裂く。
扉が勢いよく開け放たれ、菊は目的の部屋に飛び込んだ。
「はぁ、はぁ……っ、誰?……私は、誰に、会いに……」
乱れた息を整えながら、部屋の光景に目を見張った。
誰もいない。ただ、夕闇の中で、不自然なほどの「赤い椿の花」が床一面に、血を流したように咲き狂っている。
その瞬間、胸の空洞から、正体の分からない激しい涙がボロボロと溢れて止まらなくなった。
歴史の改変、国の再生。それに伴う「世界の強制力」が、菊の脳内から、さっきまで確かにそこにいたはずの「双子の半身」の記憶を、完全に消し去ろうとしていた。
顔が思い出せない。声が聞こえない。
だけど、さっき胸から消えた「何か」が、ここにあるのだと魂が叫んでいた。
狂ったように、床の花を、その下に埋もれる何かを探して掻き分けた。
指先に、冷たい金属の感触が触れる。
引き上げたのは、一対の「紅い耳飾り」だった。
それを見た瞬間、頭の中で、消えかけていた感情が爆発する。
思い出せ。忘れるな。私の、私の、もう一人の――。
「――っ」
握りしめた耳飾りが、手のひらに痛いほど食い込む。しかし、どれほど魂を削って考えても、どうしても、その『名前』だけが口から出てこない。
ただ胸にぽっかりと空いた巨大な空洞と、気が遠くなるほどの絶望だけが、その場に取り残された。
それから、長い長い、本当に長い年月が流れた。
世界は平和になり、かつての傷跡すら薄れていった現代。
冬の終わり、下校時間の高校の校門前。
菊は、理由も分からずずっと探し続けている「誰か」の気配に導かれるように、その場所に立ち尽くしていた。
ガヤガヤと騒がしい、笑い声に満ちた人混み。その中に、菊の視線は吸い寄せられた。
黒い詰襟の制服(学ラン)を着た一人の男子高校生。
ドクン、と心臓が跳ね上がった。
菊は考えるより先に動いていた。その少年の腕を、すがるように強く掴む。
「……っ、つば、き……!?」
何百年も呼べなかった、けれど今この瞬間に奇跡のように脳裏に閃いた名前。
涙を浮かべ、確信に満ちた目で、菊はその少年の顔を見つめた。
振り返ったその顔は――鏡を見るかのように、自分とそっくりな、あの愛おしい半身の姿だった。
「わっ!? ……えっと、何ですか?」
掴まれた少年は、一瞬驚いて目を丸くした。
そして、涙を流して自分を凝視する見知らぬ大人の姿に少し戸惑いながらも、丁寧な口調で首を傾げた。
「あの……、すみません、人違いですか? ……」
少年の瞳に映る菊の姿。
そこに宿っているのは、かつて自分に向けられていた、あの狂おしいほどの執着でも、切ない親愛でもなかった。
ただの、「突然涙を流して腕を掴んできた見知らぬ大人」に向けられた、純粋な戸惑いと、一歩引いた礼儀正しい温度。
菊の指先から、嘘のようにスッと力が抜けていく。
掴んでいた学ランの袖が、重力に従って離れていく。
「……あ、申し訳ありません。……よく似た方を、知っていたもので」
「あ、そうなんですね。びっくりしました……。それじゃ、失礼します」
少年は、カバンを肩にかけ直すと、丁寧にお辞儀をした。そして何事もなかったかのように歩き出し、現代の街の中へと去っていった。
二度と振り返ることはない。彼はこの平和な世界で、過去の重荷を何一つ持たない、ただの「今を生きる高校生」なのだ。
去っていく、自分より少し大きな背中を見つめながら、菊は静かに目を閉じた。
(ああ、そうか)
涙は止まった。胸の空洞が、今度こそ完全に冷え切っていくのを感じる。
(この方は、あの人じゃない)
姿は同じでも、自分の愛したあの人は、あの日あの部屋で、本当に花となって死んでしまったのだ。
「何だったんだろう、あの人……」
先ほど、校門を出て塾へ向かおうとしたとき、突然腕を掴まれたのだ。
驚いて振り返れば、そこには自分と驚くほどよく似た顔をした大人が立っていた。
しかも、なぜか泣きながら。
何かに縋るような、今にも消えてしまいそうなほど悲痛な目で、俺を見つめていた。
どうやら人違いだったようだが、あの人の涙を見た瞬間、自分の心臓がドクンと嫌な跳ね方をしたのを覚えている。
「あ、おーい、○○!早く来いよ!遅刻するぞ」
「あ…うん。ごめん、今行くー」
塾の扉に手をかけた友達に声をかけられ、俺はハッと我に返って歩き出す。
いつも通りの放課後の風景。
けれど、扉を開ける直前、俺は理由も分からず、どうしても気になって一度だけ後ろを振り返った。
でも、あの綺麗な人は、もう人混みに紛れてどこにも見えなかった。
「……?」
この、胸のざわめきは、一体なんだろうか。
掴まれた右の手首が、なぜか今もじわじわと熱い。
まるで、ずっと昔から探していた、絶対に失くしてはいけなかった大切な人に、ようやく触れてもらえたような――
そんな馬鹿げた錯覚が頭をよぎる。
「……ま、いっか」
俺は小さく息を吐き出し、なびく髪を抑える。
夕暮れの冷たい風が、学ランの襟を優しく揺らして通り抜けていった。