公開中
線香花火
ボチャっという水がこぼれる音とともに、|誠真《せいま》は来た。
「んで、あった?」
「うん、古いけど」
どぎまぎした会話を交わし、わたしはカラフルな線香花火のパッケージを開ける。粘着がなかなかだった。
「ハサミ持ってくるから、破っちゃえば?」
「えー…」
幼稚園の頃の、線香花火の思い出がフラッシュバックする。そういえば、あの時も誠真は隣にいた。
「ライターは?」
「あ、ライター。持って来る」
誠真は自分の家に乗り込み、「ライターあるー?」と言った。数分して戻ってきた誠真の手には、確かにライターが握られていた。
「やるか」
ぶっきらぼうにそう言って、誠真は線香花火を一本取り出す。すこしねじって、火薬の詰まっている方に火をつけたライターを近づけ、火をうつした。
パチパチッ、という音を立てながら、線香花火の先っぽは輝いた。暗い夜を照らす明かりのように、赤と橙と黄色に輝く。その光が誠真を照らして、わたしを照らした。背中のほうから、ヒューッという音が聞こえた。その後、数秒経って、ドンッという音が、わたしの背中を震わせる。
水色の浴衣は、闇にのまれてあまり見えなかった。燃えないように、裾のところを折る。
「…綺麗だね」
「うん」
やがて、線香花火は勢いを失い、光を失った。あたりが暗くなる。背中のほうから、また音とともに、光がはじけて、消える。
「ほら、綺麗だね、誠真?」
誠真は乱雑に、線香花火をバケツの方に放り込んだ。なんの音も立てず、線香花火は冷えていく。
「…こんなことして良かったの?」
「何が」
「ほら…あの件」
「別にいいよ」
そう言って、誠真はわたしに線香花火をもたせた。そして、ライターを近づけて、また火を灯す。
パッと視界が明るくなった。暖色で彩られた目の前は、綺麗だった。焦げ臭い香りもする。熱気を感じた。
「あ、もうおさまった」
そう言って、誠真は線香花火を取って、バケツに放り込む。さっきのが、最後の線香花火だった。
中学3年生の夏。最後の思い出に、という線香花火は、わたしの恋とともに消えていった。
落ちない線香花火が脳内を圧迫してくる〜〜
リクエストありがとうございました。