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四季折々・推理小説部 #3
__「安心して冬希くん、誤解は解いてみせるから」
秋音はそう胸を張った。
「マジすか先輩!! あざーっす!!」
「と言っても、確証はないんだけどね……。可能性ならいくつか思いついたわ」
落胆させないよう、可愛らしく頬を掻いて誤魔化す秋音。
「じゃあ、更に絞っていくよ」
後ろから「来た、秋音の質問攻めタイム」「フゥ〜〜〜」と野次が飛ぶ。ガン無視。
「テスト中に何か物を落とした人はいた?」
「えーっと……いなかったと思います」
「貧乏揺すりとか歯ぎしりみたいな、癖で音を鳴らす人っている?」
「います、ひとり……。歯ぎしりが酷い人が」
冬希の返答に、秋音はニッと口角を上げた。
「ビンゴ……いや、確証はないからリーチね」
少し考える素振りをしてから、
「最後に冬希くん、次の小テストはいつ?」
と問うた。
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今日くらいに、例の抜き打ち小テストが行われるはず。
冬希は緊張感を覚えた。
__「わ、分かんないっす……抜き打ちなんで、予告されないんですよ」
__「でも、ある程度の予想は立つでしょう?」
__「まぁはい」
__「じゃあテスト中、冬希くんは耳を澄ませていて。問題は間違えないよう、でも聞き逃さないよう」
__「わ、分かりました。けど……いい加減教えてくださいよ、カンニングの手口」
__「そんなの簡単よ〜」
先輩は軽い言い方で告げた。
__「《《歯ぎしりをしている秒数で、答えを教えているのよ》》」
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「あ、冬希くんやっほー。……どうだった?」
部室に入ると、秋音が手を振って出迎える。
『どう』というのは、言わずもがな、集団カンニングのことだろう。
「ビンゴでした……流石っす。先輩」
そのタイミングで、部室の隅から「冬希、説明。説明求む」「ずっと僕らだけ蚊帳の外じゃないっすか」と夏葉、春汰が出てきた。
「先輩、『歯ぎしりで答えを教えている』つってたろ。歯ぎしりを1秒したら答えはア、2秒ならイって具合に教えていたんだと思う……。クラスメイトに歯ぎしり酷い奴がいてさ、ソイツが犯人のはずだ」
そう言った冬希に、秋音が続く。
「きっと彼は、緊張時に無意識でしてしまう歯ぎしりを利用したんだろうね。日常的にしていたのなら、バレる心配もないし」
秋音の推理力に、夏葉と春汰はただただ感心した。
「緊張時に歯ぎしりをする人もいるって言うし。__ちなみに冬希くん、先生には言った?」
「はい。ちゃんと説明してきました……来週までには、先生から話があるんじゃないかと」
その『彼』とやらに予想がついたらしい夏葉は、秋音に訊く。
「彼、カンニングとかするようには、思えない……。秋音部長。理由、分かる?」
「うーん、そこまでは分からないなぁ。でも__」
夏葉の長い前髪から、ぱっちりした目が覗く。
「歯ぎしりをしてしまう理由のひとつに、ストレスがあるの。もしかしたら、彼にも事情はあったのかもね?」
まぁ、と秋音は語った。
「事情なんてみんなにあるものだし。一緒くたに被害者とか犯人とかで括ってしまってはいけないわよね」
ここで一区切りつくので、《序章》完結ということにしましょう。
次はどんな事件が起きるのでしょうか。
まだ登場が少ない、春汰、夏葉メインの話も増やしていく予定です。