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11.普通
静佳さんに出会って、1ヶ月程度が経った。
どんな些細なことだろうと、毎度毎度親身になって僕が話疲れるほど話を聞いてくれる。
久しぶりに明日なんかこなければいいのに、と思わずにいられる日々が続いていた。
でも、ずっとこんな日が続けばいいのに、って思う度に歩んできた日々が少しずつ壊れてしまう。
この幸せが崩れかけのジェンガみたいに積み重ねられていることを知ったから、幸せなことは長くは続かないんだって僕が教えてくれた。
だから僕は結局、昔の僕に逆戻りしてしまうんだって。僕ってそういう運命なんだって。
静佳さんと何でも話すって約束したのになぁ。
--- * ---
眩しい光が目の中に入り込んできた。
そこは練習室だった。
練習してたんだった、僕。
昨日も一昨日も、寝れなかったからかなぁ、なんて言い訳を考えた。どれぐらい寝てたんだろう。
座って眠っていた体を起き上がらせて、流れっぱなしの課題曲を止めた。
人の気配がして扉の方を見ると、そこには友達が何も言わぬまま立っていた。
「どうしたの?」
友達は何か言いたそうにしていたからその場から友達に聞こえるように声をかけた。
「…なんかお前さ、普通だね。怜夏じゃないみたい」
何か、大切な何かが壊れていった。
そうだ。学校で寝るのなんておかしい、テストで最大評価が取れないのもおかしい。
おかしいことなんだよ、怜夏。
「へへ……、ちょっと眠くてさ」
生半可な言い訳なんて誰も求めないの、完璧じゃないと僕は壊されていくだけ。
こんなんなら、誰にも認めてもらえないよ。
誰にも僕だと思って貰えないよ。
立ち上がって、授業が行われる部屋に向かった。