公開中
ある村の契機
異譚集楽〖プロローグ〗
冷たい雨が身体の熱を奪っていく。
雨に濡れた冷たい大地を裸足で駆けていく。
痛みが徐々に増していく。
今はただ、逃げなければならない。逃げて、逃げて、逃げて、追ってくる`奴`から逃げなければならない。
呼吸が乱れる。鼓動が激しく高鳴る。足が痛む。恐怖で身体が支配される感覚に陥る。
それでも、振り切れる気配がない。
必死に走って、逃げているのに、どこまでもついてくる。
やがて、身体全体が疲れて、目眩がした。
それが合図だったように濡れた地面に手をついて前に倒れた。
「__かひゅ__...!」
口から空気が洩れた。
そして、背中に何かが刺されるような痛みが走って、じんわりと熱く、暖かくなる。
すぐさまそれが抜かれ、何かが自分の身体から出ていき激しい痛みが広がる。
何度も、何度も、何度もそれが繰り返される。
だんだんと眠たくなり、痛みが引いていき、最後に首に刃が通るような感覚と共に意識が掠れていった。
---
都会の町のある新聞会社のオフィスにて、二人の男性が駄弁っている。
「本当に、行くんですか?」
同僚が聞く。
「ああ、良いネタになりそうだろ?」
「だとしたって、あんな辺鄙な村に取材に行かなくても...」
「良いんだよ、同業の人間もいるから」
「けど、危険じゃないですか?あの村...」
「大丈夫だろ。良いネタ持ってきてやっから、待ってろよ!」
そう男性の一人が言って、駆け足でオフィスから出ていった。
「......本当に、大丈夫なんですか...?」
残された男性が心配そうに独り言を呟いた。
慰める人間はいなかった。