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#3
「んで、ところでさ。君は118番目だろう?予言のこと、知ってるか」
「…なんとなくは、ヘリウムさんから聞きました。僕の次、3年後に誕生する人が、なんか…」
口をつぐんでしまっている。
「殺しとかは嫌だよね…」
「そんな物騒なこと言わないでよ」
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水素が自宅へ戻ると、ポストに新聞が突っ込まれていた。『ニッケ新聞』という枠の左には、『天才画家が行方不明!?』という見出しがでかでかと。内容は、画家のクロムが行方不明になった、というものだった。色で人々を魅了して、おまけに彼女自身も色んな人と関わる。良い画家だと、世間では言われている。
どういうことなんだろうか。『ニッケ新聞』という枠の隅っこの『何かあったらここまで』と、住所が記されている。責任者の炭素とニッケルの住所だ。あとは、電話番号。
ニッケルに電話をかけると、今は他の対応に追われているらしく、ぷつりと切れてしまった。仕方なく、炭素にかける。
「はいこちら、ニッケ新聞の炭素が応答します。どのようなご要件で?」
「あ、えーと、この『天才画家が行方不明』っていうので」
「クレームなら受け付けないわよ」
「違うよ!あ、わたしは水素です。協力したいなあと」
水素と知ると、あっという間に炭素はびっくりしたように声色を変えた。
「水素さんですか?わあ、申し訳有りません。住所があるので、こちらへ来ていただけませんか?」
「は、はあ…」
水素はまったりする暇もなく、炭素の家へ向かうことにした。
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炭素の家はぐちゃぐちゃとしており、辛うじて応接間は整頓されていた。白髪に水色のメッシュ、ポニーテールの先は黒黒としている。イアリングやネックレスはダイヤモンド製らしい。浴衣のようなもので、白と水色で統一されている。スカートもどきは丈が短く、水色のズボンが見えていた。顔は美しいが、今はクマがくっきりと見える。
彼女はニッケルにスカウトされたか何かで、印刷を行っている。それは副業だが、最早本業なみに忙しい。炭素の本業は幾つかあり、ダイヤモンドを生産する『炭素ダイヤ』、筆記具を生産する『炭素筆記』がある。
「あの、少し休んだほうが良くない?」
「いえ、新聞社をやると思ったらこれぐらい…。覚悟していたことよ。本当にごめんなさい、6番の分際で、あんな舐めた口きいて。最近、クレームがひどいのよ」
生まれた順に、この世は偉さが決まる。年功序列というやつだ。
「それで、協力って何かしら」
「クロムの行方って、わからないの?」
「…ああ、記事について?まあそうよね。ごめんなさい、ニッケルが取材で、わたしが校閲と印刷なの。あんまりわからないわ。…ああそうだ!新聞なんぞ、少しおやすみしてもいいと思わないかしら?大体、焼き芋の燃料にされるだけなのよ。お願いしますわ、1番様。24番はとうてい逆らえないはずよ」
必死さがうかがえ、「考えとくね」と水素は言った。
「本業のほうが稼げるのよ。『ニッケ新聞』をやめて、インクを『炭素筆記』で売って、クロムに印刷してもらえれば…うん、それがいいわ!そのほうが売上も上げることができるわね。今月末にやめようっと。…それで、クロムの行方ね?」
「うん」
「そうねぇ……あっ、思い当たるのが1人はいるわ」
「え?」
「ヒ素、彼女はすごく怪しいわ」
ヒ素の怪しさは否めなかった。1人で黙々と絵を描く。灰色のボブヘアで、両目が辛うじて見えるほどの長さの前髪。エプロンには『As』と読めるような黄色い絵の具が飛び散っている。
「画家だし、彼女がクロムの才能に嫉妬して、さらったのも頷けるわ」
ただ、クロムとヒ素の画力が五分五分なのは不思議だけれどね____
「なら、まずはヒ素のところへと?ずいぶん安直だね」
「それぐらいのほうがいいわよ。まずは行動しなくちゃ」
早く退職手続きを済ませよう、と炭素はゴミ屋敷の中へと突っ込んでいった。