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4・始まり
アントロ
翌日、みこちに言われた通りまた屋上前の階段へやって来た。
「おっリリカちゃーん!」
「ちょ...その呼び方人前で絶対しないで下さいね...」
「あったりめーよぉ! 活動バレまじで後が面倒だからね~。パパにバレた時どうなったと思う?」
みこちは乾いた笑いをして絶望的な顔で言った。
「事務所まで付いてきて『娘がお世話になってます』って菓子折り渡したからね...」
「うわぁ」
「その上地下でやるライブにも付いてきて『光ってる棒振り回してる人がいた』って警察呼ぼうとした」
「...」
「家に帰ってからは『軽々しく愛してるとか言うんじゃないぞ』って真顔で言ってくるし...!」
どんどんみこちの顔がげんなりしていく。思い出してしまったらしく半泣きである。
ぱっちりした目のみこちは、その小動物系の愛らしさと、ギャルっぽいキャラクター性から愛されてきた。
そんなアイドル配信者でも、意外な悩みを持っている物なのだなぁ。
「で...ここに来たら教えるって言ってたのは...」
「あっそうだったね~!」
昨日のノートを出してほしいと言うので、ノートを取り出し手渡す。
「...うん、で...はいはい...」
ノートを見つめ考えているみこちは、いつもの華奢な可愛らしさからは想像できないほどに真剣な表情だった。
あぁ、これだ。
みこちはただ人気なだけじゃない。
この人もまた、計算高い、賢い人間なんだ。
こうやって真剣に考えて、考えて、考えて、
やっと手に入れた、今の人気なんだ。
カリスマ。
そんな言葉が、みこちは似合うんだ。
「えっとね...まずこのキャラ性のとこ」
「はい」
「ここまで詰めなくていいと思う」
「へ?」
てっきり詰めが甘い物かと思っていたのだが、予想とは全く違う指摘だった。
「キャラって多少は作る物だけど、どっちかと言うとできていく物なんだよね」
「なるほど...」
「ほら、今のみぃ見て? 配信とあんま変わらないっしょ?」
「えっそれ素なんですか?」
「だよだよ。みぃいっつも見た目より精神年齢低いってカンジー!」
「そうなんだ...」
それはそれでちょっと心配になってくる。
「ほら、逆凸企画とかも結構変わらない人多いでしょ?」
確かに配信者が逆凸するときいつもと変わらないかもしれない。
というかあれ裏で連絡とかしないのか?
「しないよ? みぃお風呂入ってる時にグループの子から凸されてぇ~! あの時視聴回数結構多かったな~」
「連絡するのはドッキリとかかな」
「ドッキリは連絡するんかい」
「する~! だから演技力も必要だったり~」
みこちは...配信の話になると凄く楽しそうだった。
心から配信が好きなんだな...。
「まぁつまり...キャラは緩くでいいから、削ってみよ!」
「確かに設定ギチギチだと動きづらいですもんね」
「そゆこと! 多少自分に似せないと大変だよ」
そこから少しずつ削っていき、だんだんキャラがまとまってきた。
「こんなもんでいいよ」
「三分の二が消えた...」
「見た目にインパクトがあるからね。性格は今のところ生意気っ子のJKでいいんじゃない?」
「うんうん...」
「...」
完成したノートを見つめていると、横からの視線に気づいた。みこちがじーっとこちらを見ている。
「どうしました?」
「いやぁ...久しぶりにここまで楽しそうな配信初心者見たからさ」
「へっ?」
「よーし、みぃが将来を占ってやろう!」
「占えるんですか?」
「全然!」
...こういうちょっと不思議な性格も、人を魅了する一つだろう。
「君は最高の配信者になるよ!」
階段に座る私に、そう指を指すみこちは、やっぱり私の憧れだった。
「予言したんだからなれよ! 約束!」
「...うん、なるよ」
なるよ、みこち。
そう言ってくれたなら。
「最高のスーパースターに」
みこちはカリスマそのものなのです。
みこちは梨花が光る原石だと見抜いているらしいです。