公開中
拓也×豪鬼恋愛
わん太
夕暮れのゲームセンター。
格闘ゲームの筐体が並ぶ薄暗い店内で、
人だかりができていた。
「また勝ったぞ……」
「28連勝!?」
「誰なんだあの赤髪の男……」
筐体の前に座る男は、圧倒的だった。
赤く逆立った髪。
鋭い眼光。
腕を組んだだけで周囲が静まり返る威圧感。
豪鬼。
彼は現代社会に馴染めずにいた。
拳を極めても、
オンライン対戦のラグには勝てない。
殺意の波動をまとっても、
店員から「連コインはご遠慮ください」と注意される。
そんな中。
「そこ、どいてくれる?」
背後から声がした。
豪鬼が振り向く。
そこにいたのは、
パーカー姿の青年(見た目40代)だった。
長い睫毛。
眠たげな目。
ギリシャ彫刻のようなガタイ
彼の名は、拓也。
だが界隈では、
“悶絶少年専属調教師”という奇妙な肩書きで知られていた。
「俺もやるから」
豪鬼は無言で席を立つ。
対戦開始。
Round 1。
拓也の操作するJPが、
豪鬼を翻弄した。
トリグラフ
ラヴーシュカ
投げ抜け。
完璧な間合い。
豪鬼の眉がわずかに動く。
「……ほう」
Round 2。
豪鬼は本気を出した。
瞬獄殺。
画面が暗転する。
周囲がざわめく。
――だが。
拓也は避けた。
店内が静まり返る。
豪鬼の目が、初めて驚愕に染まった。
「貴様……何者だ」
拓也はポケットに手を入れたまま、ふっと笑う。
「別に。ただ、人のクセ読むの得意なだけ」
その笑顔を見た瞬間。
豪鬼の胸が、
どくん、と脈打った。
(この感覚……)
戦慄ではない。
殺意でもない。
もっと静かで、
もっと危険な感情。
恋だった。
数日後。
豪鬼はなぜか、
拓也の働く小さなカフェに通うようになっていた。
カラン、とベルが鳴る。
「あーらいらっしゃい」
拓也は苦笑する。
豪鬼は無言でうなずく。
毎回注文は同じ。
「とりあいずびーるで」
ただし飲むたび、
「苦い」
と顔をしかめる。
「じゃあカフェラテにしなよ」
「軟弱な飲み物だ」
「でも毎回苦しそうじゃん」
「…………」
拓也は吹き出した。
豪鬼は黙る。
だが耳だけ、少し赤かった。
雨の日。
店が閉まったあと、
二人はアーケードを並んで歩いていた。
「豪鬼ってさ」
「なんだ」
「ほんとは優しいよね」
足が止まる。
豪鬼は長い沈黙のあと、
低く答えた。
「……優しさなど、拳を鈍らせるだけだ」
「でも俺には、ちゃんと優しい」
拓也はそう言って、
豪鬼の手にそっと触れた。
巨大で、
傷だらけの拳。
人を倒すためだけに鍛えられた手。
その手を、
拓也はまるで宝物みたいに握った。
豪鬼は振り払えなかった。
空を見上げる。
雨がネオンに滲んでいる。
「……貴様は妙な男だ」
「今さら?」
「俺を狂わせる」
拓也は少し笑ってから、
静かに答えた。
「じゃあ責任取るよ」
その瞬間。
豪鬼の中で、
長年積み上げた修羅の心が、
音を立てて崩れた。
彼はそっと、
拓也を抱き寄せる。
世界を壊せるほどの腕で、
壊れ物みたいに優しく。
アーケードの隅で、
誰にも気づかれず。
鬼は初めて、
“守りたい”という感情を知った。