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日常11:暑い日は続く
夏の午後の廃屋は、まるでサウナの中にいるような息苦しさでした。
湿り気を失った空気はカサカサに乾き、穴の空いた壁からは、アスファルトが焼けるような熱気だけが容赦なく流れ込んできます。
らこは、ボロボロの床に這いつくばるようにして、窓の外の濁った空を見上げました。
「……あつい……。最近、雨も全然降らないね……」
陽キャでいつも元気な彼女の声も、今はからからに乾いて、砂がこぼれるような響きでした。
その隣で、末っ子のこのみが、膝を抱えて小さく震え始めました。目からは大粒の涙がこぼれ、赤く火照った頬を伝っていきます。
「……あついよぉ……。お腹も空いたし、喉もカラカラだよぉ……」
このみの泣き声は、蝉の鳴き声に消されてしまいそうなほど弱々しいものでした。
10歳になったばかりの彼女にとって、この過酷な暑さと絶え間ない空腹は、もう限界に近いものでした。
「……このみ……」
しおんが、そっとこのみの肩に手を置きました。
いつも冷静なしおんも、額にびっしょりと汗をかき、表情には隠しきれない疲労が滲んでいます。自分だって泣きたいくらい苦しいはずなのに、震える妹の肩に触れるしおんの手は、どこまでも優しく、そして必死でした。
「……ごめんね。もっと涼しいところに連れて行ってあげられたらいいのに……」
しおんは、空になった水筒を逆さまにして、一滴でも水が出ないか確かめましたが、出てきたのは虚しい空気だけでした。
「……ううっ、ケーキなんて、一生買えないよ……。私たち、ここで干からびちゃうんだ……」
このみの絶望的な言葉が、部屋の中に重く沈みます。
一階で片付けをしていたつばさが、その声を聞きつけて階段を駆け上がってきました。
4人の視線が交差します。
つばさは、泣きじゃくるこのみと、力なく項垂れるしおん、そして空を見上げるらこの姿を見て、唇を強く噛み締めました。
「……みんな。ちょっと待ってて」
つばさは、部屋の隅にある「雨漏り受け用のバケツ」を手に取りました。
中には、昨日、ポケモンセンターの水道でこっそり汲ませてもらった水が、ほんの少しだけ残っていました。
「……このみ。ほら、これ」
つばさは、ボロ布をその水で湿らせると、このみの首筋にそっと当てました。
「ひやっ」とした感触に、このみがびくりと肩を揺らします。
「……冷たい?」
「……うん。……ちょっとだけ、冷たい……」
このみは涙を拭い、わずかな冷たさを必死に吸い込むように目を閉じました。
4人は、たった一枚の湿った布を、代わりばんこに肌に当てました。
「……明日も、センターに行けば、冷たいお水が飲める。ジョーイさんに、栄養ラムネももらえるかもしれない」
つばさは、自分に言い聞かせるように、そして妹たちに誓うように言いました。
「だから、今は……今はこれだけで我慢しよう。ね?」
先の幸せなんて、今はまだ、逃げ水のように遠くて見えません。
夏の酷暑の中、4人は身を寄せ合い、たった一枚の湿った布の冷たさを、命の綱のように分け合うことしかできませんでした。