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PRAY 「空の涙 祈り~主の導きを」
hiouph9pu
男は兵士であった
名は無いが ひどく臆病で勘が良いため
心とは裏腹にいつも生き残った
周りの仲間は 時に死神とたたえ
あるいは 人でなしと揶揄した
大義なき戦争が終わり もうすぐ国に帰れるある日のことである
行軍中に 男は白い小さな花を見つけた
この花は故郷に良く咲く花であった
常なれば 一瞬の警戒も解かない男であったが
思わず気を緩めた
今は亡き故郷
優しさに満ち溢れた母の手のぬくもり
厳しさと威厳に満ちた父の背中
暖かく優しさに満ちた家族との想い出
それを思い出したのだ
腰をかがめ 片膝をついた
誓いを立てるように
そして その花びらに そっと指先で触れた
雑草やもしれぬが
この乾いた大地に咲く小さな命に 敬意を示したのだ
抜くことなど まかりならぬ
その刹那 狙いすましたように ヒュン!と鋭い音が抜けた
男は胸を押さえ 地面に大きな音を立て 前のめりに倒れた
倒れる刹那 花が傷つかぬよう 力を振り絞った
他の仲間たちは 散開し 男から距離をとった
忌々しい時間が流れていく
男は力なく 花に必死に手を伸ばす
もう決して届くことはない
しかし あの花に触れたいのだ
その時 仲間の制止を振り切り 衛生兵が飛び出した
仲間を見捨てるなど あいならぬ
自分の職務は 傷ついた仲間を救うことである
衛生兵は男を抱き起すと必死に手当てを始めた
もう助かることはないのは 分かっている
それでも手を止めることなどできぬ
自分がやらずに誰がやるというのか
男は血を吹き出しながら 口をパクパクと開いた
お前まで死ぬことはない そう言っているのだ
衛生兵は怒ったように首を振った
こんなひどい戦争で死ぬことはない
必ず生きて帰るのだ
奇跡は起きるのだ と
男は花に目を送り 手を必死に伸ばした
逢いたいのだ もう会えることはできぬ 家族に
衛生兵は 花を抜こうとする
その刹那 男は 最後の力を振り絞り 衛生兵を止めた
それを最後に男は動かなくなった
男の血が あの白き小さな花に流れ 真っ赤に染まっていく
衛生兵は無念と怒りから 地面を激しく殴りつけた
何度も 何度も 何度も
こぶしから 血が噴き出すほどに
その時 狂ったように 叩きつけるように 雨が降り出した
雨は 男の血を洗い流し
血で染まった花を 清めていった
衛生兵は しばし呆然としていていたが
空を仰ぎ 立ち尽くした
そして祈りを唱え始めた
この男の魂が 迷わぬように
どうか 御国にたどり着けますように と
すると 激しい稲光とともに 雷鳴が響き渡った
「アーメン・・・主よ、お導きに感謝いたします・・・」
衛生兵は十字を切ると 深く頭を垂れた・・・。
終